LIFEライフ

SBSラジオ ゴゴボラケ

【クラシックコンサートの作り手】静岡、浜松には老舗の音楽団体が存在する!小澤征爾さんを招聘した秘策とは?40年にわたる活動を振り返ります

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「クラシックコンサートの作り手」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年5月8日放送)

(橋爪)静岡、浜松両市で市民グループが創設した二つの音楽団体が、ともに41年目のシーズンに入りました。親子で楽しめる本格的なクラシックコンサートを提供したいという願いのもと1983年に発足した「静岡音楽友の会」と「浜松音楽友の会」。両市の音楽文化の担い手としての自負を胸に、さらなる活動充実を期しています。

(山田)今日はクラシックコンサートの話ですか。

(橋爪)はい。演奏する側じゃなくて、コンサート作る側の話ですね。

(山田)作る側?

(橋爪)音楽コンサートってどういう人が作ってるってイメージですか?

(山田)演奏者をブッキングする人、舞台監督、あと音響を調整するPAさんとかですね。

(橋爪)まず主催者がいまして、それはいわゆるプロモーターやアーティストを抱えた音楽事務所、制作会社だったりします。それから、公共施設、例えばグランシップ、静岡音楽館AOI、アクトシティ浜松などがあります。正確に言うと公共施設の指定管理者が主催する形が多いですね。

(山田)言われたらわかります。

(橋爪)今、挙げた2つの音楽友の会はそれとちょっと違うんですが、どこが違うかわかりますか。

(山田)わかりません。

(橋爪)プロモーターなどは、それを「なりわい」にしている方々ですよね。ところが、「静岡音楽友の会」と「浜松音楽友の会」はぜんぜん違うんです。どちらも、約40年前に当時「主婦」だった皆さんが立ち上げて、運営を続けています。

コンサートを運営したことがなかったような人たちがグループを立ち上げ、40年以上続いているというのがすごいですよね。

(山田)確かにすごいですね。

(橋爪)両団体とも2023年度がちょうどコンサート開始から40周年でした。2024年度から41年目のシーズンに突入したので、その節目に合わせてテーマに取り上げてみました。

年間4〜5回の公演が低価格で楽しめる!

(橋爪)この2団体は別組織ですが、演奏会の名称には同じ「四季のコンサート」を使っています。どちらも数千円の年会費で年間4〜5回の良質なクラシックコンサートを提供するということをポリシーにしていて、主な会場として静岡音楽友の会は静岡音楽館AOI、浜松音楽友の会はアクトシティ浜松を使っています。

(山田)有名な会場を使ってるわけですね。

(橋爪)音楽好きの方なら一度は足を運んだことがある会場ではないかと思います。この2つの団体がどれだけ偉大なのかということを説明するために、ここに1冊の書籍があります。

(山田)「クラシックコンサートをつくる。つづける」という本ですか。

(橋爪)「地域主催者はかく語りき」という副題がついています。水曜社から2017年に出版された本なんですが、地方で定期的にクラシック演奏会を開いている民間の団体が8つ紹介されています。そのうち2つが静岡、浜松の両音楽友の会なんです。

本を読む限り、最も古いのは1963年に第1回演奏会を行った千葉県の木更津音楽協会ではないかと思います。ただ、静岡と浜松の両音楽友の会はそれに次いで古いです。

(山田)へぇー。歴史があるということですね。

(橋爪)この本の巻末に「地方民間主催者・サロン・小規模ホールリスト」がついていて、この中の「地方民間主催者や地域鑑賞団体」として挙げられているのが、静岡県では静岡音楽友の会と浜松音楽友の会です。このリスト、他県をみると東京、神奈川、北海道を除いて、複数の名前が挙がっている府県は静岡以外ありません。手弁当のクラシック鑑賞団体がいかに珍しいかということがおわかりいただけるかと思います。

(山田)ということは、われわれが住んでる静岡県は気軽に良いコンサートを観に行ける環境にあるということですね。

(橋爪)まさにその解釈でいいんじゃないでしょうか。両団体について、私はここ10年ぐらい折に触れて取材しているので、その時のエピソードなどを踏まえてお話させていただきますね。

主婦約10人から始まった!

まずは成り立ちですが、「親子で楽しめる良質なクラシック演奏会を低料金で提供したい」という願いが発端なんです。「静岡音楽友の会」の代表を務める三城苑子さんが発案して結成に至りました。

1980年代初頭、三城さんは子育てしながらピアノの指導をしていたんですが、当時は「子連れで入れる演奏会がない」という現実がありました。

(山田)僕はいまだにクラシックコンサートは敷居が高くて、当然子連れではだめなのかなと思ってしまいますけど。

(橋爪)三城さんはそういう問題意識の中で、自ら母親仲間約10人と託児サービス付きの演奏会シリーズを始めたんです。

 「浜松音楽友の会」の方はどうかと言うと、静岡の姉妹団体のような存在として誕生しました。三城さんが、大学の後輩で当時浜松市内の高校でピアノの講師をしていた安倍紀子さんに「浜松でもやってみたら」と声をかけたのがきっかけだそうです。1983年に発足し、実際にコンサートを始めたのは1984年からとなっています。

(山田)僕が生まれる前ですよ。

(橋爪)そうか、そうですよね。

(山田)そう考えるとすごいですね。

(橋爪)最初は年会費4000円で春夏秋冬4回のコンサートに参加できるという形式でした。

(山田)実質、1回1000円ですね。

(橋爪)これは事務局のメンバーがボランティアで働いていて、会費をほぼ全て演奏者の出演料と会場経費に充てられるからこそ実現しています。

(山田)それで賄えるんですか?

(橋爪)会費が安いから演奏する人もそれほどネームバリューがない人が来ているのかなと思ってしまいますよね。でも、実は出演者はすごいんですよ。

初期は両団体共同で出演者の招聘を行っていたこともあったので、あえて団体名を取り払って名前を挙げますが、かなり驚きの名前が…。まずは小澤征爾さん!

(山田)えー⁉。

(橋爪)今年2月6日に88歳で亡くなりましたが、1987年3月に静岡市民文化会館で演奏会をしています。学生オーケストラを率いて出演しましたが、その時のソリストはまだ無名だったオーボエの宮本文昭さんでした。

さらに、列記しますと、ピアノの仲道郁代さん、作曲・識者の中田喜直さん、フルートの金昌国さん、ピアノの小山実稚恵さんと清水和音さん、バイオリンの長尾春花さん、ソプラノの 鮫島有美子、ハープの吉野直子さん、などなど。クラシックファンならずとも名前を知る人がこぞって出演しているのです。

どうしてこれが実現できるのかという話ですよね。

(山田)ですよね。

“熱意”と”手紙”で著名な演奏家を口説く!

(橋爪)三城さんにいろいろ聞いたんですけど、会のコンセプトを懇切丁寧に説明するのだそうです。家族で聴けるようなコンサートを作りたいんだ、子供から高齢者まで幅広い世代に聞いてもらいたいんだ、と。

それに、アーティストが演奏したい曲目を演奏してくれていいですというような話もすると。そうすると承諾を得られることが多いんだそうです。

(山田)へぇー。

(橋爪)さらに、三城さんに出演交渉の秘訣を聞いたことがあるんですが、「手紙を活用する」とおっしゃっていました。

(山田)なるほど。

(橋爪)自分たちの熱意をしたためて音楽家に直接送付すると、ほとんどの方が応えてくれると。

(山田)テクニックですね。

(橋爪)小澤征爾さんにも同じような形で手紙を書いたそうです。

(山田)「それなら」ってことで来てくれたわけですか。

(橋爪)「もし先生が静岡に来て下さったら、この会は10年続きます」と書いたそうです。そうしたら来てくれたと。

(山田)そして40年続いていると。

(橋爪)40年たった今も両団体は会員に支えられています。静岡は300人超、浜松は1000人超の年間会員がいらっしゃいます。会場の規模の差もあって、会員数の違いになっています。新年度の会員をそれぞれまだ募集しているので、ここでちょっとご案内してもいいですか?

(山田)お願いします。行きたい、会員になりたいという方もいると思いますので。

今からでも間に合う注目の公演は?


(橋爪)静岡音楽友の会は全て静岡市葵区の静岡音楽館AOIが会場です。2024年度は3月5日の三浦謙司さんのピアノリサイタルは終了していますが、5月17日にテノール中鉢聡さん、7月10日にロシア生まれのチェリスト、パヴェル・ゴムツィアコフさん、9月26日に浜松市出身のサキソフォン奏者須川展也さん、10月31日はバイオリニストの堀米ゆず子さんのリサイタルがあります。豪華なメンバーですね。

入会は当日の会場などいつでもできます。基本的には年会費6000円で5回コンサートに入場できますが、すでに1回終わっているので、例えば5月17日に入会される場合は「残りのコンサート代・1000円×4と維持費1000円で計5000円という形にできるということでした。学生の方はさらに低廉な価格に設定されています。

続いて浜松音楽友の会。こちらの会場は全てアクトシティ浜松中ホールです。新規入会受付中ですが、あと数名とのことです。

(山田)そうなんですね。定員があるんですね。

(橋爪)今年度は4月10日にチェロの宮田大さんとギターの大萩康司さんのデュオリサイタルが終了。7月24日に亀井聖矢さんのピアノリサイタル、 10月11日に森野美咲さんのソプラノリサイタル、 12月8日に須川展也さんのサクソフォンリサイタルが控えています。

こちらはまず電話なりメールで入会の手続きをしてほしいとのことです。全4公演のチケットがセットになっていて年会費7000円。4月の公演は終わっているので、今年については今から入会だと「全3回で7000円」です。ただ、これでも相当安いと思います。入会の手続きをすると、チケットと振込用紙が送られて来るので、それで年会費を入金し、申し込みが完了します。

浜松音楽友の会は事前に入会手続きが必要ということなので、問い合わせ先の電話番号をお伝えします。浜松音楽友の会<080-4961-8166>です。ウェブサイトもあるので、そこからメールで申し込むこともできます。

(山田)クラシックコンサートが好きな方はもちろんですけど、興味はあるけどどの公演から足を運んだらいいかわからないという方には最適ですよね。

(橋爪)本当にハードルが低いと思います。私も静岡音楽友の会の会員なのでよく鑑賞に行きますが、気軽に観ることができます。

(山田)会員になれば静岡県内で良質なコンサートを気軽に観ることができるということですから、皆さんぜひチェックしてみてください。今日の勉強はこれでおしまい!

SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!

あなたにおすすめの記事

RANKING