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【野外音楽フェス「頂」の足跡】ついにファイナル。観客がつくる雰囲気が最高に気持ちいい!過去には節目の重要局面が!

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「野外音楽フェス『頂』の足跡」。先生役は静岡新聞の橋爪充教育文化部長が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年3月20日放送)

(山田)今日は音楽の話題ですね。

(橋爪)静岡を代表する野外音楽フェスティバル「頂」が、ことしの開催を最後とする、というニュースです。

(山田)静岡ではおなじみのフェスがことしラストイヤーを迎えるということですか。これはもう衝撃ですね。

(橋爪)はい。ことしは6月1、2日に開催するということが発表された後だったので、すごくびっくりしました。主催者の小野晃義プロデューサーは「世の中のさまざまな状況、自分自身の体力の低下を踏まえ、今年の開催をもってファイナルとすることに決めた」とコメントしています。これは想像ですけど、ご自身の中でいろいろな思いが1つ完結したというところもあったのかなとも思います。

(山田)歴史を振り返ると、最初は静岡市の日本平でやってましたよね。

(橋爪)よくご存知ですね。「頂」は県内屈指の古株野外フェスなんですよ。最近、主催者は「パーティー」という言い方をしていますが、ここでは便宜上野外フェスという言い方をしますね。

全国の音楽ファンに一目置かれていて、毎年全国から2日間で1万人以上が集まります。開催場所は吉田町の吉田公園。10年以上続いている野外フェスが「今年で終わりにします」と事前に発表することは、結構珍しいんです。

(山田)そうなんですね。

(橋爪)なんとなく終わってしまうとか、さまざまな事情でできなくなってしまうということが多いんですけどね。

(山田)ある意味で、きちんと終わらせようということですかね。

(橋爪)そういう意図があるんだと思います。今日は、この「頂」の歴史をたどりながら、このフェスがなぜ特別視されているのかをお伝えします。

(山田)お願いします。

(橋爪)私事で恐縮なんですが、私は2008年の秋に静岡に移住しました。なので、その年に初開催された第1回の「頂」は見ていません。ただ、2009年の第2回以降は、業務であるなしに関わらず、毎年必ず会場に足を運んでいます。静岡新聞社・静岡放送の中では、たぶん2番目にこのフェスティバルをつぶさに見ている人間だと思います。

(山田)最初は2008年だったんですね。

(橋爪)2008年6月に始まっています。今は吉田町の吉田公園で開催されていますが、このときは静岡市清水区の日本平ホテル野外庭園が会場でした。

(山田)新しくなる前の日本平ホテルですね。

(橋爪)当時も「頂」という名前がありましたが、「日本平大音楽祭」という副題がついていました。

全国に広まった「ローカルフェス」の火付け役

(橋爪)これが2024年6月で幕を閉じることになるんですが、ここまで18年。結論から言うと、これは奇跡と言ってもいいことなんです。なぜかと言うと、「頂」はアーティストのブッキングから、会場づくり、当日の運営まで、ほぼ全て静岡の人たちがやっているからなんです。

東京発信の野外フェスティバルが多い中、これだけ「ローカル」なのに世界的なアーティストもたびたび出演しているフェスティバル、それが20年近く続いている。この点が、全国のフェス関係者や音楽好きから尊敬を集めている理由だと思います。

(山田)全国各地で野外フェスが増えた時期がありましたけど、その火付け役になったとも言えそうですね。

(橋爪)あると思いますね。野外フェスは現在、日本全国で約300あります。

(山田)そんなにあるんですか!

(橋爪)調査会社のぴあ総研が調べていて、数字を出しています。2020〜21年はコロナ禍でガクッと落ち込みますが、2023年と2024年はおそらく完全に回復するだろう、と予想されます。要するに今は動員面でも好機で、今後も続けていけばまた新しい歴史が紡げる可能性がある中で、あえて「ことしで終わりにする」と宣言したのは、ある種の潔さみたいなところも感じます。

(山田)いろいろなフェスがありますけど、静岡の人たちが作っていて、しかも、トップレベルのアーティストが来るということ以外にも特徴はありますか?

(橋爪)完全に吉田町のシティプロモーションになっています。

(山田)なるほど。

(橋爪)私、毎年の「頂」で駐車場の車のナンバーをチェックするんですが、7〜8割が県外ナンバーなんです。来場者に取材するとたいてい、「頂」に来ることになって、初めて「吉田町」を知ったという答えが返ってきます。「吉田町」と「頂」をセットで覚えていただいているので、そういう役割もすごく大きいと思います。

(山田)吉田町にとってもいいことですね。

(橋爪)そうですね。吉田町も2019年からふるさと納税の返礼品として「頂」の入場チケットを活用したりしています。

(山田)そうなんですね。それは知りませんでした。僕も良い意味で吉田公園は「頂」の場所というイメージがあります。

「たばこ1本、芝生に残さない」。熱意ある宣言が「頂」を生んだ!

(橋爪)そんな「頂」ですが、2008年からこれまでに重要局面となる年がいくつかありました。それを挙げていきます。

(山田)お願いします。

(橋爪)過去の取材ノートをベースに話しますね。まずは、このフェスがこの世に生まれた2008年ですね。実は「頂」には前身があります。2003年と2007年に旧由比町で開催した「浜石まつり」というイベントです。

主催者の小野さんたちは、さらにスケールの大きいイベントを開きたいと思って、建て替える前の日本平ホテルの野外庭園をターゲットにしました。ただ、やらせてくださいと言っても簡単にやらせてもらえるわけではありません。

(山田)そうですよね。

(橋爪)日本平ホテルは1987年に数万人を集めたアルフィーのコンサート以降、本格的な音楽イベントに敷地を貸していなかったんですよ。それを、説得したんです。これは熱意ですよね。小野さんに以前取材した時に、どうやってホテルを説得したのか聞いたら、「見ていてください。たばこ1本、芝生に残しませんから」と宣言したそうです。

実際にその通りになったことで信頼を得て、次の年もその次の年も開催することになります。これが最初の重要な局面だったと思います。

重要局面その2!それは2011年です。この年から吉田町の吉田公園に会場を移します。ただ、ご存じのようにこの年の3月に東日本大震災があって、主催者は開催の是非について、かなり悩んだと聞いています。吉田公園は海の近くなので、何かあったときにどのように避難させるのかということも含めてだと思います。

ただ、開催を決断してふたをあけたら延べ1万人以上の観客が来たんです。日本平のときはなかった数字で、吉田町で毎年開催することが確定するような出来事だったと思います。この年は、出演者が登場する直前にティピィが倒壊する、という“事件”もありました。

新型コロナからの復活、台風による中止決定後におきた奇跡…


(橋爪)次の重要局面は2020年から2022年です。ご承知のように新型コロナウイルスの感染拡大によって2020年と2021年は開催できなかったんです。主催者も大きな資本をバックにやっているわけではないので、復活できるのだろうかということを心配していたんですが2022年、見事に3年ぶりの開催を果たしました。駆けつけたお客さんも出演したアーティストもみんな「復活おめでとう」と言っていて、会場の一体感がすごく印象に残っています。

(山田)僕もその年に行きました。

(橋爪)そして2023年ですよ。開催の数日前に台風が接近して直前に中止を決めたんです。前日の天候悪化が予想され、必要十分な会場設営が見込めないことなどが理由でした。

この時、がっかりしたファンのために、主催者が粋な計らいをしてくれたんです。本来であれば音楽祭2日目の最後に演奏するはずだった大所帯バンド「渋さ知らズオーケストラ」が、出演予定だった日に公園駐車場で無料ライブを実施。500人ぐらいが集まりました。

(山田)その時、出演者用のケータリングとかも準備してしまっていたから、集まったお客さんに振る舞ったという話もありましたね。

僕は当時、「頂」のSNSを担当しているスタッフに「中止になって残念だったけど、『渋さ知らズオーケストラ』が来て良かったね」と連絡したんです。そのスタッフも放心状態で、返信があるまで4、5日かかったんですけど、「いろいろな思いがあって」という話をしていました。

(橋爪)30人ほどで演奏したんですけど、その中には既に東名高速道路に乗って東京に帰ろうとしていたメンバーもいたんですよ。だけど、リーダーからの連絡を受けて引き返してきたそうです。当日は天気も良くて、あの光景は一生忘れないです。

(山田)そんな「頂」もことしがファイナルイヤーということになりますね。

(橋爪)「頂」は音楽好きがたくさん集まっているという雰囲気に溢れていて、とても居心地がいいんですよね。お客さんがみんな「居心地がいいフェスだ」と言うんです。私は「その空気を作っているのはあなた方だよ」と言いたいですね。

(山田)なるほど。やはり、最初の年に「たばこの吸い殻1本残しません」と宣言した主催者がやってきたことが、お客さんにも浸透してクリーンな現場になっているという感じですよね。

(橋爪)この場をどのように整えようかということが主催者とお客さんとの間で共有できていて、すごく美しいと思うんですよね。

(山田)最後なのは残念ですけども。

(橋爪)改めてお伝えしておくと、ことしの開催は6月1、2日。第2弾まで出演アーティストが発表されていて、昨年来るはずだったフィッシュマンズが出ることになりました。さらに、2008年の第1回に出ていたGOMA & The Jungle Rhythm Section、Rickie-G、EGO-WRAPPIN’、栗コーダーカルテットなどなど。「頂」にとっておなじみの出演者がそろいました。

(山田)間もなく夏が始まりますね。楽しみです。今日の勉強はこれでおしまい!

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