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没後10年……挫折からの大逆転劇だった、スティーブ・ジョブズの人生に学ぶ

たった3人でスタートしたアップル・コンピューター

世界的なIT企業、アップル(Apple)の共同設立者の1人であるスティーブ・ジョブズが亡くなってから、10年。56年という短い生涯でしたが、ジョブズが亡くなる直前、アップルは時価総額世界一となり、10年後の今も260兆円と圧倒的な世界一の企業であり続けています。ですが、その人生では何度も挫折を経験しているそうで……、ジョブズのすごさはどこにあるのでしょうか。

詳しい話を、経済・経営ジャーナリストで、スティーブ・ジョブズについての本も書かれている桑原晃弥さんにうかがいます。
※10月6日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。

アップルはどのように誕生した?

桑原さん:1976年、21歳のスティーブ・ジョブズと5歳年長のスティーブ・ウォズニアック、ジョブズの同僚でその後すぐに経営から離れることになるロン・ウェインの3人が、1000ドルあまりのお金を出し合って創業したのがアップル・コンピュータです。当時の目的は、世の中にマニア向けのパーソナルコンピューターが出始めた時期で、天才技術者ウォズニアックがつくった「アップルⅠ」というコンピュータをマニア向けに販売しようというものでした。

最初は、ジョブズの自宅ガレージで「アップルⅠ」をみんなで組み立てて売る程度の小さなビジネスでしたが、翌77年にジョブズを高く評価する投資家のマイク・マークラが経営に参加し、「アップルⅡ」が爆発的にヒットしたことでアップルは急成長、80年には株式公開しています。ジョブズは「自力で成功した史上最年少のお金持ち」としてマスコミの寵児となります。その後、84年に「世界を変えたコンピュータ」とも呼ばれた「マッキントッシュ」を開発することで大きな注目を集めます。

牧野アナ:マイクロソフトのビル・ゲイツとの関係はどうだったんですか?

桑原さん:ビル・ゲイツはジョブズと1歳違いで同じ頃にマイクロソフトを創業していますが、アップルのためにソフトを提供したり、互いに認め合いながらライバルでもあるという関係でした。

アップルからの追放と新会社設立

牧野アナ:ビル・ゲイツとジョブズがコンピューターの世界を創生期から作ってきた印象があります。ですが、ジョブズは一度、アップルから追放されているんですよね?

桑原さん:当時、コンピューター業界の巨大なライバルIBMとの戦いに勝つために、83年にジョブズはジョン・スカリーという経営のプロをスカウトします。当初は2人の関係はとても良好でしたが、「マッキントッシュ」の売れ行きが少し落ちると関係は悪化、85年にスカリーによってジョブズはアップルを追放されてしまうんです。

すでに莫大な資産を築いていたジョブズには悠々自適の道もありましたが、本人は「ものをつくることが大好きだった」ので、85年にコンピュータ会社の「ネクスト」を創業、そして86年にはジョージ・ルーカスから「ピクサー」を買収します。その時の「ピクサー」はCGは作っていたのですが、彼らが作りたかったCGで映画を作ることは実現できずにいました。

そこから両社とも10年近くにわたって赤字を垂れ流し、ジョブズは大変な苦労をしますが、95年にピクサーが発表した世界初の長編のフルCGアニメ「トイ・ストーリー」が世界的に大ヒットしたことで、それまでの苦労が報われます。

アップルへの復帰

ちょうどそのころ、アップルは経営が非常に悪化していて、コンピューターを動かすための優秀なOSを探していました。そこで、ジョブズの会社「ネクスト」のOSを必要としたアップルが、OSだけでなく「ネクスト」の買収を提案、同時にジョブズにも復帰を依頼しました。

牧野アナ:一度追放した人に戻ってきてくれというアップルもすごいですね!

桑原さん:そうですね、当時ジョブズも映画がヒットしたことで、リスクをとるか迷いました。しかし、自分にとってはものを作ること、アップルが大好きだということで、悲惨な状況なんですが、そこに戻っていくことになります。

「世界を変える製品をつくる」という意識

牧野アナ:1996年にアップルに復帰してから、iPhoneなどの大ヒット商品が生まれたんですよね! ジョブズが商品開発するうえで大切にしていたことは何ですか?

桑原さん:ジョブズは97年にCEOとして完全復帰しますが、そのときのアップルは、ジョブズがいたころのような「世界を変える製品をつくる」夢を完全に失い、社員たちも希望を失くしていました。そこへ「企業で大切なのは売上や利益以上に、すごい製品をつくることなんだ」という意識をきちんと持ち込んだことによって、アップルは復活します。

98年にiMacを発売し、その後、iPodやiPhone、iPadといった世界的ヒット製品を連発します。そのときにジョブズが次の4つを大切にしてアップルを復活させて、世界一の大企業へと導くことになります。
1. 他社の模倣はしない
2. 自分たちが心の底から使いたいと思う製品をつくる
3. 製品の見えない部分にまで細心の注意を払う
4. 過去の製品が遺物になるほどの革命的な製品をつくる

牧野アナ:挫折からの大逆転劇! そんなジョブズが残した印象的な言葉を教えてください。

桑原さん:ジョブズは言葉の天才なんです! 私が大好きな言葉を紹介します。

1.「点が将来何らかの形で結びつくと信じなくてはいけません。信じるものを持たなくてはいけません。」

桑原さん:ジョブズは大学を1学期だけで中退していますが、その後もしばらくは大学に残って関心のある授業だけ受けています。そのときに学んだのが書体に関する知識です。本当は何の役にも立たないはずだったのに、マッキントッシュを開発している時に「パソコンにも多様な美しい書体が必要なんだ」と考え、パソコンに美しい書体を持ち込むきっかけになりました。

牧野アナ:確かに初期のパソコンはワープロのながれで、楷書で書かれているものが多い印象ですが、マッキントッシュによってさまざまな書体がでてきたんですね。

桑原さん:ジョブズはそのときの経験をよく話しています。自分がやっていることで「これは何の役に立つんだ」という経験がたくさんありますが、そういう経験もどこかでいつか役に立つ、つながっていくんだという思いを持っていると、必ずそれが力になっていく。だから人生を生きていくときには「点と点が結びつくんだ」と信じれば、しんどい経験やつらい経験もきっと役に立つ、と言っています。

2.「今は大変な時期だけど、でも人生は続く。続けなきゃいけないんだ。」

桑原さん:これはアメリカの「9.11」直後の言葉ですが、ジョブズはアップルから追放されて一時期「アメリカで最も有名な失敗者」と呼ばれたり、会社が赤字続きの時期があったりと大変な経験をしています。しかし、それでも決して諦めることなく、自分の大好きなものづくりを続けたことで、栄光の時代につながりました。みなさんも今、大変な時期を迎えていますが、そういうときでも決してあきらめずに、人生を自分の大好きなことをやりながら一生懸命やっていこうと、それがいつか大きく実るんだよと言っています。

牧野アナ:今、コロナ禍で大変な思いをしている人がたくさんいるなかで、スティーブ・ジョブズからの学びが心の支えになってくれるかもしれません。今回はありがとうございました。
 
今回、お話をうかがったのは……桑原晃弥さん
広島県生まれ。慶応義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問としてトヨタ式の書籍の制作を主導。一方でIT企業の創業者や渋沢栄一など、起業家の研究をライフワークとしている。著書に『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP)、『トヨタ式「すぐやる人」になれる8つのすごい!仕事術』(笠倉出版社)など多数ある。
 

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