要配慮者 受け入れ断念 能登地震 福祉避難所 広域支援、平時に整備を【表層深層】

 能登半島地震の被災地で福祉避難所の開設が進んでいない。施設が損壊、断水で衛生状態が悪化し、職員も避難を迫られて逼迫(ひっぱく)-。過去の災害で指摘された課題が今回も露呈した。要配慮者の受け入れを断念せざるを得ない事態も生じ、命を守る支援が求められる。識者は一般の避難所の福祉機能を強化し、自治体の枠を超えた広域的な連携支援体制を平時から整備する重要性を強調する。

福祉避難所として登録されていたが被災で天井が剥がれ落ち、開設できなかった石川県志賀町の施設=7日
福祉避難所として登録されていたが被災で天井が剥がれ落ち、開設できなかった石川県志賀町の施設=7日
福祉避難所の開設が進まない理由
福祉避難所の開設が進まない理由
福祉避難所として登録されていたが被災で天井が剥がれ落ち、開設できなかった石川県志賀町の施設=7日
福祉避難所の開設が進まない理由


 「目の前にいる利用者への対応に精いっぱいで(要配慮者を)受け入れる余裕は全くなかった」。石川県珠洲市の福祉施設の担当者は悔やむ。

 ▽機能果たせず
 施設は事前に福祉避難所として指定されていた。ただ、被災の影響で多くの職員が出勤できなくなり、従来の約80人から20人程度に。70代~100歳代の利用者約100人に泊まり込みで対応したものの、電気や水道などが途絶。十分なケアを行えず、体調が悪化した利用者も出たという。
 利用者を地域外へ避難させることになり、担当者は「福祉施設の機能を果たすことが難しく、福祉避難所の開設どころではなかった…」。

 ▽殺到 
 石川県志賀町の社会福祉法人「麗心会」が町内で運営する施設3カ所はいずれも福祉避難所として登録されていた。うち2カ所は被災で天井が剝がれ落ち、壁にひびが入った。老人ホーム「あやめケアセンター」だけは被害が少なく、福祉避難所として開設できた。
 だが、もともと入所していた約30人や関連施設の約60人に加え、受け入れ想定の20人を大幅に上回る約90人の一般避難者が殺到した。施設内に十分な生活スペースを確保できず、廊下にパイプ椅子やマットレスを敷き詰めて対応した。麗心会の理事長藤田隆司さん(47)は町や関係者から要配慮者8人の受け入れを求められたが「断らざるを得なかった」という。
 一方、同センターに母親(94)、脳梗塞を患う次男(52)、ダウン症の三男(48)と共に一時、身を寄せた平野益美さん(75)は「職員が常駐し食事も提供され安心して過ごせた」と振り返る。

 ▽雑魚寝 
 熊本地震でも福祉避難所の開設は難航。熊本市では施設の破損や職員の被災で受け入れが困難となり、開設協定を事前に結んでいた176施設のうち、開設できたのは82施設だった。熊本地震での災害関連死は218人。うち70代以上は169人で8割を占めた。震災発生から3カ月以内に亡くなった人も全体の8割に上った。関連死をどう防ぐかが焦点となる。
 今回の被災地で支援活動に取り組む北陸学院大の田中純一教授(災害社会学)は、福祉避難所に入るべき高齢者や障害者らが一般の避難所で雑魚寝している過酷な状況だと語る。一般の避難所でも要配慮者に対応できるようにするには、スロープや手すりの設置などバリアフリー化を進め、おむつや福祉用具、段ボールベッドなどを備蓄する必要があり、国が補助するべきだと指摘する。
 開設にこぎ着けた福祉避難所では職員らの人繰りが厳しく、パンク状態という。「平時からぎりぎりで回している職員の確保」も課題に挙げる。災害時に職員らを広域的に募り、被災地へ迅速に派遣できるよう自治体間で協定を結んでおくなど「広域連携体制の整備を平時から国全体で進めるべきだ」としている。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞