江戸期「富士川舟運」の関係性再来は 中部横断道開通1年、見えぬシナジー【清水港はいま①】

 29日に全線開通から1年を迎える静岡-山梨間の中部横断自動車道。いまだ東京港の“引力”は強大だ。清水港の利用促進とのシナジー(相乗効果)が見えにくい中、かつての「富士川舟運」と清水港の関係性を取り戻すすべはあるのか。

江戸時代の富士川舟運の名残で山梨県がいまも土地を所有する巴川河口の土地=8月中旬、静岡市清水区港町1丁目
江戸時代の富士川舟運の名残で山梨県がいまも土地を所有する巴川河口の土地=8月中旬、静岡市清水区港町1丁目
輸入されてきた海上コンテナの積み込みを道路上で待つ大型トラックの長い車列=8月上旬、東京港の青海コンテナ埠頭
輸入されてきた海上コンテナの積み込みを道路上で待つ大型トラックの長い車列=8月上旬、東京港の青海コンテナ埠頭
江戸時代の富士川舟運の名残で山梨県がいまも土地を所有する巴川河口の土地=8月中旬、静岡市清水区港町1丁目
輸入されてきた海上コンテナの積み込みを道路上で待つ大型トラックの長い車列=8月上旬、東京港の青海コンテナ埠頭

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 清水港発祥の地とされる巴川河口に山梨県の土地(約2千平方メートル)がある。「下げ米、上げ塩」に代表される富士川舟運の名残。山梨県などから舟運を経て運ばれた年貢米は馬の背か大八車でこの場所にあった「甲州廻米置場」まで運ばれ、大型船で江戸に運ばれた。山梨県庁が「清水県有地」と呼ぶ敷地内には神社もある。清水次郎長の船宿を復元した「末廣」(清水港船宿記念館)の一部土地も静岡市が山梨県から賃借する。
 300年以上続き、甲州と駿河のつながりの深さを伝える富士川舟運。再来と呼ばれたのが中部横断道の全線開通だった。しかし、清水港のコンテナ取扱数量は開通前に比べて変化は見られず、その真価を発揮しきれていない。
 北東に約135キロ離れた東京港―。ここは日本で最も海上コンテナ取扱数量が多い港だ。国の統計によると、2020年のコンテナ取扱数量は474万TEU(20㌳コンテナ換算個数)と清水港の9倍以上。新型コロナウイルス感染拡大のなか、大手電子商取引(EC)サイトによる輸入拡大で活況を呈す。BtoB(法人向け)中心の地方港はこうした状況から取り残されているとの指摘もある。
 8月上旬の夕方。関税手続きの完了などをチェックし、荷物搬出を許可するゲート閉鎖間際にもかかわらず、青海コンテナ埠頭(ふとう)では輸入コンテナの積載を待つ大型トラックの車列の終わりが見えない。荷物が積めず、「積み落とし」となれば、客に迷惑が掛かる。前橋市のトラック運転手の40代男性は「朝9時半から7時間もスマホをいじって暇をつぶしている。給料は安いし割に合わない」と嘆いた。
 東京都トラック協会海上コンテナ専門部会によると、ライブカメラ映像配信など配車時間の分散化の施策も行われるが、焼け石に水。福岡淳一部会長は「こうした状況は清水港に追い風になるかもしれない」と話す。
 指摘するのは、トラック業界でささやかれる「2024年問題」。働き方改革関連法により24年4月から運転手の時間外労働が年960時間に制限される。サプライチェーンで求められる脱炭素化の動きもある。夏場エンジンを切って車内で待つことはできず、ずっと二酸化炭素(CO2)を排出し続ける。
 ただ、これが決め手になるかは不透明。都内の業者は「労働規制強化がどこまで港湾利用や経済のありようを変えるだろうか」と懐疑的。今年3月に清水港利用促進協会が長野県松本市で初めて開いた「清水港利活用説明会」に参加した農業機械製造会社トップは「混雑が少なく時間が読みやすい利点はあるが、清水港を漁港と思っている人たちはいまも多い」と話す。

 <メモ>2024年問題 ワークライフバランス確保のためトラックドライバーの不足がより深刻になる問題。脱炭素の点からも、トラック輸送がメインの国内輸送を、RORO船(貨物専用フェリー)など内航海運や鉄道輸送に切り替える「モーダルシフト」を目指す動きがあるが、短距離ではコストメリットが生じにくいことなどから進んでいない。

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