時論(8月28日)県製茶条例廃止議論から5年

 サル餌[え]付け禁止条例(栃木県日光市)、トマトで健康づくり条例(愛知県東海市)など、調べてみるとユニークな条例が各地にある。北海道中標津町の「牛乳で乾杯条例」は、掛川市の「緑茶で乾杯条例」(2019年施行)の先輩格か。静岡市は09年、「めざせ茶どころ日本一条例」を制定した。
 独創的な条例には地域の物語が織り込まれている。りんごまるかじり条例(青森県板柳町)は口元が緩む名称だが、無登録農薬の使用による産地イメージダウンの克服を目指した経緯がある。この点、5年前の静岡県製茶指導取締条例の改廃議論が想起される。
 製茶条例は静岡茶の声価維持を目的に、味や色を付ける「添加茶」の製造販売を禁じた。果皮や慶事向けの金箔[きんぱく]などを茶葉に混ぜる場合は知事の許可を必要とした。施行は1956年。当時、戦後復興と茶需要の高まりの中で茶ではない植物の混入など「偽茶」「粗悪不正茶」の横行が問題になっていた。
 その後、手続きが負担だと不評を買い、食品の安全安心に関する法整備が進んだとして県は2017年夏、製茶条例廃止方針を打ち出した。県民意見募集は廃止反対が大勢で、県は当初予定しなかった有識者会議を設置した。
 県担当者にとっても重荷だった製茶条例は結局廃止されたが、添加茶排除などは新たに制定した県茶業振興条例に継承された。つまり「指導取締」は時代にそぐわないということだろう。
 緑茶の海外販路開拓が進んでいる。戒律に従った認証を得てフレーバーティーをイスラム圏に輸出する県内茶商は「個性をアピールできる商品を」と語り、頼もしい。製茶条例の改廃議論が無駄にならないよう、茶業振興条例を形骸化させない施策を求めたい。

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