原点は「本屋に人生を救われた」青年期 掛川の会社経営者「小さな書店」開業 静岡浅間神社近く

 静岡市葵区の静岡浅間神社近くに8月、広さ約30平方メートルの小さな書店が開業した。店頭に立つのは掛川市でウェブデザイン会社を経営する岡田有祐さん(45)。「本屋に人生を救われた」青年期の経験を基に、客が本を通じて新しい世界に出合う場所づくりを決意し、会社の新規事業としてスタートさせた。

岡田有祐さんが選んだ本が並ぶ店内。顧客像は「自分」という=9月上旬、静岡市葵区浅間町
岡田有祐さんが選んだ本が並ぶ店内。顧客像は「自分」という=9月上旬、静岡市葵区浅間町

 書店は「SO GOOD books&styles(ソーグッド ブックス・アンド・スタイルズ)」。ビル1階の店舗に、新刊本約250冊と古本約750冊、店のロゴ入り衣料品が並ぶ。
 売りたいと思った本だけを選んで仕入れ、書棚に置く。デザイン、芸術、生活、音楽といったジャンルがほとんどだ。「自分を表現するリアルな空間を作ろうと思った」と岡田さん。多くの書店にある小説やビジネス書、週刊誌はない。
 県外から藤枝市に引っ越した小学生の頃、ゲーム機を買ってもらえず、代わりに書店通いを始めた。高校時代は一日中、店の中で過ごしたことも。歴史小説からファッション誌まで何でも読んだ。
 東京の大学を中退して将来を模索した20代の頃も書店に入り浸った。そこで出合ったのがデザイン、カルチャーに関する本や雑誌。「『こういう仕事をしてみたい』という強烈な意識が、書店で培われた」。デザインを独学し、ウェブ関連企業に就職。実務経験を積み、2012年に独立した。
 大手企業の電子商取引(EC)サイトを請け負うなど会社は軌道に乗った。多角化を探る中で浮かんだのが、全国で増えてきた小規模の独立系本屋。「自分のように悩みを持つ若い人が勇気を得られる場所を作れれば」。県内外各地の店を回ってイメージを高め、母の出身地でもある静岡市での開業を決めた。
 会社の事業ではあるものの、携わるのは岡田さん1人。店を開けるのも当面は週3~5日の午後のみだ。
 「日常的に使う本屋でなくても、『ここにしかない本を見たい』『岡田と話したい』という人に来てもらえたらうれしい」。人々の“目的地”になることで、地域に人を呼ぶきっかけになれば、と考えている。

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