良いものに「ばったり」出会う経験を 静岡県立美術館「みる誕生 鴻池朋子展」 館内外に作品300点

 静岡市駿河区の県立美術館で開かれている「みる誕生 鴻池朋子展」は、300点に及ぶ作品を館内外に配置している。展示室にはオオカミの毛皮がぶら下がり、美術館の収蔵品と共にハンセン病患者が描いた絵や市井の人々の語りを基に作られた手芸品が並ぶほか、動物のふんの模型がそこかしこに―。現代美術家の鴻池朋子さんは、美術館に“抜け道”を設け、さまざまな存在を招き入れた。視覚以外の感覚を用いて鑑賞できる仕掛けが随所にある。「良いものにばったり出会う経験をしてほしい」。鴻池さんは思いを込める。

展覧会への思いを語る鴻池朋子さん=静岡市駿河区の県立美術館
展覧会への思いを語る鴻池朋子さん=静岡市駿河区の県立美術館
皮トンビ
皮トンビ
アースベイビー
アースベイビー
物語るテーブルランナー
物語るテーブルランナー
展覧会への思いを語る鴻池朋子さん=静岡市駿河区の県立美術館
皮トンビ
アースベイビー
物語るテーブルランナー


 香川県の高松市美術館を皮切りに、静岡県立美術館、青森県立美術館へとバトンを渡していくリレー展です。2020年ごろから各館の学芸員さんたちと対話を続けてきましたが、今も美術館の図面を見ています。それは、元々どのような場所にどのような意図を持って、人工物を造り上げたのか知りたいからです。リサーチすることで見えてくるものがあり、線が描けたり、物や言葉になったりします。

つながる機能
 美術館はバブル期に多く建てられ、次第にまちづくりの中心に据えられるようになっていきます。“名品”を集め、厳重な設備で保管して、視覚的に「見せる」ことで、他より秀でた場所であると誇示しているかのようです。しかし、それは平和で安定した世の中での考え方。災害が頻発し、地球の地盤こそ心配な現代は、美術館は、芸術がどうとかでなく、今を生きるさまざまな人とつながる機能を持つことが大切なのではないかと思います。

裏山にも展示
 ここ静岡県立美術館で展示に向けた打ち合わせをしていた時、担当の学芸員さんが昼休みに歩くという美術館の裏山に連れて行ってもらいました。学芸員さんが仕事の合間に裏山に行って深呼吸できたこと、その時の気持ちを知って、「これで(展覧会が)できる」と思いました。散策路に「皮トンビ」など5点を設置しています。私たちは息抜きできる場と行き来することで平凡な暮らしを楽しんでいることに気づきます。非日常と捉えられてきた美術館も、生活の一部に過ぎないと考え直すことができるのではないでしょうか。
 閉ざされ、守られた環境にいれば、身体は再生していきません。ある作家の個展に紛れ込んでいる物に対して、素直に「良いものは良い」と感じる経験を、今こそ美術館でしてほしいと思います。

 ■会期 2023年1月9日まで(月曜と12月27日~23年1月1日は休館、1月2、9日は開館)
 ■開館時間 午前10時~午後5時半(入場は午後5時まで)
 ■会場 県立美術館(静岡市駿河区谷田53の2)<電054(263)5755>
 ■観覧料 一般1200円、70歳以上600円、大学生以下無料
 ■主催 県立美術館、静岡新聞社・静岡放送

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