リニア工事 県境越えボーリングに厳しい声 「まず田代ダム案議論を」 流域10市町首長の意見交換会

 静岡県庁で11日に開かれたリニア中央新幹線トンネル工事に伴う大井川水問題を協議する県有識者会議の地質構造・水資源専門部会の委員と大井川流域10市町首長の意見交換会では、JR東海が山梨県から静岡との県境を越えて実施する方針を示している高速長尺先進ボーリングについて厳しい意見が相次いだ。多くの首長は湧水の流出対策として田代ダム取水抑制案とセットでの協議を求め、前提として同案の実現性を高める議論を進めるべきだとの考えを示した。

県が懸念する高速長尺先進ボーリングによる地下水流出の概略図
県が懸念する高速長尺先進ボーリングによる地下水流出の概略図
流域市町の首長の主な発言
流域市町の首長の主な発言
県が懸念する高速長尺先進ボーリングによる地下水流出の概略図
流域市町の首長の主な発言

 委員側は首長の質問に答える形で、同ボーリングにより県境付近の破砕帯から大量湧水が発生する懸念などを伝えた。
 北村正平藤枝市長は「水を戻す方法とセットでないと流域は安心できない」と述べ、久保田崇掛川市長は「まずは専門部会で田代ダム案の議論を深めてほしい」と求めた。
 森下祐一部会長(静岡大客員教授)は「(同案を)最重要課題に位置付けてJR東海と対話していく」と述べた。
 一方、染谷絹代島田市長は「調査をすることで破砕帯の状況が分かってくる」などと同ボーリングに理解を示し、「国やJRの考え方も総合的に聞いた上で考えをまとめたい」とした。
 (政治部・尾原崇也)

ダム案「実施の保障は」 首長、東電の姿勢を注視
 大井川流域市町首長と県有識者会議専門部会委員との意見交換会では、JR東海が南アルプストンネル工事に伴い県外流出する湧水の対策として示した東京電力田代ダムの取水抑制案を巡り、首長から改めて期待の声が上がった。一方、東電側が取水抑制の公式見解を示していないため、実施の保障が必要だとの指摘や、工事終了後に流量が減少した場合の補償としても同案の検討を求める意見も出た。
 取水抑制の実現性を巡り、長谷川寛彦菊川市長が「東電が流域市町と覚書を交わすなど、取水抑制案の保障について専門部会で議論してもらえるのか」と質問した。森下祐一部会長は「流域の意向としてJRに伝えたい」と応じた。
 田村典彦吉田町長は、東電が取水抑制を行う場合に「発電用の取水を抑制できるなら、次の水利権更新では(東電が大井川の水を)ある程度返すべきだ」との意見を述べた。工事前から大井川の流量の状況を確認するモニタリング体制の構築を求める意見も上がった。
 (政治部・杉崎素子)

「工事前の水抜き」 静岡県専門部会長が指摘
 静岡有識者会議専門部会の森下祐一部会長は大井川流域市町首長との意見交換会で、JR東海が県境を越えて実施する方針の高速長尺先進ボーリングについて「不確実性を確実にする科学的データが得られるわけではない」と指摘し、「今行う必要はない」との考えを改めて表明した。
 森下部会長は、静岡工区の工事が始まっていない現状で同ボーリングを行っても、県内の地下水が抜け続けるだけだとし、「それでもしたいというのであれば、工事前の水抜きを前提にしていると考えられる」と主張。「そこに水の保全という発想はない」と厳しい言葉で非難した。
 会議後の取材で、国土交通省に同社を指導するよう求めたと明らかにし、「(水問題)全体の議論がヤマ場に向かっている今、この問題を争点化するべきではない」と述べた。

専門部会長の詳しい発言内容は リニア流域市町首長会議 森下静岡県専門部会長の発言全文 からお読みいただけます。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞