水窪の飯田線秘境駅 心引かれ、ひとり黙々と清掃 愛知の27歳青年、往復6時間かけ通う

 人里から離れ、自然に囲まれた「秘境駅」と呼ばれる浜松市天竜区水窪町のJR飯田線小和田(こわだ)駅の周辺でただ一人、黙々と清掃活動に励む青年がいる。愛知県半田市の会社員高橋祐太さん(27)。昨年から清掃を始め、最近では映画監督に着目されるなど活動が徐々に浸透している。高橋さんは静岡、長野、愛知3県にまたがる小和田駅周辺の環境を生かした地域おこしのきっかけを探っている。

JR飯田線小和田駅周辺の道路の清掃に励む高橋祐太さん=2022年12月中旬、浜松市天竜区水窪町
JR飯田線小和田駅周辺の道路の清掃に励む高橋祐太さん=2022年12月中旬、浜松市天竜区水窪町
昭和の名残が残る小和田駅の駅舎。県内外のファンが訪れる=浜松市天竜区水窪町
昭和の名残が残る小和田駅の駅舎。県内外のファンが訪れる=浜松市天竜区水窪町
JR飯田線小和田駅周辺の道路の清掃に励む高橋祐太さん=2022年12月中旬、浜松市天竜区水窪町
昭和の名残が残る小和田駅の駅舎。県内外のファンが訪れる=浜松市天竜区水窪町

 2022年12月中旬、高橋さんは複数の清掃道具を背負って小和田駅を訪れた。駅舎から天竜川沿いの道路へ移り、枯れ葉やゴミを一定のペースで掃く。作業の注意点は道路に付着したこけをはがさないこと。「昭和の雰囲気を残したいんです」と笑顔で語る。雨が降る中、約2時間かけて1キロの道をきれいに仕上げた。
 高橋さんがインターネットを通じて小和田駅の存在を知り、初めて訪れたのは20年6月ごろ。晴れた日だった。駅舎を出ると、見たことのない世界が広がっていた。茶工場の廃屋や古ぼけた軽三輪車ミゼット、空き家の周辺に生い茂った木々。自然の中に残る人の営みの跡が新鮮に写った。「好奇心しかなかった」と目を輝かせる。
 現在は毎週のように駅に通い、清掃に励む日々が続く。半田市から電車で往復6時間以上の道のりは苦痛ではないという。
 その取り組みは映画監督の太田信吾さん(37)=東京都=の目にも留まった。「高橋さんのように若い人が来ないと、地域の歴史そのものが忘れ去られてしまう」。清掃活動の様子などを撮影した約20分のドキュメンタリーを製作中で、23年秋に全国のミニシアターで上映を予定する。
 沿線にある温泉や飲食店を訪ね、新たな魅力を掘り起こしてもいる高橋さん。「自分の行動にいつか価値が生まれると思いたい。秘境駅が注目され、人が集まるきっかけに少しでも貢献したい」と意気込む。

 <メモ>小和田駅 1936年12月に開業。浜松市天竜区水窪町の北部に位置し、長野県天龍村や愛知県豊根村に隣接する。1日の平均乗車数は4人。JR浜松駅から電車で豊橋駅を経由して3時間以上かかる。昭和の名残が残る駅舎が特徴で、訪問ツアーも組まれる。秘境駅に詳しい鉄道愛好家の牛山隆信さんが公表する「秘境駅ランキング」によると、本年度は全国3位にランクインした。

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