根深い“男女間の不均衡” 静岡新聞読者アンケート #活力ある社会へ【NEXTラボ】

 男女の違いで生じる格差「ジェンダー・ギャップ」。家庭や職場、地域など私たちの身近な暮らしの中にも、根強く残っています。「国際女性デー」(8日)に合わせて静岡新聞社が実施した読者アンケートには、夫婦間の家事・育児分担の不均衡や、仕事での待遇格差に悩む声が寄せられました。

Q 家庭でジェンダー・ギャップを感じるか。 photo02
 「よく感じる」「時々感じる」と回答したのは合わせて61人で、全体の6割強。「夫と同等に働いていても家事と育児は妻の仕事と、夫や義母が思っている」(静岡市清水区、48歳会社員女性)や「保育園に通う息子が体調不良の時、母親の自分が休みを取るのが普通になっていて、疑問を感じる」(県外、30歳会社員女性)と家事、育児の分担が女性に偏っているとの声が多く寄せられた。若い世代からは「母親ばかりが家事をしている」(沼津市、28歳会社員女性)との指摘が複数あった。 photo02
 静岡市葵区の非常勤女性(51)は「息子には将来、家事をしてほしいので、手伝いをするよう声掛けしている」。ジェンダー・ギャップを「あまり感じない」と回答した島田市の公務員男性(32)は「家庭内の役割分担は、性別ではなく、得意・不得意や話し合いで決めている」とした。

Q 職場でのジェンダー・ギャップを感じるか。 photo02
 「よく感じる」「時々感じる」とした人が全体の半数以上の48人を占めた。静岡市葵区の会社員女性(35)は「出産・子育てでキャリアが分断されて、昇進機会を失っている。男性は子育てを妻に任せ、キャリアを諦めることなく仕事が継続できる」と感じている。 photo02
 袋井市のパート女性(43)は「女性は(結婚出産で)一度家庭に入りパートになる人が多く、(職場で)立場が弱い」、島田市の非常勤職員女性(44)は「女性はパート・アルバイトで働いて扶養に入るのが一番、というのが通念になっている」とそれぞれ働き方への違和感を記した。
 浜松市中区の事務職女性(24)は「お茶くみが女性の仕事になっている」という。一方、「女性が優遇されている。休日出勤も残業も男性ばかり」(同市浜北区、33歳パート)との声もあった。

Q 地域でジェンダー・ギャップを感じるか。 photo02
 「よく感じる」「時々感じる」が合わせて57人で6割に上った。「町内会とPTAで、日々の雑用は女性、重役は男性」(静岡市清水区、45歳自営業女性)や「今どき、女性部は必要なのか」(掛川市、55歳会社員女性)など自治会やPTAに関しての不満が多く寄せられた。「地域の回覧板でいまだに『ご父兄』と書かれている」(浜松市中区、40歳公務員女性)、「自治会の集まりで年配の男性が、若い母親に『もう一人(子どもを)つくれ』と言っていた」(三島市、41歳フィットネスインストラクター女性)など、地域の人と接する中で不快感を覚えたという体験談も複数あった。 photo02
Q 普段の生活で「女性・男性だから」「女性・男性らしさ」という固定観念により、生きづらさを感じるか。
 「よく感じる」「時々感じる」と回答したのは合わせて47人でほぼ半数。「子どもに関する最終的な責任は母親にあると思われている」(静岡市駿河区、38歳会社員女性)、「小学生の時に『頭の良い女は嫁のもらい手がいない』と親族に言われた」(焼津市、19歳大学生女性)など、社会や身近な人からの偏見に戸惑う声が聞かれた。男性の回答者からも「男性がおごれ、と言われる」(富士市、21歳会社員)、「映画やレストランでのレディースデーに違和感がある」(浜松市中区、28歳会社員)との声が寄せられた。

子の性別 育児に影響も photo02
 子どもの性別は、子育ての仕方に影響するのか。アンケートで子育て経験がある人(回答者76人)に尋ねたところ、「ない」「あまりない」と回答したのは合わせて45人、「よくある」「時々ある」は合わせて31人だった。性別を意識しないで子どもに接するよう心がけている人がいる一方、「つい男女で考えてしまう」と本音を漏らす人もいた。
 「色で男女を分けないようにしている」と記したのは焼津市の公務員女性(38)。「男の子でもピンクの物を持ってもいいし、女の子でも黒、青を選んでもいい」と伝えているという。
 一方、「女の子はかわいく、男の子は運動ができるようにと漠然と思っていた」(藤枝市、45歳パート女性)、「息子には将来、家庭を養っていくとか、娘には家事ができるように、という意識があった」(静岡市清水区、51歳心理士女性)など、子の性別が自身の子育てに影響していると自覚する人もいた。
 「男の子の赤ちゃんはあまり寝ないとか、反抗期は女の子の方がひどいなど、そういった言葉をつい口にしてしまうことがあったが、今は気をつけている」(三島市、41歳女性)など性別に関する自身の意識を反省する人もいた。

都道府県指数 「経済」で静岡県最下位 非正規女性の賃金、引き上げを
 上智大の研究者らでつくる「地域からジェンダー平等研究会」が各地域の男女平等度を政治、行政、教育、経済の4分野で分析した「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」。今月公表された2023年の指数で、静岡県は経済分野が47都道府県中最下位となった。
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 経済の指数は、男女の賃金格差や企業の社長数の男女比など7指標から算出。静岡県は指標のうち短時間労働に従事する男女間の賃金格差が45位で、全体を押し下げた。短時間労働の男性の時間給が高水準だったため、女性との格差が際立ったと指摘された。

 県立大の犬塚協太教授(ジェンダー社会学)は「なぜ同じ非正規労働で女性の賃金が低いのか、という問題意識を持つ必要がある。背景にはジェンダー差別がある」と指摘する。その上で「県内企業には、女性の非正規労働者の待遇を男性並みに引き上げることを求めたい」と訴える。

静岡県立大・犬塚協太教授に聞く まず職場が変わろう
 身近な生活にあるジェンダー・ギャップを解消するには何が必要か。ジェンダー社会学が専門の犬塚協太県立大教授にアンケートを読み解いてもらった。 photo02  

-回答者の声から見えたことは。
 回答者の中心は30代、40代の女性で、家庭、職場、地域の領域を問わず、ジェンダーに関して課題や苦しさを感じている様子がうかがえる。一方、気になったのが「男女は体格や脳の仕組みが違うから、格差は当たり前」「男女はそれぞれ役割がある」といった声がこの世代の女性の一部にもあったことだ。
 生物的な性差がゼロとは言わないが、今までの社会では生物的性差を過剰に評価し、それによってさまざまなことが決められてきた。問題はその点にある。「男女は脳の仕組みが違う」などと書かれた本もよくあるが、科学的根拠に乏しいものも多い。そう思い込まされること自体、無意識であってもジェンダーに基づく固定観念に影響されている。
 -家庭での性別役割分担に悩む声が多く寄せられた。
 これには「外と内」の要因がある。まず、「外」は職場。男性が家事・育児をしたいと思っていても、職場で長時間労働が常態化していれば難しい。家庭と職場は一体で考える必要があり、職場が変わることが重要だ。すでにワークライフバランスに本気で取り組む企業がある一方、その必要性に気付けない企業も多い。男女問わず若い世代は、企業選びでその点を重視している。取り組みが遅い企業は今後、優秀な人材確保は難しいだろう。
 -「内」の要因とは。
 今の30代、40代には、かつての専業主婦家庭全盛期の家事水準を保とうとする人がまだまだいる。だが、共働きが主流となった今、その水準を保つのは難しい。自分に対しても、パートナーに対しても家事の要求水準を下げた方がずっと楽だ。パートナーも家事に参加しやすくなる。親世代も、若い世代に「家事は女性がするもの、男性は無理しなくていい」といった物差しを押し付けないよう注意してほしい。

 アンケートは「NEXT特捜隊」の通信員らを対象に8~13日に実施。県内外に住む14~82歳の95人(女性64人、男性29人、その他2人)が回答した。回答者の年代は40代が最も多く、4割を占めた。

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