脱炭素や電動化 中小製造業直撃 ものづくり革新、支援は【伝えたい 政令市の現場から③浜松市㊤】

 「日本に影響はないのか」。米シリコンバレー銀行の経営破綻のニュースが駆け巡った今月中旬、浜松市東区の金属加工業「ライト」の宇井健一社長(59)は身構えた。頭をよぎったのは、世界の景気悪化の端緒になった15年前のリーマン・ショックの記憶。ただ、当時と異なる状況に、少し冷静さを取り戻した。

金属部品加工を手がける「ライト」の工場内。浜松地域のものづくり企業は変革期に向けた模索を続けている=21日、浜松市東区
金属部品加工を手がける「ライト」の工場内。浜松地域のものづくり企業は変革期に向けた模索を続けている=21日、浜松市東区

 リーマン・ショック後、売上高は半減し、会社は人員削減も断行した。「苦しく、悔しい思いは、もうしたくない」。創業60年、従業員47人のライトは主力の二輪、船外機など輸送機器のエンジン周辺部品の加工に加え、10年ほど前からロボット関連や一般産業機器部品など柱となる複数の事業の芽を育ててきた。コロナ禍では取り組みが奏功し、受注は継続した。
 四輪や二輪の世界的メーカーが立地し、サプライチェーン(供給網)を支える技術力を持った中小企業が集積する浜松地域。リーマン、東日本大震災、コロナ禍などに直面し、瀕死(ひんし)の状態だった地域経済の再生への原動力となったのがものづくり産業だ。経済関係者は「その変化への対応力こそが、浜松の地域企業の強み」と評価する。
 一方、世界的な輸送機器業界の脱炭素や電動化の余波は、技術進化の努力を続けてきた内燃機関(エンジン)車部品に携わる中小企業を直撃している。原材料高やエネルギー費高騰の逆風下で、技術対応や投資の見極めは難しい。宇井社長は「中小が得られる情報は少ない。生き残りへ、必死に糸口を探していくしかない」と前を向く。
 地域産業の持続的な発展を見据え、市が注目するのは「ものづくりのまち」の次代を担う成長産業だ。次世代輸送機器、健康・医療、光・電子、ロボットといった七つを重点分野に位置づけ、世界の一歩先を行く新産業創出や企業誘致、スタートアップ(新興企業)支援を掲げる。浜松地域イノベーション推進機構の次世代自動車センター浜松も電動化対応に向けた企業の技術探索や情報提供に力を注ぐ。
 ただ、こうした取り組みが「イノベーションの連鎖を促し、経済の循環を生む」との市の構想実現には、時間がかかるとの見方が大勢。同市南区で四輪部品加工に携わる60代の経営者は「この先の変化からは逃げ切れないが、まずは目先の経営や仕事を維持すること」と現実を見据える。
 しんきん経済研究所(同市中区)の稲垣賢一理事長は「長期的視点が必要な電動化などの変革期を、単独で乗り越えるのは難しい。行政が間に入り、連携や協業を促す環境を整えていくべき」と指摘する。

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