時論(4月30日)静岡茶市場のプレゼンス

 八十八夜(5月2日)が近づき、静岡市中心部に程近い茶問屋街の出回り量も日に日に増えている。そのシンボル的存在が1956年設立の静岡茶市場。静岡県や生産者、商工業者、金融機関などが出資した株式会社である。
 その前年、県は茶業振興計画を改定。戦後復興に寄与した茶輸出が失速。粗悪茶排除や茶業団体再編などとともに、流通改善に公正な市場の設置が必要と判断した。
 業務が軌道に乗るまで曲折があったが、全国初の茶取引場は茶業の近代化を進め、一時は年間1万トン・150億円相当を仲介する生産、流通の互恵的機関になった。
 だが、安い原料茶を使う緑茶ドリンクが台頭し、不況や東日本大震災の原発事故による風評で贈答需要が減るなど上級茶が売れなくなった。加えて生産者と飲料メーカーの直接取引や、意欲的な「自園自製」茶農家が通信販売で消費者に直接訴求する「自販」も手がけるなど市場を介さなくなった。
 静岡茶市場の昨年の取扱実績は3591トン・30億円。手数料収入主体の経営は厳しく、9年連続で営業赤字を計上している。
 価格を決めるには、競り、入札、相対があり、静岡茶市場は売り手と買い手が直接話す相対取引を採用している。両者が仲間ならどんな値段もつけられる。「初取引」で話題になる高値は品質だけでなく、つながりの強さを表している。
 茶市場の存在感や影響力が低下したという声があるが、そうは思わない。喫茶を楽しむため、多様性を保つため、静岡茶市場がここにあることに意味がある。
 コロナ禍で休止していた一般向け「早朝の茶市場見学ツアー」が4年ぶりに復活した。参加した人はプレゼンスに気づくのでは。
 (論説副委員長・佐藤学)

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