カツオ盗舞台、信用回復へ 見せて焼津漁港の底力【記者コラム 黒潮】

 焼津漁港(焼津市)に水揚げされた冷凍カツオの窃盗事件を巡る捜査は1年7カ月にも及び、これまでに合計三つのルートで関与したとされる水産加工会社元幹部や運送会社の従業員、当時の漁協職員らを立件した。水揚げ金額日本一を誇る焼津漁港のブランド価値に大きな傷を付けた今回の事態に危機感を持つ水産関係者は多く、信用回復に向けた取り組みが始まりつつある。あしき因習や制度を抜本的に改め、令和時代にふさわしい漁港を目指してほしい。
 一連の事件に関連し、焼津漁協の第三者委員会は昨年冬、報告書を取りまとめた。問題視したのは競り落としたカツオに不良品が交じっていた場合、次の水揚げの際に現物で不良品分を補塡(ほてん)する「損失補塡」行為。「未計量カツオが窃取される口実になった」と指摘した。漁協は不良品が発生した場合、船主、漁協、仲買人の三者で協議する仕組みを取り入れた。
 不正行為の舞台となった魚市場のDX(デジタルトランスフォーメーション)化も、導入に向けた取り組みが始まっている。なかでも水産関係者が注目するのはAI(人工知能)を使って水揚げされた魚を選別するシステムの導入。市内の製造機械メーカーが開発したシステムで、魚の魚種や重量はもとより、良品か不良品かの判断もする。
 魚市場を取り巻く水産関係者の間からは傷ついたブランドを取り戻そうという動きも出ている。市内事業者が自らの食品加工技術を活用して開発する「やいづキャンプ飯」プロジェクト。参加する水産加工会社の若手は「このままでは水産関係で働きたいという人がいなくなってしまう」という危機感を持っている。そこで自社の技術力の高さに焦点を当て、焼津の強みを発信したいという思いからプロジェクトは走り出した。
 一連の事件では水産加工会社、漁協、運送会社、船会社それぞれの課題が浮き彫りになった。目を背けたくなるような問題も数多く露呈した。ブランド価値を再構築する動きは始まったばかり。痛みを伴う事態も発生するかもしれない。困難な局面でもこの町を何とかしたいという思いで乗り越えられるはず。港町の底力を見せてほしい。

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