山で「助けて」不要不急に苦慮 静岡県警、登山者に万全準備訴え

 新型コロナウイルス5類移行後初の夏を迎え登山者の増加が予想される中、命の危険に直面した遭難者を助ける県警山岳遭難救助隊に、不要不急や安易な救助要請が増え始めている。「サイズが大きい靴を履いてきたら、足が痛くなった。迎えに来てほしい」「持参したヘッドライトが点灯しない。助けてほしい」-。明らかな準備不足や認識の甘さからくる救助要請の増加は、救える命が救えなくなる事態につながりかねない。関係者は対応に頭を悩ませている。

山岳救助訓練を行う県警山岳遭難救助隊富士宮小隊の隊員=19日、富士宮市の毛無山
山岳救助訓練を行う県警山岳遭難救助隊富士宮小隊の隊員=19日、富士宮市の毛無山


 県警地域課によると、富士山で昨年起きた遭難事故59件中、最も多かったのは「疲労」の22件。同救助隊の坂上雅信隊長は「過去5年で最も多い。準備不足の登山者が増えている印象が強い」と危機感を示す。
 通報内容は多岐にわたる。昨年9月、伊豆市の達磨山で登山中の50代男性から「食器を洗うのに水を使ってしまい、飲み水がなくなった」との一報。救助隊が現場で水を渡すと、回復した男性は登山を続行しようとしたという。坂上隊長は「救助が目的であり、登頂への手助けをする部隊ではない」と指摘する。
 風の影響で救助ヘリが飛べず、到着まで時間がかかることを伝えると、「それなら自力で下ります」と言われたこともあった。坂上隊長は「救助要請すればすぐに助けが来ると考えている人が多い」と漏らす。悪天候でヘリが飛べないことは高山では珍しくなく、地上での救助も、山域や天候次第で数日かかるという。
 救助隊は毎年、険しい山での救助訓練を続けている。6月中旬、富士宮市の毛無山(標高1964メートル)で実施した訓練では、同隊富士宮小隊が登山道から離れて道に迷い疲労で動けない40代男性を救助する想定で臨み、崖上からロープで降下し、遭難者役を背負って安全な場所まで運んだ。訓練の指揮にあたった武藤諭副隊長は「万全な準備をして全力で救助に臨んでいる。登山者も準備を怠らないで」と強調した。
 山岳救助隊は28人の少数精鋭。1人の遭難者救助で6人ほど出動し、安易な通報が増えれば疲労やけがで隊員が2次遭難したり、滑落など人命に関わる事故の対応が遅れたりする可能性もある。坂上隊長は「遭難時は迷わず通報してほしい」と前置きした上で「遭難しないための準備と、複数日待機できる装備を心がけて」と話す。

「天候や自分のペース しっかり把握を」
 「続々と避難してきます。遭難一歩手前の登山者ばかりです」。昨年8月中旬、台風が過ぎ去った直後に赤石岳避難小屋の管理人(当時)がSNSで発信した投稿が注目を集めた。
 天候が荒れる中、強行して登ってくる登山者に苦言を呈する投稿だった。避難小屋付近は強い雨が降り、風速20メートルを超える悪天候。多くの登山者が寒さにふるえ、疲労困憊(こんぱい)の様子で飛び込んできた。当時の管理人は「寝室として利用する2階や3階にもブルーシートを敷き、多いときは60人ほど登山者を受け入れた」と振り返る。
 今年から同小屋の管理人を務める清水明さん(47)は「天候や自分のペースをしっかり把握し、無茶な登山は控えてほしい」と話す。最近は個人が登山やハイキングの記録を紹介するSNSが流行し、参考にして計画を立てる人が多いという。「登山のペースは人それぞれ。他人のペース通りに自分が登れるとは限らない」と警鐘を鳴らし、「朝早く出発して早めに到着する『早出早着』を心がけて」と呼びかける。

 

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