古民家再生“第二の人生” アフリカ工芸品店営む小沢さん(静岡)

自分に正直に挑戦

古民家への思いを語る小沢里恵さん=静岡市葵区足久保奥組の「かもしか」
古民家への思いを語る小沢里恵さん=静岡市葵区足久保奥組の「かもしか」
古民家「かもしか」の外観
古民家「かもしか」の外観
「かもしか」の庭の一部。日本庭園風に整備した
「かもしか」の庭の一部。日本庭園風に整備した
古民家への思いを語る小沢里恵さん=静岡市葵区足久保奥組の「かもしか」
古民家「かもしか」の外観
「かもしか」の庭の一部。日本庭園風に整備した

 静岡市中心部から車で30分ほどの葵区足久保奥組。緑豊かな山あいにある築100年ほどの古民家にこのほど、小沢里恵さん(51)が中心市街地で営んできたアフリカの工芸品店「Ruise B(ルイズ ビィ)」が移転した。「自分の手で一つ、古民家を残すのが夢だった」という小沢さん。子育てが一段落した後の“第二の人生”は「人目を気にせず、自分の器に合わせて心地よいことをしていければ」と、新たな環境を楽しむ。
 小沢さんは2009年から、ルワンダの女性が手作りしたバスケットなどの工芸品を輸入販売する仕事をしている。同国ではかつて、二つの民族間にジェノサイド(大量虐殺)が起こり、夫を失った女性たちが生計を立てるためバスケットを編む。「繊細な手仕事であるアフリカの工芸品とも通じるが、昔から味のあるものに心が引かれる」。日本の昔ながらの建築物も好きで、古民家の再生に長年、関心を寄せていた。
 昨年秋、自宅から車で10分ほどの距離の急坂の上にある古民家を知人に紹介された。昔からよく訪れる川遊び場もすぐそばにあり、「この家に運命を感じた」。だが、7年以上手つかずだった空き家の再生は簡単ではなかった。庭は背丈ほどの雑草が生い茂り、畳敷きの9部屋に土間と屋根裏がある家の中には大量の荷物が残され、雨漏りもあった。
 小沢さんと元家具職人の夫、義理の両親の手で片付け、少しずつ修繕を進めた。最初は電気、水道、トイレもない中での作業。「不便だったが、一つ一つ自分たちの手で作り上げていく満足感、幸福感があった」と振り返る。集落の人たちの温かさにも触れ、当初は家の使い道を明確に決めていなかったが「この場所で、多くの時間を過ごしたい」という思いが募り、店を移転することにした。
 古民家は、時折、遭遇するカモシカにちなんで「かもしか」と名付け、店舗のほか、交流イベントや演奏会などの会場としても活用している。「かもしか」には、人から譲り受けた思い出の品も置く。昨年9月に台風被害に遭った油山温泉元湯館(葵区)のいろり道具や、友人の父親が生前、紳士服の仕立てに使っていた作業机-。「家にも、物にも物語が詰まっている。歴史あるものを少しでもつないでいきたい」
 今も続く修復作業の様子はインスタグラムで随時、発信している。投稿を見た同年代の女性から「(活動から)勇気をもらった。自分もやりたいことをやろうと思う」とメッセージが届いたこともある。
 小沢さん自身は2年前、体調を崩し、手術、入院を経験した。一時は目まいなどの症状に悩まされ、気力を失いかけた。だが、「人生、一度きり。やりたいことは、やっておこう」と思い直し、長年の夢に一歩を踏み出した。「この年代になれば自分の器は分かってくる。自分はアフリカには住めないが、古民家の再生はできる。これからも自分に正直に、挑戦を重ねていきたい」と目を輝かせる。
 (生活報道部・大滝麻衣)

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