いなばイズム 学んだ“道場” 戦前から稼働 第1工場(清水区)閉所へ 缶詰、ペット食品… 時代映す製造品

 由比のサクラエビ漁師の妻らが従業員となり戦前からツナ缶を製造していた、静岡市清水区由比北田にあるいなば食品(稲葉敦央社長)の第1工場が老朽化のため閉所する。木造平屋建ての工場は新入社員らが最初に通い、社業の基礎を学ぶ“道場”だった。今日の同社の礎を築いた同工場跡地には、2025年秋に本社機能などが入る最新式の建物が完成する予定だ。10日には第1工場の閉所式典が行われる。

1936年に完成し10日に閉所式を行ういなば食品第1工場=7月下旬、静岡市清水区由比北田
1936年に完成し10日に閉所式を行ういなば食品第1工場=7月下旬、静岡市清水区由比北田
第1工場跡地に建つ予定の新本社の完成予想図(いなば食品提供)
第1工場跡地に建つ予定の新本社の完成予想図(いなば食品提供)
いばな食品第1工場内に並ぶ巨大な殺菌釜=7月下旬、静岡市清水区由比北田
いばな食品第1工場内に並ぶ巨大な殺菌釜=7月下旬、静岡市清水区由比北田
1936年に完成し10日に閉所式を行ういなば食品第1工場=7月下旬、静岡市清水区由比北田
第1工場跡地に建つ予定の新本社の完成予想図(いなば食品提供)
いばな食品第1工場内に並ぶ巨大な殺菌釜=7月下旬、静岡市清水区由比北田

 「とても追いつけないスピードで地元の奥さん方が冷凍マグロの蒸煮作業や身さばきをしていて、自分の非力さを思い知った」。そう振り返るのは、03年に他の食品会社を経て入社した、いなば食品取締役執行役員生産部工場長の鈴木克明さん(51)。マグロ丸々一匹からの解体作業は07年ごろから少なくなり、業界全体で海外から加工済みの魚の身を買ってくることも増えた。鈴木さんは「いなばを支えた工場だった」としみじみ話す。
 1936年完成の第1工場。時代が移り、ペットフード生産に業態の主軸が移った今、第1工場内では主に半生タイプのネコ用おやつを3交代態勢で製造している。缶詰やレトルト食品には欠かせない高温、高圧による巨大な殺菌釜がいくつも並び、額に汗して作業する男性従業員らの姿は変わらない光景だ。同じ殺菌釜は半世紀以上も使っているという。
 長崎県佐世保市出身で前工場長の山下克彦さん(61)も20歳で就職し、最初の現場が第1工場だった。「働いている人が皆由比の地元の人たちで、言葉が全く分からなかった」と笑う。
 第1工場の閉所式には同社のかつての幹部らも集まりスピーチを行う。今年9月から取り壊し作業に入る。跡地では、本社機能や開発部門である「R&Dセンター(仮称)」、社員食堂などが入る地下1階、地上4階建ての建物の建設工事が24年5月ごろからスタートする予定という。
 (清水支局・坂本昌信)
 
 いなば食品 現在の静岡市由比地区が発祥の食品メーカー。1805年(文化2年)創業の「稲葉商店」が前身。過去にはかつお節や地元名産のミカンの缶詰製造なども手掛けたとされる。現在ではツナ缶やネコ用ペットフードなどが有名。2023年3月期の連結売上高は同社で初めて1千億円を超えた。従業員数約4千人。

 

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