消防士殉職火災から1年 誠心誠意の対策求める【記者コラム 黒潮】

 「夫は危険な場所に出動するのが仕事だから一生懸命支えてあげたい」。10年ほど前に県内の消防に勤める友人の結婚式に参列した際、お相手の新婦があいさつで涙ながらに語っていた。火災や救助など過酷な現場で活動する新郎の無事を願ってやまない新婦の言葉からは、常に不安と闘っているように感じ取れた。最愛の家族が業務中に命を落とす最悪の事態は想像もしたくないだろう。
 静岡市消防局駿河特別高度救助隊の山本将光さん=当時(37)=が殉職した昨年8月の同市葵区呉服町の雑居ビル火災から1年余りがたった。同消防局管内では2020年7月にも、吉田町の「レック静岡第2工場」で発生した火災で屋内進入した消防隊員3人と警察官1人の計4人が亡くなる事故があった。わずか2年で悲劇は繰り返され、工場火災の反省が生かされていたとはいえない。
 外部有識者でつくる呉服町ビル火災の事故調査委員会は今年8月に調査報告書を公表した。殉職事故は、山本さんがビルから退出して来ないことを他の隊員2人が気付かなかった点など三つの要因が重なって起きたと推定されると結論付けた。併せて、安全を最優先する組織風土の構築などの再発防止策も示した。
 報告書の再発防止策では、「隊員相互にちゅうちょなく指摘・助言し合う安全文化の醸成に組織を挙げて取り組む必要がある」と言及し、同消防局全体での意識改革の必要性を指摘した。同消防局のある関係者は「市民のために意識を高く持って取り組んでいる職員はたくさんいる」とした上で、「(組織内には)古い慣習やしきたりが残っていて知識や技術をアップデートしようとしない。研修などで県内のほかの消防組織の隊員を見ると差を感じる」と明かす。同消防局の閉鎖的な組織体制に不信感を抱く職員は少なくないという。
 山本さんの妻未来さん(39)は事故当日の朝、出勤する山本さんを「気を付けてね」と送り出した。それが最後のやりとりになった。同消防局には「二度と殉職事故を起こさない」と誓い、職員とその家族のために誠心誠意、安全対策と再発防止策を構築することを求める。
 (社会部・小沢佑太郎)

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