企業へ小まめな訪問奏功 金融機関や商工団体、相談窓口に【事業承継 未来へのバトン④完】

 事業承継を円滑に進めるためには地域を巻き込んだ取り組みが欠かせない。細かな情報収集と承継後も見据えた伴走を行えるよう、金融機関や各地域の商工団体が“かかりつけ医”のように身近な相談窓口として役割を果たしていくことが求められている。

事業承継相談に積極的に取り組む天竜商工会=8月下旬、浜松市天竜区
事業承継相談に積極的に取り組む天竜商工会=8月下旬、浜松市天竜区
事業継承促進に向けた支援体制
事業継承促進に向けた支援体制
事業承継相談に積極的に取り組む天竜商工会=8月下旬、浜松市天竜区
事業継承促進に向けた支援体制

 「事業承継の成否は地域金融機関にとって極めて重要」-。島田掛川信用金庫地域サポート部(島田市)の森崎恭広副部長(45)の声は切実だ。同信金は事業承継も含め取引先の困り事を解決するため、2013年に専門部署を立ち上げた。当時、事業承継促進に向けて企画したセミナーは、実務的な補助金セミナーの盛況ぶりとは対照的に毎回、閑古鳥が鳴く寂しい状態。森崎副部長は「そもそも信用金庫に事業承継を相談する雰囲気すらなかった」と振り返る。徐々にスタッフを増やして啓発を続けた結果、10年間で事業承継の相談件数は約40倍に広がった。地域を思い続けた信念が功を奏した。
 天竜商工会(浜松市天竜区)が22年に策定した事業承継計画は20件を数える。過去3年間の累計でも60件を超し、他地域の策定数と比べても屈指の件数を誇っている。同会の松川淳子天竜支所長(60)はその理由を「職員による地道な声掛けのたまもの」と語る。同会の職員は管轄地域の企業の家族構成や経営状況など承継に関係する情報をつぶさに把握するよう管轄地域を小まめに訪問している。定例相談会への参加も積極的に呼びかけ、承継への意識付けを欠かさない。
 2輪部品の組立製造を行う平成電装(同区)は19年に先代社長が急逝した際、妻の小林勝代さん(61)が今後の事業運営について真っ先に同会に相談した。「急な状況で混乱する中、順を追って丁寧にサポートしてくれた」と感謝する。幸い、次女の夫良介さん(33)が会社を継ぐ意志を早くから示していたため、段階を踏んだ継承計画が策定できた。日頃から培ったコミュニケーションが緊急時でも有効に発揮された。
 松川支所長は「天竜地区は人口減少が顕著。企業や店舗数の維持は最重要課題」と指摘した上で「策定計画は作って終わりじゃない。過程を定期的にチェックする“おせっかい”も続けていく」と意気込む。
 (社会部・薬袋貴信)

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