「空飛ぶクルマ」先進地に 静岡県、実用化へ地形データ活用 都内企業と連携

 静岡県は、航空事業などを手がける朝日航洋(東京)と連携し、「空飛ぶクルマ」の実用化に向けた調査に着手した。両者が保有する地形データとシミュレーション技術を活用し、航路や離着陸場を検討する。機体の開発競争はメーカー間で加速していて、安全なルートを早期に確立すれば「静岡県が成長分野の次世代エアモビリティー(空の移動手段)で先進地域になり得る」と関係者の期待は大きい。

街の中を飛行する空飛ぶクルマのイメージ(経済産業省HPから)
街の中を飛行する空飛ぶクルマのイメージ(経済産業省HPから)

 空飛ぶクルマは「電動・自動運転・垂直離着陸」の機能が特徴で、飛行機より低い高度で人を運ぶ。運航時はビルや電線などのあらゆる構造物、障害物を避ける必要がある。
 そこで空飛ぶクルマの将来的な事業化を目指す朝日航洋が県の「3次元点群データ」に着目し、連携を働きかけた。
 県が小型航空機などからレーザーを照射して県土を測量したデータで、建物や地表面、電線、アンテナまでが点の集まりとなって忠実に表現される。ごく一部の山間地を除く県内全域をカバー済みで、現実と同じ縮尺1分の1の仮想空間に落とし込むことが可能。朝日航洋はこの地形データを生かしたシミュレーション技術を駆使し、航路(コリドー)や垂直離着陸場(バーティポート)の適地を調査していく考えだ。
 実用化に道筋が付けば生活交通や物流、観光での活用に夢が膨らむ。交通渋滞が多い伊豆半島をひとっ飛びしたり、クルーズ船の外国人客が清水港から富士山を眺めながら御殿場のアウトレットに行ったり-。県デジタル戦略局の杉本直也参事は「産業振興や経済発展、地域活性化への寄与は大きいはず」と話す。
 課題には安全性の確保に加え、法規制の整備、充電や通信関連のインフラ整備が挙がる。飛行物が低高度を飛ぶことへの社会的受容も欠かせない。朝日航洋の加藤浩士社長は「地理空間情報を生かし、社会実装につなげたい」と強調した。
 (経済部・河村英之)

世界市場 180兆円規模か
 SF映画や漫画に登場し、「未来の乗り物」のイメージが強い空飛ぶクルマだが、政府は2025年の大阪万博で商用運航を開始し、路線・便数を拡大させていく構想を描く。民間調査では世界の市場規模が将来的に180兆円を超えるとの見通しもある。
 矢野経済研究所が公表した推計では、機体の販売額を基準とした世界市場規模は25年に608億円になり、30年ごろから急成長して50年には184兆円に膨らむ。
 国内の推計市場規模は30年時点で745億円。現在、政府設置の官民協議会が機体の安全性や操縦者の資格に関する基準作りを進めている。
 ただ、同研究所は国内開発の現在地について、部品性能の不足やコスト高、資金調達の難航などを挙げ、「(状況は)芳しくない」と指摘。国家プロジェクトによる巻き返しが不可欠などと強調する。

機体開発製造、静岡県内も舞台
 国内外のメーカーがしのぎを削る空飛ぶクルマの機体開発・製造は静岡県も舞台の一つ。スズキは6月、スカイドライブ(愛知県豊田市)と協力態勢の基本合意を結んだと発表した。来春にもスズキグループの県内工場で機体製造が始まる見通しだ。
 スカイドライブによると、予定される機体は3人乗りで、長さと幅が各約13メートル、高さ3メートル。航続距離は約15キロ。大阪万博での運航を目指すほか、2026年には型式証明を取得し、量産化を図るとしている。

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