伊豆の国市神島地区 城山に抱かれて 狩野川と生き、自然と遊ぶ【わたしの街から】

 岩肌がそそり立つ。国道136号バイパスから修善寺道路を走れば、きっと多くの人の目に留まるであろう城山(じょうやま)。ロッククライミングの名所としても知られる。この太古の海底火山の名残を見上げる伊豆の国市神島地区が今回の舞台だ。山頂に延びるロープウエーが目印の葛城山も間近に望み、アユ友釣りの発祥として知られる狩野川が南北に貫く。川の流れとともに時代を重ね、独特の地域文化を育んできた地域でもある。10月1日にはこの地に、大自然に抱かれた遊びや体験の新拠点「狩野川神島公園」が誕生する。
岩肌がそそり立つ城山と狩野川、伊豆の国の街並み(市提供)
伊豆の国市 神島地区
 人々とレジャー 集まる新拠点「川の駅」10月オープン
 狩野川神島公園は「かわまちづくり」事業の一環で市が国土交通省と連携して神島地区の狩野川右岸河川敷に整備した。市民らへの公募に寄せられた愛称案は189件。「川の駅 伊豆城山」と決まった。
 広さ約14・1ヘクタール。神田橋から狩野川大橋まで、およそ1・7キロに及ぶ伊豆半島随一の水辺の公園だ。民間の資金やノウハウを活用する公募設置管理制度(パークPFI)を取り入れ、建物のメンテナンスなどを手がける「JM(ジェイエム)」(東京都)が多目的広場や芝生広場などを整備した。これらを市が買い取り、指定管理者として同社が運営する形を取った。
 神島橋北側には、メインスポットとなる芝生広場と多目的広場を設ける。芝生広場は来場者が自由に遊べる「遊具エリア」、予約が必要な「キャンプ・BBQエリア」、大・中型犬と小型犬でゾーンを分けた「ドッグラン」がある。多目的広場では随時イベントを開催するほか、スケートボードや「おもしろ自転車」などを配備する。
メインスポットとなる芝生広場と多目的広場
 神島橋南側には123台収容の駐車場、芝生の多目的グラウンドを設置。自転車などで楽しめる土造のパンプトラック(起伏のある周回コース)2列、河川敷の地形をそのまま生かした半円状のトラックも新設した。トラックは長さ約100メートルの初級者コース、約250メートルの中級者コースからなる。狩野川堤防にはキッチンカーを常設する構想を描く。
愛称が「川の駅 伊豆城山」に決まった狩野川神島公園
 8月中旬に開催したプレオープンイベント。熱気球搭乗やカヤック、アユつかみ取りなど盛りだくさんの体験イベントを市と同社が提供し、歓声が響いた。山下正行市長は「市民だけでなく、市外や県外の人々にも愛される日本一の公園にしたい」と意気込む。同社の大竹弘孝社長は「人が集まり楽しい場所を目指し多くの方々と一緒に挑戦していく」と今後を見据える。
8月中旬に開催したプレオープンイベントに訪れた市民ら

 息づく歴史と文化 伝統の「かわかんじょう」
神島地区伝統の「かわかんじょう」
 薄暗い川べりに奇妙なかけ声が響く。「う、う、うわはーい」。地元の若者らが竹や麦わらで作ったいかだに高さ6メートルのたいまつを立て、先端に着火する。かけ声とともに押し流されたいかだは、川面を赤く染めながらゆったりと下流に向かった。たいまつが燃え尽き、辺りに暗闇が訪れる頃までかけ声は続いた。
 例年8月1日夕刻に行われる地区伝統の「かわかんじょう(川神浄)」だ。
 狩野川の水は神島地区の住民にとって、恵みである半面、恐怖でもあった。1965年に狩野川放水路が完成するまで、たびたび水害に悩まされてきた。“暴れ川”狩野川の水霊が鎮まることを願うとともに、水難に遭った人々を供養する盆行事として伝統を重ねてきた。渡辺吉明区長(67)は「地区には子どもが少なくなってきたが、何とか続けていきたい」と願う。
 城山、葛城山、向こうにのぞく富士山―。神島地区をはじめ旧大仁町の狩野川べりから眺める景色は、プロ野球巨人の長嶋茂雄終身名誉監督が愛し、現役時代には毎年、この地を「山ごもり」とも称された自主トレーニングの拠点としていた。その足跡は「読売巨人軍長嶋茂雄ロード」と命名されていて、地区内の神島橋や狩野川堤防はランニングの定番コースだった。年配の地域住民にとって、今も誇りの一つだ。
 渡辺区長は「狩野川神島公園の完成が神島地区に改めて目を向けてもらう契機となり、地区全体の歴史や文化にも関心が広がればうれしい」と期待を寄せる。
 

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