企業誘致「戦略的に」輸送用機械低迷 静岡県、24年問題は“好機”か

 輸送用機械を中心に静岡県内の製造業が長期的に苦戦していることが明らかになった。一方、東西の大消費地に近い本県は、トラック運転手の残業規制強化に伴う「2024年問題」を機に、製品の円滑な配送を目指す県外企業から事業用地として注目される可能性が高いとされる。新産業の創出などとともに、既存産業に対する効果的な企業誘致も鍵を握りそうだ。

分譲中の工業用地。効果的な誘致が期待される=県東部
分譲中の工業用地。効果的な誘致が期待される=県東部

 「より戦略性を持って臨むべきだ」。静岡産業大の小泉祐一郎教授は県の取り組みにそう求める。
 近年は物流企業が県内の工業団地に進出する事例が増え、年間誘致件数の1~2割を占める。設備投資額や雇用に関する補助金の適用要件緩和がきっかけになった。行政評価の観点から、工場建設まで時間を要する製造業より、荷さばき所などの整備で済む物流業の方が成果につなげやすいことも増加の一因という。
 進出企業が製造業であっても、県内からの移転が多いのが特徴。本県は年間の企業立地件数が全国上位を維持するが、小泉氏は「近視眼的に用地を売ることが優先され、『どこから何の業種を呼び込みたいのか』が曖昧。現場(の職員)というより政策的な問題だ」と指摘。輸送用機械の誘致に徹した愛知県は、製造品出荷額が08年のリーマン・ショック前の水準に回復したとする。
 24年問題を巡っては製造業、物流業とも本県への関心を高める可能性があり、「トップ(県知事)が産業のあり方をどう描くかに尽きる」と強調する。用地確保については「浜松市のように基金を創設して対応するのも一手」と述べた。

 静岡県「ターゲット絞る」
 県は企業誘致の考え方について産業成長戦略で、医療機器・医薬品や半導体関連事業など「ターゲットを絞って働きかける」などと明記した。担当者は「東西に広い県内は地域によっても色が異なる。それぞれに合った業種に狙いを定めるなど、メリハリを付けた誘致活動を行う」と話した。
 県によると、県内で分譲中(予定を含む)の工業用地は計11件。一方で、工業用に開発できる広範な土地はほかに多く残っていないため、新たに確保するには農地や山林を活用する必要があるという。

 記者の目=「夢ある施策」挑戦に期待
 県は2024年度当初予算の編成要領で524億円の財源不足を公表した。関係者によると、各部局は新型コロナウイルス禍で膨らんだ歳出構造を見直そうと8月の段階で事業の精査に着手した。毎年度の予算編成作業は秋以降に始まるため、「異例の対応」(県幹部)。例年以上に腐心して捻出する財源といえる。
 ある企業経営者は記者との雑談で「静岡県も夢のある経済施策が見たい」と語った。自治体が主導する開発事業に民間が積極投資する他県の事例を視察したといい、「みんなで経済を盛り上げようというわくわく感があった」とも指摘した。
 本県は海洋資源の活用(MaOI)や植物由来の新素材(CNF)普及などで新産業育成の動きがある。成長途上のこれらをどう飛躍させられるかが試される。
 足元で物価高が続く中、県民生活を守り、産業を立て直し、さらに夢も感じられるような施策展開-とは容易でないが、予算の選択と集中で実現に挑戦する県当局の姿勢に期待したい。
 (経済部・河村英之)

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞