スズキが生成AI本格活用 自社向けアプリ開発 社員の「アシスタント」に

 スズキは本年度から、業務の変革や改善を目指し、生成AI(人工知能)を全社で本格活用している。対話型AI「チャットGPT」をベースに開発した自社向けアプリを、本社や工場などの社員約1万5千人を対象に社内業務の「アシスタント(補助)」の役割に位置づけ3月に実装した。現在の利用件数は、パソコンや携帯端末を通じて翻訳や要約、文章作成など1日当たり延べ約5千回。利用アイデアの共有や実践の蓄積を通じて活用策を探り、業務効率化を図る。

今後の活用策を検討する担当社員=10月下旬、浜松市南区のスズキ本社
今後の活用策を検討する担当社員=10月下旬、浜松市南区のスズキ本社
チャットGPTをベースにしたスズキ版のアプリ
チャットGPTをベースにしたスズキ版のアプリ
今後の活用策を検討する担当社員=10月下旬、浜松市南区のスズキ本社
チャットGPTをベースにしたスズキ版のアプリ


 スズキ版アプリは、高度なセキュリティー環境が確保された米マイクロソフトが提供するクラウドサービス上のチャットGPTを、自社システムやデータと連携させて使う。開発担当のデジタル化推進部が重視したのは「圧倒的な使いやすさ」。メイン画面に「翻訳して」「要約して」「教えて」「作って」などの項目ボタンを設けた。一問一答型と、回答にプロンプト(指示)を加えて内容を深化する対話型の2種類を用意した。
 運用から半年の利用状況は、半数が翻訳、28%が質問、6%が文章やプログラムの作成などと続く。事務系部署では会議の録音データを使った議事録の要約、IT関連ではソフトのエラーが発生した際に修正方法を効率的に探索した例などがある。数多く存在する社内規定や報告書といった文書ファイルのありかや記載内容の検索を効率化するなど、チャットGPTを応用したアプリ開発も進む。
 スズキでは、自動車産業の変革期に際した構造改革で、業務・プロセスの無駄を見直して生産性を高めるためデジタル技術の活用を推進している。生成AIの社内活用は、鈴木俊宏社長ら経営陣が3月に判断。同社役員本部長らも「まずは使ってみる」姿勢を社員に示す。AIの回答の正誤確認など「3現(現場、現物、現実)主義」を厳守するほかは、自由な活用を促し、利用場面や回答の引き出し方といったノウハウを随時社内発信している。
 スズキによると、時間や労力の削減効果は検証中だが、議事録作成なら、従来要した時間を95%削減できるとみる。鵜飼芳広常務役員IT本部長は「AIが担える事務作業は任せ、社員が本来の主業務に充てる時間を増やすことで、企業全体の競争力強化につなげたい」と戦略的活用に意欲を示す。
全国企業 検討も手探り 民間調査  帝国データバンクが6月に実施した全国企業アンケート調査(有効回答1380社)によると、生成AIを業務で活用しているのは9・1%、検討している企業は52・0%だった。検討している企業でも「具体的な活用イメージが湧かない」との回答が37・8%あった。情報管理リスクから会社から利用を認められていないケースもあり、手探りの状況もうかがえた。
 日本マイクロソフトモビリティサービス事業本部の担当者によると、「スズキは国内企業で生成AIの具体的活用にいち早く着手した企業の一つ。今後はビジネスのイノベーションにいかにつなげられるかがポイント」と話す。
(浜松総局・山本雅子)

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