「空前の工場誘致」幻に 難局打開へ道筋どう描く【静岡県知事選 静岡の現在地①経済振興】

 川勝県政の約15年を経て、本県はどのような姿に変貌を遂げたのか。26日投開票の知事選で選ばれる新たなリーダーが解決すべき課題は何か。経済や人口、医療、教育、防災の各分野のデータや現場の声を拾い上げ、静岡県の「現在地」を確かめる。

企業誘致は“総合力”が求められる時代に。次の知事は経済再生にどんな策を打つのか=5月初旬、県内(写真部・坂本豊)
企業誘致は“総合力”が求められる時代に。次の知事は経済再生にどんな策を打つのか=5月初旬、県内(写真部・坂本豊)

 「成功していれば、間違いなく地域経済の景色は変わっていた」
 昨年10月、半導体受託生産で世界有数のシェアを誇る台湾・力晶積成電子製造(PSMC)などが宮城県内への進出を発表した工場建設計画。静岡県の幹部職員は、本県も誘致レースに参戦し、小山町の工業団地が全国3カ所程度に絞られた最終候補の一つだったと打ち明けた。
 事業総額8千億円超-。100億円規模が大型案件になる本県の企業誘致にとって、桁違いのスケールだった。毎年数十億円の税収増と千人を超える新規雇用が試算され、さらに工場を核に新たな企業集積地が形成される経済効果は計り知れない。県は補助金の上限14億円を特例で一気に100億円超に引き上げ、森貴志副知事を交渉役に売り込みをかけた。
 小山町の工業団地は土地の形状や首都圏へのアクセスが高評価だった。明暗を分けたのは、高度人材の確保。宮城県は半導体研究に力を入れる東北大が立地し、産学連携を見込める点が決め手の一つに。空前の工場誘致は幻に終わった。
 本県は経済の長期的停滞にあえいでいる。国の調査によると、2009年の製造品出荷額は15兆509億円で、直近21年は17兆2905億円だった。一見増加しているが、09年は前年に起きたリーマン・ショックの影響が直撃した最悪期。それ以降の回復度合いは他県に比べて鈍い。静岡経済研究所の望月毅企画部長は若者の県外流出で経済規模が縮小する悪循環に陥り、「競争力はむしろ落ちている」と分析する。海洋資源の活用(MaOI)、植物由来の新素材(CNF)といった新産業支援や3次産業の育成を力強く進める一方で、足元の製造業の立て直しと新規呼び込みがやはり欠かせない。
 ただ、PSMCの一件が物語るように、企業誘致は単に広い事業用地があれば買い手がつく時代ではなくなった。進出を検討する企業は人材確保以外にも、働く人の住環境を重視する傾向がある。県内は昨年、米国の製薬会社モデルナがワクチンの製造拠点を整備する話も浮上したが、県幹部は「PSMCと同様、最終段階で落選した。理由もほぼ同じだった」と振り返る。
 PSMC誘致では、宮城県の村井嘉浩知事が台湾を訪問し、同社の最高幹部と極秘に交渉したという裏話が後に明らかになった。魅力的な事業用地、豊富な人材、住みよさ、そして政治力。静岡県の次のリーダーが地域経済の再生への道筋をどう描き、導くかが問われる。
 (経済部・河村英之)

 <メモ>静岡県の製造業は県内総生産(GDP)の3割超を占め、全国の約2割に比べ顕著。ものづくり県を象徴する一方、「偏重」との指摘もある。リーマン・ショック(2008年)以降の本県経済の停滞は浜松市の伸び悩みが一因。同市の製造品出荷額は16年に静岡市を下回り、県内2位になった。

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