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過疎地域も部活動に選択肢を 静岡県内の移行の取り組みは

 部活動の地域移行が進む中、松崎町の総合型地域スポーツクラブ「ウェルネスまつざき」の陸上競技クラブが今春始動しました。少子化に伴う部活動数の減少は過疎地域ではより深刻な問題です。子どもたちの可能性が広がるよう、松崎町の住民有志が環境づくりに取り組んでいます。地域移行と過疎地域についてまとめます。

陸上クラブが始動 部活減の過疎地で 松崎・住民主体で指導

 松崎町の総合型地域スポーツクラブ「ウェルネスまつざき」の陸上競技クラブが今春、本格始動した。住民有志が町内の小中学生に体力づくりや大会出場を見据えた技術向上などレベルに応じた指導を実施。少子化に伴う部活動数の減少で選択肢が狭まる過疎地域でも、活動に打ち込める環境づくりを目指す。

走り高跳びを指導する平野明彦さん=6月中旬、松崎町桜田の松崎高
走り高跳びを指導する平野明彦さん=6月中旬、松崎町桜田の松崎高
 クラブは「ウェルネスまつざきAC(アスレチッククラブ)」。教員時代に陸上競技部の顧問を務めていた松崎中講師の平野明彦さん(67)らが中心となって4月に発足し、教え子や競技経験者がスタッフとして指導に当たる。年齢ごとに週1~2回、小学校や高校のグラウンドで1時間~1時間半の練習を重ねる。
 6月中旬、同町桜田の松崎高で約10人が走り高跳びや走り幅跳びの練習に臨んだ。元教員や全国大会出場経験のある町職員らが指導役を担い、ハードルや投てきなど多岐にわたる種目の技術を教える。現在は小中学生40人ほどが参加し、別の部活と掛け持ちする生徒も受け入れる。
 町教育委員会によると、町内唯一の中学校である松崎中の運動部はバスケットボール、バレーボール、テニスの各部のみで、文化部はない。陸上競技部は2018年度に廃部になった。平野さんは「部活動の数が減り、しばらく陸上を体験できる環境が身近になかった。子どもの可能性が広がるよう挑戦できる場を提供したい」と話した。
 ウェルネスまつざきは2005年度に発足した。住民主体で運営し、町教委が参加者募集などの支援をしている。陸上競技は一時的に数カ月間教室を開催していたが、今春から通年実施する。このほか、太極拳とバスケットボールの各教室が開かれている。
 町教委の斎藤一憲係長は「部活動の維持が難しい中、競技に打ち込みたい子どもたちの受け皿として機能してほしい」と期待する。
 (松崎支局・太田達也)
〈2023.7.29 あなたの静岡新聞〉

伊豆地域7市町 地域移行の協議会設置予定なし 指導者確保できず

 公立中学の部活動を地域団体や民間事業者に委ねる「地域移行」について県教委が6月に市町教委を対象に行ったアンケートで、県内全35市町のうち、16市町が地域移行を検討する協議会を設置済みで、9市町が2023年度に設置予定と回答した一方、伊豆地域を中心とする10市町が23年度に設置予定がないことが、20日までに分かった。県内でも進捗(しんちょく)具合に地域差が生じる結果になった。

 アンケートは地域移行の現状把握を目的に初めて実施した。設置済みは静岡、浜松の両政令市をはじめ、比較的規模の大きな市町に多かった。
 23年度中の協議会設置予定がない10市町のうち、7市町が伊豆地域に集中した。西伊豆町の担当者は「過疎地域では指導者が少なく、町内での人材確保が難しい。周りの市町と協力することが必要で、議論には時間がかかりそうだ」と過疎地域ならではの事情を説明した。
 国は教員の多忙化解消の方策として、23年度から3年間を「改革推進期間」と位置付けて部活動の地域移行を進める考え。県は25年度までの間に、各市町で関係者による協議会の設置を促している。
 各市町の協議会は、県教委が2月に策定したガイドラインに沿って、教員の兼業規定の検討、指導者や活動場所の確保、生徒や保護者への周知など地域移行の課題や方策、関係団体との連携を議論する。活動費を公費負担にするか、受益者負担にするかの議論も必要になる。
 県が21年度から実施している地域移行モデル事業には掛川、焼津、藤枝、沼津の4市が参加し、水泳や陸上競技、剣道などの種目について、各市が設けた拠点校で複数校の生徒が一緒に練習するなどの取り組みが進む。県教委は成果や課題をまとめ、他市町に事例を共有する。健康体育課は「地域によって事情が異なり、進捗に差が出るのは仕方ない。25年度まで期間があるので、他市町を参考にしてほしい」と話した。
 (政治部・大沼雄大)
〈2023.7.21 あなたの静岡新聞〉

部活地域移行 休日試行3市 23年度開始わずか2市 受け皿不足課題 市町教委

 公立中学校の部活動を地域団体や民間事業者に委ねる「地域移行」。国は本年度から3年間を「改革推進期間」と位置付け、まずは休日の地域移行の環境整備を行うよう促しているが、静岡県内では、休日の地域移行を既に試行しているのは3市にとどまり、本年度始めるのは2市のみであることが、静岡新聞社が県内の全市町教育委員会に実施したアンケートで分かった。管理・運営を担う団体が少ないことや、運営や指導者確保に要する費用などが課題となり、一部の市町で計画が進んでいない現状が浮き彫りになった。

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 休日の地域移行を試行しているのは静岡、三島、焼津の3市。静岡市は活動を近隣学校と合わせた「エリア制」とし、二つのエリアで女子ソフトボールと野球を実践研究として実施した。三島市は一部学校のサッカーと卓球を外部指導員が受け持った。焼津市は市内全域から希望者を集め相撲、柔道、剣道、ニュースポーツ、海洋の5種目を地域の専門家が指導した。このほか、掛川市は休日にとどまらず地域団体が運営するクラブ体制の構築を進めている。本年度スタートするのは伊東、袋井両市。
 本年度予算に関連経費が盛り込まれているか尋ねたところ、22市町で協議会の運営や指導員確保のための費用が確保されていた。一方、「改革推進期間」の具体的なスケジュールについては「受け皿となる団体が少ない」(松崎町)などを理由に、10市町で検討中か見通しが立っていないことが分かった。
 地域移行を進める上での課題(複数回答可)は、34市町が「指導者の選任・確保」を挙げた。次いで、費用や送迎負担などへの「保護者理解」が32市町、「運営や指導者確保に要する費用負担」が31市町。「その他」を選んだ焼津市は「地域移行したクラブに対して県中体連の大会参加規定が厳しい」とし、長泉町は「指導者の研修」を課題に加えた。
 アンケートは3月下旬~4月上旬に実施し、全35市町教委から回答を得た。取り組み状況や予算、課題などを尋ねた。

 部活動の地域移行 公立中学の教員が指導する部活動を、地域団体や民間事業者に委託する改革。教員負担や少子化などを背景とした体験格差の解消を狙う。スポーツ庁と文化庁は2022年末、改革のガイドライン(指針)を策定。まずは休日の移行を推進し、地域の実情に合わせて可能な限り早期の実現を目指すよう求めた。これを受けて県教委は部活動の地域連携や地域クラブ活動の在り方に関する方針を策定し、市町教委に対し23~25年度の「改革推進期間」に関係者による協議会設置などを促した。
〈2023.4.30 あなたの静岡新聞〉
 
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