知っとこ 旬な話題を深堀り、分かりやすく。静岡の今がよく見えてきます

国際バカロレアとは? 静岡県内の認定校から見えてきた教育の形

 国際的な教育プログラム「国際バカロレア(IB)」。今春に静岡県西部で初めて、浜松市の聖隷クリストファー小とこども園がIBの初等教育プログラムの認定施設となりました。東部、中部、西部と静岡県全域に広がり、2024年度に開校する県立ふじのくに国際高も導入を目指しています。近年注目されるIBですが、そもそもどんな教育なのでしょうか。日本の学習指導要領の内容は学べるの?授業は英語? 県内のすべての認定校(24年3月時点)を紹介します。

国内外の大学が入試に活用「国際バカロレア」 概要まとめ【国際バカロレアとは? 静岡県内の導入校、全部取材しました①】

 国際的な大学入学資格が得られる「国際バカロレア(IB)」。耳にする機会が増えたが、いったいどんなものなのか。文部科学省からの委託で普及啓発を担う組織「IB教育推進コンソーシアム」事務局への取材を元にまとめた。(2024年1月に取材、教育文化部・鈴木美晴)
photo01
国際バカロレア認定校の加藤学園暁秀高(沼津市)の美術の授業
誕生の経緯
 国際バカロレア(IB)はNPO「国際バカロレア機構」(本部=スイス・ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラム。当初は外交官をはじめ国境をまたいで働く人の子どもらを対象にしていた。どんな国にいても質の高い教育を提供し、国際的に汎用(はんよう)性のある大学進学資格を確保することを目的に1968年に始まった。
 こうした経緯もあり、自分とは異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあると認めて尊重し、平和な世界を築くことができる人材育成を目指した学びの枠組みを構築している。決まった知識を記憶・理解することだけでなく、学び方や思考方法を学ぶ点も特徴。子どもが好奇心を持って自ら学ぶ「探究」を重視している。
大学進学への活用は
 2023年12月末現在、国内の認定校は小中高など164施設。かつてはインターナショナルスクールでの導入が多かったが、現在は国公私立を含む学校教育法で規定された「一条校」にも広がっている。
 23年1月現在で国内77大学がIBを入試に活用している。IB機構のウェブサイトによると、海外でも100以上の国・地域、5千以上の大学で活用している。
 日本では高3で受ける「IB試験」を経て国際バカロレア資格(IB資格)を得た人のみを対象にした入試、IB資格を出願条件とした上で面接や小論文を行う総合選抜などがある。共通テストや大学個別試験を受けずに合格が決まるケースがある一方、これらが課される事例もあり、選抜方法は大学により異なる。
どんな教育内容
 3~19歳の年齢に応じた4つのプログラムがある。
◆PYP(Primary Years Programme・3~12歳)
 日本では幼児教育施設や小学校で導入される。言語・社会・算数・芸術・理科・体育(身体・人格・社会性の発達)の6教科を中心に学ぶ。「私たちは誰なのか」「世界はどのような仕組みになっているのか」など教科横断的なテーマについても学ぶ。どのような言語でも提供可能。

◆MYP(Middle Years Programme・11~16歳)
 日本では中学校で導入されることが多い。言語と文学・言語の習得・個人と社会・理科・数学・芸術・保健体育・デザインの8教科を学ぶ。どのような言語でも提供可能。

◆DP(Diploma Programme・16~19歳)
 日本では高2、高3で導入される。コアと呼ばれる三つの必修要件は、関心のある分野の研究成果をまとめる課題論文(日本語8千字)、学び方を学ぶ「知の理論」(TOK)、課外で自発的に活動する「創造性・活動・奉仕」(CAS)。このほか、言語と文学(母語)・言語習得(外国語)・個人と社会・理科・数学・芸術の6グループの中から1科目ずつ学ぶ。授業や試験は原則として英語、フランス語、スペイン語で実施される。ただし、一部教科を日本語で実施する仕組みもある。DPを全て履修し、外部評価(IB試験)と内部評価を通して規定以上の得点を獲得すると、国際的な大学入学資格を得られる。

◆CP(Careerーrelated Programme・16~19歳)
 キャリア形成に役立つスキル習得を重視したプログラム。2024年1月現在、日本に認定校はない。

(※文部科学省の委託でIBの普及や推進を担う「文部科学省IBコンソーシアム」への取材を元に作成)
 〈2024.1.28 あなたの静岡新聞〉

導入歴20年超 加藤学園暁秀中・高(沼津市)【国際バカロレアとは? 静岡県内の認定校、全部取材しました②】

 静岡県内でいち早く国際的な大学入学資格が得られる「国際バカロレア(IB)」を導入した加藤学園暁秀中・高(沼津市)。仕組みや授業の様子を取材した。(取材は2024年1月)

photo01

どんな仕組み
 中学・高校のバイリンガルコースでIBを導入している。学校教育法で定める学校(一条校)として国内で初めてIB認定校となった。基本的には日本の学習指導要領で定められた内容を、国際バカロレアの授業展開で扱っている。多くの授業を英語で行う「英語イマージョン教育」も特徴。
 MYP(Middle Years Programme・中1から高1)は2000年に認定校となった。国語、歴史、保健体育、一部数学と音楽の授業が日本語。その他は英語。全授業のうち45~55%は英語で行う。
 DP(Diploma Programme・高2と高3)は2002年に認定校となった。国語と保健体育の授業が日本語。その他は全て英語。全授業のうち75%は英語で実施。卒業生のほとんどはIBスコアを利用して大学に進学し、約半数が海外大学に進学する年もある。
どんな授業
photo01
 
DP(高2)の授業「知の理論」

 MYP(中3)の理科の授業では、飛行機の重力や空気抵抗をベクトルで表すプリントに取り組んだ。フィリピン出身の教師のコメントもパワーポイントの資料も全て英語だった。
 DP(高2)の「知の理論」(TOK)の授業では「現在の知識が歴史的にいかに発展してきたか」「知識の吸収に価値観がどう影響しているか」などのテーマについて事例を示しながら分析するために、小グループに分かれ英語で議論した。
どこがポイント
 IBでは教科により若干異なるものの主に知識、リサーチ・分析、コミュニケーション、振り返りなどを評価する。知識の定着だけでなく、どれだけ調べたか、効果的な表現ができているかも評価の対象となる。
 普通(IBでない)学校との違いについて、バイリンガルコースディレクターのウェンドフェルト延子さんは「評価の内容が異なるため、授業も異なるやり方で実施する」と説明する。「教師が一斉教授で知識を授けるのでなく、生徒が自ら調べたり意見を作り出したりする時間が長いのが特徴」と語る。
 同校は主に英語圏出身のIB経験者を採用し、授業の多くは外国出身教師が担当している。英語を使う授業では、教師の説明も生徒の発言も英語で行われていた。高1の生徒の持ち物の化学のテキスト(全945ページ、厚さ4・5センチ)も記述は全て英語。英語に浸る「英語イマージョン教育」が至る所で見られた。
 〈2024.1.28 あなたの静岡新聞〉

幼小中高一貫で認定 静岡サレジオ(静岡市清水区)【国際バカロレアとは? 静岡県内の認定校、全部取材しました③】

 

photo01

 幼稚園から高校まで一貫して「国際バカロレア(IB)」認定校となった静岡市清水区の静岡サレジオ。仕組みや授業の様子を取材した。(取材は2024年1月)
どんな仕組み
 幼稚園、小学校、中学校、高校でIBを導入している。2022年に学校教育法で定められた学校(一条校)として国内で初めて、幼稚園から高校まで一貫したIB認定校(園)となった。いずれも日本の学習指導要領(幼稚園は幼稚園教育要領)を満たしながら、世界的な教育法のIBで授業を行っている。
 PYP(Primary Years Programme)は幼稚園と、小1から小4までの年代で実施。「私たちはどのような時代と場所にいるのか」「この地球を共有するということ」などのIBのテーマを教科と組み合わせた「国語探究」「理社探究」などの授業を行う。英語の授業は英語で行い、コミュニケーション能力を育成する。
 MYP(Middle Years Programme)は小5~中2の年代で実施。教科ごとに探究活動やプロジェクトを行う。英語の授業は英語で実施。
 DP(Diploma Programme)は、教育提携校の上智大への進学を目指すソフィアコースの高2と高3の学年で行う。英語と演劇の授業は英語で実施。卒業生の大半はIB資格を取得し、上智大へ進む。(中3と高1は「プレDP」として導入的な授業も行う)
どんな授業
photo01
PYP(小1)の授業

 PYP(小1)の探究の授業では、クラスの役割について考えた。児童はクラスの目的を「楽しく勉強すること」と決め、日直や係のほか「授業中に発言する」「人の話を聞く」など自分たちが果たしたい役割について意見を出し、プリントに記入した。
 MYP(小6)の図工では、オリジナル家紋作りの準備に取り組んだ。制作に先立ち、日本の伝統的な家紋の事例やモチーフを調べ、さらに海外に家紋と似た役割を果たす存在があるかを探すことに決まった。
photo01
 
DP(高2)の授業

 DP(高2)の歴史の授業では「18~19世紀の革命を担った階層は」「(欧州各地の)1848年の革命に代表される19世紀の革命は、どのような国家を生み出したか」などの課題に小グループで挑戦。教科書やウェブサイトで調べ、事例を挙げながら意見をノートパソコンにまとめた。
どこがポイント
 普通(IBでない)学校との違いは何か。問いに対して、杉山公英教頭は「世界的に認められた教育法(IB)で教えていること」と切り出す。「自ら疑問を持ち、調べ、考えをまとめてプレゼンテーションする。これを幼い頃から徹底的に繰り返すことで、思考力と判断力を鍛えている」と言葉を加える。
 IBチーフコーディネーターの西多美保さんは「日本のこれまでの授業は板書して説明する教師が忙しかった。IBの授業は自ら考え、リサーチして主体的に学ぶ子どもが一番多く頭を動かしている」と説明する。
 ​〈2024.1.28 あなたの静岡新聞〉

幼稚園で導入 エンゼル幼稚園(長泉町)【国際バカロレアとは? 静岡県内の認定校、全部取材しました④】

 

photo01

 国際的な教育プログラム「国際バカロレア(IB)」。学校での導入が多い静岡県内で、幼稚園として認定されている長泉町のエンゼル幼稚園で活動内容を取材した。(取材は2024年1月)
どんな仕組み
 2020年にIBのPYP(Primary Years Programme)認定園となった。幼稚園教育要領改訂(18年4月施行)の審議が進む中、AIの進化などを踏まえて園内の教育課程を再検討し、世界的に認められる教育法の導入を決めた。
 PYPは決められた活動はないため、IBの理念に沿って活動を生み出す必要がある。同園ではIBの理念に則して、幼稚園教育要領を実践する。四つのユニットからなる年間計画をつくり、探究テーマや実現したい子どもの姿を設定している。
どんな活動
photo01
 
ユニットでの学びが、園内に掲示されていた

 毎年行われる発表会に向けてのユニットでは、各学年で年齢に合わせた表現を目指す。オペレッタに取り組む年少は、音楽やせりふに合わせて動きを楽しむ。クラスで選んだ絵本に沿い劇をつくる年中は、キャラクターやせりふを決める。年長では、それまでの学びの中から伝えたいテーマを自分たちで決める。ストーリーの起承転結を考え、話の流れ、せりふ、動きなどをクラスで相談して劇をつくり上げる。
どこがポイント
photo01
 
外国出身講師と一緒に、英語の歌に合わせて園児が体を動かしていた

 園が重視するポイントの一つは、子どもが考えたり話し合ったりする場を生活の中につくること。工作の材料を子どもが自ら選択するといった日常の細かな点にとどまらず、演劇の事例のように内容自体を決めるといった中長期的な活動にも当てはまる。
 決められたプログラムに取り組むのでなく、自分たちで何をどうするかを決めて周囲と協力しながら成し遂げる。こうした経験をすることで、どんな環境にあっても自分の考えを持ち、自他を尊重して成長できるようになるという。
 PYPは国際的な大学入学資格を得られるDP(Diploma Programme・高2と高3で受講)とは異なり、成果が形で得られる訳ではない。「幼児期に目に見える結果を求めてはいない。子どもの成長過程で幼児期に体験して積み重ねたことが、徐々に開花していくと思っている」(野秋和弘園長)
 PYPはどのような言語でも提供可能だが、同園では将来必要になるとの理由で英語に力を入れている。通常の活動の中に英語遊びを取り入れるほか、希望者向けに1回40分のレッスンを毎日、提供している。
 ​〈2024.1.28 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞