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「2024年問題」4月から暮らしにどう影響? 働き方改革への静岡県内の動きは

 長時間労働が常態化する自動車運転業・建設業・医師にも、4月1日から働き方改革関連法に基づく残業の上限規制が導入されました。過労を防ぐ狙いですが、人手不足の深刻化によるサービス低下など「2024年問題」の懸念も強まります。想定される暮らしへの影響と静岡県内の各業界の取り組みを紹介します。

【Q&A】物流/バス・タクシー/建設業/勤務医

残業規制拡大 サービスの低下が懸念

2024年問題(4月1日から残業上限規制適用)
2024年問題(4月1日から残業上限規制適用)
 時間外労働(残業)の上限規制の適用業種が4月1日に拡大することで、宅配や医療、公共交通などのサービス低下が懸念されます。「2024年問題」と呼ばれています。 
 Q 適用業種は。
 A トラックやバス、タクシーなどの自動車運転業、建設業、医師、鹿児島・沖縄両県の製糖業です。
 Q 何が起こるの。
 A 1人が働ける時間が減る形となり、宅配の荷物が届くのが遅くなったり、診療を受けにくくなったりするかもしれないと言われています。
 Q 困りますね。
 A 規制が設けられた背景には、過労の末に命を落とす人たちを出してしまったという反省があります。健康的で働きやすい職場に変えていくことは重要です。
 Q なぜこの時期に。
 A 多くの業種は19年4月から規制が順次適用されてきました。今回の業種には「限られた工期で集中的な作業が必要になる」(建設業)、「個人に仕事が集中しやすい」(医師)といった構造的な要因があります。政府は直ちに規制を適用するのは難しいと判断し、改善のため、5年間の猶予期間を設けました。
 Q 成果は。
 A 官民ともさまざまな対策を進めてきましたが、例えば建設業は受注者と発注者の関係が対等になりにくいといった長年の慣行があり、課題解消は容易ではありません。通信販売が伸びて宅配サービスの需要が急速に増えるなど、社会の変化もありました。長時間労働をしなければ成り立たない仕組みに問題はないのか、私たちの行動を含めて社会全体で見直していく必要があります。 物流 長距離輸送遅れ、欠品も
 物流の「2024年問題」では、さまざまな荷物が今までのように運べなくなることが心配されています。
​  Q どうして運べなくなるのですか。
 A 4月からトラック運転手の残業が制限されることになり、働ける時間が短くなります。何も対策を打たなければ、運転手が運べる量は減ってしまいます。24年度には約14%、30年度には約34%の荷物が運べなくなるという推計もあります。
 Q 具体的にどんな影響が出そうですか。
 A 最も影響が出るのは長距離輸送です。例えば東北や九州の農産物を東京や大阪に早く運べなくなり、スーパーで欠品が出るかもしれません。
 Q 宅配便の配達も遅くなりますか。
 A 長距離の翌日配達が難しくなります。インターネット通販で買った商品を自宅に運んでくれる運転手のうち、残業が制限されない個人事業主は24年問題の影響は直接ありませんが、今までより時間がかかるかもしれません。
 Q 鉄道や船で代替すればよいのでは。
 A 日本は小回りが利くトラックが物流の主役です。荷物の重量ベースでは、約9割という圧倒的なシェアが長年続いています。政府が鉄道や船に切り替えるよう旗を振っていますが、簡単ではありません。
 Q どうすれば問題は解決しますか。
 A 近道はありませんが、運転手の待機時間削減や複数の企業による共同輸配送といった効率化への取り組みが必要になります。賃上げや働く環境の改善が進めば、運転手不足の解消も期待できます。ゆとりのある日程で荷物を運んでもらうなど、私たち消費者にもできることはあります。 バス、タクシー 路線休廃止に拍車恐れ
 時間外労働の上限規制は、バスやタクシーの運転手にも導入されます。
​  Q 導入の影響は。
 A 働き方改革の進展が見込める一方で、規制が始まる4月以降、バス路線の休止、廃止などを迫られる会社が出てくるかもしれません。昨年12月、大阪府富田林市の金剛自動車がバス事業を廃止しました。利用者減と運転手不足が理由で、こうした動きに拍車がかかりかねません。タクシーも営業短縮など利便性低下の恐れがあります。
 Q いずれも運転手が減っていると聞きます。
 A 政府によると、2016年度に約13万3千人いたバス運転手は、21年度には約11万6千人まで減少。法人のタクシー運転手は同じ期間で2割超減りました。日本バス協会は30年度に約3万6千人の運転手が不足すると試算しています。
 Q 減少の理由は。
 A バスの場合、全産業と比べ労働時間は1割ほど長く、賃金は2割ほど低い状況で、採用の支障となっています。コロナ禍の外出自粛でバス、タクシーとも利用者が激減し、退職者が相次いだのも一因です。
 Q 政府の対策は。
 A 旅客輸送に必要な2種免許取得費用の支援などをしています。タクシー会社の管理下で一般ドライバーが自家用車で乗客を有償で運ぶ「日本版ライドシェア」を4月から始めます。特定技能制度も見直して、運転を担う外国人労働者を増やそうとしています。 建設業 工期長期化 価格上昇か
 建設業界でも「2024年問題」が懸念されています。
​  Q どんなことが想定されますか。
 A 同じ内容の工事だったとしても、従来より工期が長引いたり、物件価格が上がったりする可能性があります。人手不足により工事を受注できず、経営難に陥る中小事業者が出てくるかもしれません。
 Q 影響が大きそうですね。
 A 裏を返せばこれまでは無理な働き方の上に成り立っていた面があるとも言えます。無制限の残業や「週休1日」を前提にした産業は持続可能とは言えません。建設業の就業者は1997年の685万人から2022年に479万人まで減り、このうち29歳以下は1割程度です。若い人に魅力ある職業にしなければ、新規就業者は減る一方です。
 Q 政府の対策は。
 A 発注側、受注側の双方に、規制の趣旨を理解した上で短すぎる工期での契約をしないよう呼びかけています。工期に間に合わせようとして、残業が増える原因になるからです。担い手確保には賃上げや長時間労働是正が急務で、建設業法の改正も目指しています。
 Q 民間事業者がすべきことは。
 A 工程や工法の見直し、デジタル技術の活用などを通じて効率化を進める工夫が求められます。週休2日制の導入、現場で働く技能者の経験や技術力に応じた賃上げも必要です。 勤務医 休日受診や地域医療 影響
 激務で知られる医師にも時間外労働規制が適用されます。
​  Q 医師はどんな働き方をしているのですか。
 A 昼夜を問わない救急医療など、長時間労働が常態化しています。厚生労働省の2022年の調査では、約1万人の勤務医のうち2割が、毎月平均で「過労死ライン」に達する年間960時間超の残業と休日労働をしていました。
 Q 規制の内容は。
 A 勤務医の残業と休日労働の上限を、4月1日から年960時間に規制します。救急やへき地医療の従事者、研修医らは特例で、年1860時間まで延長が認められます。特例は医療現場の実情を考慮して設けられましたが、国は将来的に撤廃したり、上限時間を短縮したりする方針です。
 Q 医療サービスに影響はありますか。
 A 医師の休日労働を減らすため、病院が日曜日の受診を制限するなどの影響が考えられます。大学病院の多くは医師を人員不足の民間病院に派遣していますが、規制でこうした兼業・副業ができなくなり、地域医療の維持が難しくなるとの懸念も出ています。
 Q 何か対策は。
 A 主治医の複数担当制、研修を終了した看護師に特定の医療行為を任せるタスクシフト、電子カルテの音声入力といったデジタル技術による省力化など、工夫を進めています。同地域で役割が似た病院を統合するなど医療体制を効率化する構想もあります。
 Q 私たちにできることは。
 A 夜間や休日の診療時間外に緊急性のない受診は控えましょう。大病院への患者集中を防ぐため地域のかかりつけ医を活用するのも重要です。
 〈2024.3.25 あなたの静岡新聞〉

【物流】「中継輸送」加速 日帰り勤務可能、運転者の負担減

 トラック運転手の働く環境改善へ時間外労働の上限規制が設けられる「2024年問題」。県内外の運輸・物流企業が対策として、国内物流の大動脈の関東-関西間の中間に位置する静岡県に拠点を置いた「中継輸送」に取り組んでいる。従来、1人のドライバーが泊まりがけで運ぶ長距離輸送の行程を、仲間で分担することで日帰り可能な勤務にして負荷を低減させる狙いだ。

ドライバーの交代、トレーラーの交換作業などが行われた中継輸送拠点「コネクトエリア浜松」=8月中旬、浜松市北区
ドライバーの交代、トレーラーの交換作業などが行われた中継輸送拠点「コネクトエリア浜松」=8月中旬、浜松市北区
 8月中旬の深夜、浜松市北区の新東名浜松SA(サービスエリア)下り線の隣接地。中日本高速道路と遠州トラック(袋井市)が共同運営する中継輸送拠点「コネクトエリア浜松」に、上下線のスマートICを降りた大型トラックやトレーラーが続々と乗り入れた。
 事業開始から5年となる同拠点(面積約8千平方メートル)は32台分の駐車バースを備える。関東や関西方面を発地に走行してきた予約済みの車両がペアで落ち合い、ドライバー交代やトラクター(けん引車)部分の交換作業などを終え、来た方向に戻る。22年度の延べ利用台数は前年度比33%増の約1万台で、直近7月の1カ月の累計利用台数は前年同月比12%増の1032台と増加傾向にある。
 大阪・茨木市のドライバー歴15年の男性(59)は「中継輸送を担当して体の負担が減った」と表情を緩めた。利用企業の中には中継輸送を前提に採用している企業もあるという。遠州トラックの榑松弘充営業企画課長は「潜在的なニーズは高い。利活用を促していきたい」と声に力を込める。
 県外の企業も本県の立地や施設を最大限に生かす。
 大手食品5社が共同出資する物流会社「F-LINE」(東京)は関東と中部地域の配送で6月から、上下集約型の新東名清水PA(パーキングエリア、静岡市清水区)を拠点に中継輸送を始めた。従来茨城県の工場から愛知県に輸送していたカゴメと、愛知の倉庫から関東エリアに向かう日清製粉ウェルナの輸送で、逆方向から来た両トラックの運転手が中間の清水PAで交代する。鴻池運輸(大阪市)は14年、同社中継輸送の第1事例として島田市にスイッチセンターを設けた。休憩も可能な自社拠点を有効に活用する。
 15年以上前から中継輸送を導入する鈴与(静岡市清水区)は、具体的効果の一つに、離職率が全国平均の半分以下の5%と運転手の定着率向上を挙げる。近年は荷主企業だけでなく、同業の運送会社と連携した中継輸送ネットワーク拡大にも取り組んでいて、担当者は「人手不足が社会課題となる中、輸送、荷主企業や利用者、社会が歩み寄り、物流効率化に向けて理解や協力をしていくことが必要になる」と指摘する。
 (浜松総局・山本雅子)
中小への浸透 課題
 一つの輸送工程を複数のドライバーで分担する中継輸送は、自社拠点やドライバー数に余裕がある大規模企業が先行する一方、トラック事業者の大半を占める中小企業にはハードルが高い。働き方改革を後押しする国土交通省も課題として捉え、「物流量やニーズが高い地域を見極め、中小事業者を含めて中継輸送が実施可能な環境整備を検討する」としている。
 国交省の資料などによると、労働時間規制などへの具体策を講じなければ、30年度には輸送能力が約34%不足する可能性があるなど物流の停滞が懸念される。
 〈2023.9.10 あなたの静岡新聞〉

【建設】DX加速 静岡県発ネットワーク全国拡大 人材不足解消へ

 静岡県内の建設業でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速している。本県発の業界ネットワークは全国各地の103社に拡大し、スタートアップ(新興企業)などと連携しながら省人化や省力化に向けたシステム、ロボットの導入が進む。成果や取り組みは企業間で共有し、今春始まる残業時間の上限規制で深刻な人手不足が懸念される業界全体の課題解決につなげる。

工事現場で廃材を運び出すロボット=2月上旬、浜松市立神久呂小
工事現場で廃材を運び出すロボット=2月上旬、浜松市立神久呂小
 校舎の長寿命化工事が進む浜松市立神久呂小で、荷台を付けた横幅1メートルほどの運搬ロボット「サポット」が廊下を行き来した。廃材を一度に300キロまで搬出でき、作業員を感知して自動追従する機能も備える。施工する須山建設(同市)管理チームの木村雄紀課長は「これまで職人が一輪車に積んで何往復もした作業が一気に楽になる」。作業員の不足と高齢化が進む中、現場の安全性向上も見込む。
 サポットを開発したのは、社内ベンチャーとして2021年に設立されたソミックトランスフォーメーション(同市)。昨夏に使用した須山建設の要望を受けて耐荷重や寸法などの調整・改良を加え、2月から再び現場に投入した。事業担当の玉城彰公さんは「小回りが利くスタートアップのスピード感を大切にしている。多くの現場で使ってもらい、さらなる改良を重ねたい」と語る。
 三島市の加和太建設では、電話で行う建機レンタルの発注業務にオンラインを取り入れた。数千に及ぶ商材のデータベース化を進める東京のスタートアップ「ソラビト」、太陽建機レンタル(静岡市)との連携により、ウェブ入力だけで必要な機材が現場に届くシステムを導入。発注は24時間可能、電話がつながらないストレスや時間的なロスがなく、誤発注や返却し忘れなども抑制できる。
 静岡市の木内建設はスタートアップと連携し、会議の議事録作成に人工知能(AI)を取り入れた。過去の物件データもAIに読み込ませ、予算や建物規模の概算を短時間で顧客に提示するシステム開発にも取り組む。同社未来共創チームの望月寿人チームリーダーは「人手不足の解決には企業が連動する取り組みが必要。業界として機運を高めたい」と話した。
 (経済部・金野真仁) 準大手ゼネコン規模に 情報交換重ね連携深化  加和太建設、木内建設、須山建設の県内3社で2022年に立ち上がった地方建設業のコミュニティー「オンサイトX」は、昨年末までに全47都道府県に拡大した。103社の総売上高は準大手ゼネコン規模の約8700億円。情報交換を毎月重ね、業界の課題解決に向けて連携を深めている。
 今春の残業規制でさらなる人手不足が懸念される「2024年問題」。建設業界は特に地方で離職率が高い若手社員への教育、職場改善などが急務な一方、各地の競合で企業間の連携が進まず、業界の古い慣習から抜け出せずにいるという。県内業者に対する22年の調査では、7割が人手不足を訴える。
 単独の地方企業では難しいスタートアップとの協業は、ネットワークの拡大で可能性が広がる。DX化は単なる省人化にとどまらず、業界内の意識改革につながるとの期待もある。オンサイトXを立ち上げた加和太建設の河田亮一社長は「人は急に増えないし、仕事を減らすわけにもいかない。それならやり方を変えていくしかない」と変革の意義を語る。
 〈2024.2.19 あなたの静岡新聞〉

【勤務医】時間外労働、上限延長へ 静岡県立総合病院が特例申請

 2024年4月から始まる「医師の働き方改革」を巡り、静岡県立総合病院(静岡市葵区)が地域医療の救急対応や医師派遣を担うため特例として時間外労働の上限を延長できる「特定労務管理対象機関」の指定を県に申請していることが、31日までに分かった。実現すれば県内初のケースとなる。

医師の残業上限規制
医師の残業上限規制
 働き方改革により24年度から勤務医の時間外労働の上限は年960時間に規制されるが、国は一定の要件を満たすと年1860時間まで拡大する特例を認めることにしている。
 県立総合病院は高度な診療機能を持つ「高度救命救急センター」としての役割を担うほか、別の医療機関にも医師を派遣して地域医療を支える。国の医療機関勤務環境評価センターからは「医師の労働時間短縮に向けた取り組みは十分に行われており、労働時間短縮が進んでいる」との評価を受けた。8月30日に開かれる県医療審議会で異論がなければ県の指定を受ける見通し。
 同病院の高橋浩二労務管理課長は「計画を早期に進められたのは院長の理解とリーダーシップによる。医師の増員、看護師やメディカルスタッフらによるタスクシフト(業務移管)の推進に努め、医療の質を落とさずに時間外労働を減らす努力をしている」と話した。
 働き方改革に伴う規制で、19年度から一般労働者の時間外労働は原則年360時間まで、最長で年720時間までとされた。医師は原則として診療を拒めない「応召義務」などへの配慮から原則上限が年960時間となり、適用時期も5年猶予されて24年度からとなった。特定労務管理対象機関に指定された病院には、休息時間を確保する「勤務間インターバル」などの対策が義務付けられる。
 厚生労働省の19年の調査では、勤務医の4割弱は時間外・休日労働時間が年960時間を上回り、約1割は年1860時間を超えていた。 静岡県、勤務環境改善を支援 研修会で事例共有 システム整備補助
 静岡県は働き方改革に対応する医療機関を支援するため、勤務環境改善に向けた研修会を開催したり、労働時間を短縮するためのシステム整備費を補助したりしている。
 7月上旬に静岡市内で開催した研修会には、オンラインを含め医療関係者100人余りが参加した。順天堂大静岡病院(伊豆の国市)の担当者が、スマートフォンアプリと勤務管理システムを活用して医師の勤怠状況を把握する仕組みを説明。県立総合病院の担当者は「医師の働き方改革」と題し、勤務間インターバルの確保や医師の業務見直しといった取り組みを発表した。
 2024年4月の医師の働き方改革実施まで8カ月に迫る中、医療サービスの維持と医師の健康確保を両立させるには業務効率化も重要となる。県は勤務環境改善に取り組む医療機関への財政支援として、勤怠管理システムや電子カルテ、院内のWi-Fi導入といった費用を助成している。
 〈2023.8.1 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞