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【ブルブル座談会 後編】オーケストラのリハ? 単なる練習じゃないの?その魅力とは!?

みなさん、こんにちは!編集局紙面編集部の遠藤竜哉です。
今回はブルックナーを愛してやまない方々による、ややマニアックな座談会!の【後編】をお届けします!
 

オーケストラのリハ? 単なる練習じゃないの? その魅力とは!?

【司会:遠藤】
ここからは、富士山静岡交響楽団の公開リハの話に移りましょう。
今回は、本番直前の通し稽古(ゲネプロ)ではなく、3日間ある練習の2日目、つまり曲の構造や解釈に関する方針を決定し、各パートがバランスなどを調整しながら曲を組み立てていく重要な場面を公開します。なかなか稀有なことだと思います。

公開リハ、正直どうですか? 楽しみですか笑??
 

多彩な楽しみ方、公開リハはとっても魅力的!

【静フィル:江成】
それは、ものすごく興味深いですよ。本番の完成した演奏を聴くのではなく、オーケストラがどうやって曲を作り上げていくのか、指揮者と楽団員がコミュニケーションを取りながら進めていく段階を間近で見るのは、すごく勉強になると思います。アマオケの仲間たちで、できるだけたくさん参加できればいいなと思います。

【遠藤】
いいことをおっしゃいます!

絵画に例えれば、画家がどう構図を決定し、どんな感じで下絵を描いて、色を付けていくのかーという創作過程を間近で見るのと同じですから、特に楽器をやっている方にはかなり勉強になりますよね。一方で、楽器は演奏しないけれど、クラシック音楽を聴くのが好きという方も多いと思います。楽しめるものでしょうか。

【江成】
楽器を演奏しない方でも、十分に楽しめると思いますよ。

数年前、静岡県主催の「ふじのくに子ども芸術大学」という、指揮者の三ツ橋敬子さんを招いた公開講座があり、静フィルがその場で配られた初見の楽譜を見ながら楽曲を組み立てていく様子を小中学生に見学してもらうという試みがありました。
どうなるか分からないので、楽団にとってはリスキーなことでしたが、オーケストラが成り立っている「仕組み」を子どもたちに見てもらったわけです。子どもにも楽しんでもらえたので、もちろん大人だって分かると思いますよ。そもそも、オケの仕組みって、リハーサルから見ないと分からないことが多いと思います。
 

本番との違いが一番の見どころ!

【静フィル:佐々木】
私はね、立場によって、いろいろな楽しみ方ができると思うんです。

楽器をやっている人であれば、指揮者と楽団員のコミュニケーション、つまり指揮者の先生がおっしゃったことがどう音になっていくのか、とても興味深いですよね。
他方で一般のクラシック音楽ファンの方でも、楽譜が読めれば、スコア(全パートが書かれた「総譜」)を手に、今どこを練習しているのか追いかけながら、リハを聴くのも楽しいと思います。

これまでオーケストラの演奏会に足を運ぶ機会がなかった方々でも、プロの楽団の舞台裏を見ることができるのですから「練習ってどんな風に進むのだろう?」など、素朴な疑問や興味を持って楽しむことができると思います。

本番は独特の緊張感や客席との一体感があり、リハとは違った演奏になるはずです。この違いを楽しめるのも、リハを見学する意義。リハを聴く機会が得られた方は、ぜひ本番にも出掛けてほしいですね。

【遠藤】
途中経過を知っているのと知らないのでは、完成品(本番)を聴いた時の印象が全然違うでしょうからね!

【佐々木】
もしかしたら、どこかのパートを重点的に特訓する場合だってあるかもしれないじゃないですか。本番に接すれば、リハで聴いた部分が「こうなったんだ」とか「指揮者の指示がこんな風に音になるんだ」とか、発見があると思います。

シェフが仕込みや下ごしらえをしている場面はもちろん勉強になりますが、その後にちゃんとコース料理になって、ワインも味わって…みたいな、完成品があってこその音楽の楽しみだと思いますよ。
 

細かな解釈の違いにもご注目を!(この部分はちょっとマニアック)

【清水フィル:剣持】
私は1人のブルックナーファンとして、また、アマチュア奏者として、今回の公開リハが楽しみで仕方ないんです。すでに手帳に予定を書き込んであります。

音楽ファンとしては、まず、版の問題に関心がありますね。静響さんが前回第7番を演奏した時は、ノヴァーク版かと思ったらハース版で「ああ、シンバルなかった〜」なんて思いました笑。
今度の第8番もハース版のようですが、きっと指揮者の高関さんから細かな指示があって、実質的には「高関版」のようになるんじゃないかと思っています。
その指示がどのようなものか、そしてどう料理されるのか、その場に行って確かめるのが、とても楽しみです。

【遠藤】
やはり、ブルックナー演奏では「版」の問題が話題になりますね。実は、2024年に入ってプロ、アマ問わず、ブルックナーの第8番を演奏する団体を調べたんですが、今のところすべてハース版でした。原典に近いから、ということでしょうかね。

(補足)
ブルックナーは、そのスケールの大きな音楽とは対照的に、人から意見を言われると、作品にちょこちょこ手を加えることが度々ありました。ブルックナーの最終的な意思は謎のケースが多いとされます。作曲家自ら手を入れた「稿」に加え、弟子や後世の学者が解釈を加えた、さまざまな「版」が存在します。その代表格が、音楽学者の名前を冠した「ハース版」と「ノヴァーク版」です。
今も研究が進んでいて、学説上の議論が絶えません。ちなみに、22年に静響が演奏した第4番は「新ブルックナー全集版1878/80年第2稿、コーストヴェット校訂2018年」という最新研究に基づいた版でした。

【剣持】
もう一つ、面白い話があるんですよ。実は、最近知ったことですが、ブルックナーの演奏史に名を刻んだ往年の名指揮者チェリビダッケは、第1楽章の冒頭(5小節目)のクラリネットの旋律をファゴットに吹かせているんです。

【遠藤】
えええ。本当ですか?

【剣持】
しかも、音を一部変えて。
調べると、高関さんも過去同じような試みをしたことがあるらしい。

【遠藤】
おー!!!

(補足)
剣持さんに教えてもらい、チェリビダッケのミュンヘン・フィルとの録音3種(1990年東京ライブ、93年EMI盤、94年リスボンでのライブ)を聴いてみたところ、確かにファゴットが吹いている。クラリネットをうっすら重ねているかもしれないが…

【剣持】
ピンポイントですが、この部分がどう演奏されるか、興味ありますね。
そして、その方針の理由ですよね。

【遠藤】
きょう座談会をやってよかった。楽しいなあ。

【剣持】
リンツで見た自筆譜には、5小節目に手を加えた痕跡がありました。
作曲の過程で何か変遷したのかもしれませんね。

【遠藤】
ハース版も、ノヴァーク版も、通常はクラリネットですからね。
ところで、ハース版はスコアが手頃な価格で手に入らないのが難点ですね。

【剣持】
私も東京で探して見つけましたが、値段を見て断念しました。
 

練習の様子自体、滅多に見られるものじゃない!

【遠藤】
浜響の美和さんは、どんな部分に注目されますか。

【浜響:美和】
指揮者の高関さんが何をおっしゃるか、本当に楽しみです。プロの公開ゲネプロを見に行っても、さっと通して終わりってパターンが多いじゃないですか。だから、今回みたいな練習2日目の公開って、貴重です。奏者それぞれには入念に準備しているでしょうけど、合奏現場に来てからの調整が結構多いと思いますから。

思想が出るのは、まずはテンポ設定ですよね。アゴーギグの中で、先に行くと思ったら止まっちゃったなんてこともあると思います。高関さんがどの楽器にどうオーダーして音にしていくのか、その整えていく過程を見たいです。

【遠藤】
どこをピックアップして練習するか、注目ですよね!
美和さんは、第8番だと、どの部分がお好きですか。

【美和】
緩徐楽章です。

【遠藤】
あー、ゆったりとした第3楽章。

【美和】
そうです。メロディーが繰り返され、だんだん盛り上がっていく場面があるじゃないですか。どこを頂点にして、どう持っていくのかな。興味津々です。

【遠藤】
沼響の長田さんは、打楽器奏者として、いかがですか?

【沼響:長田】
ブルックナーは、シンバルもティンパニも大変です。
みなさんに「打楽器、活躍できていいね」なんて言われますが、盛り上がって盛り上がって、大事なところで外したら大変ですから笑。むしろ自分では、オケの最高潮のテンションを下支えするのが打楽器の役目だと思っています。
 

演奏者間での意思疎通の様子を見たい!

【遠藤】
堀さんは、いかがですか?

【沼響:堀】
本番だけでは伝わらない部分があって、スコアに書かれた音符がどうしてこういう音になっているのか、因果関係とでもいうのでしょうかね。ブルックナーの音楽をより深く聴くきっかけになればいいなと思っています。
アマチュアオケだと技術的な指導が多くなりますけど、相手がプロなので指揮者もより深い音楽そのものに言及していくはず。プロの指揮者が、プロ奏者の集団に、何をどう伝えるんだろうーと興味がありますね。アマチュアではなかなか聴けないところだと思います。

もちろん、リハの音を聴くのも楽しみですが、高関さんの人間味というか、人柄にも接することができればいいなと思っています。

【遠藤】
ちょっと意地悪な質問ですが、オーケストラの演奏会に滅多に行かない人を今回の公開リハに誘うとしたら、堀さんならどう声をかけますか?? やっぱり、ハードルが高いですかね。

【堀】
本番の方がハードルが高いと思います。練習なら行ってみようという発想もあるかもしれません。いきなりブルックーか…!とは思いますが、本番のコンサートよりは気楽かもしれませんね笑。
 

高関さんの人柄にも触れられるかも!

【佐々木】
指揮者の先生って、本番では基本的にしゃべらないじゃないですか。アンコールの紹介は時々ありますけど。だから、公開リハは、先生の声を耳にする貴重な機会でもありますよね。
みなさんがおっしゃる、演奏者間でのコミュニケーション、高関さんの人柄のような部分は、私もとても楽しみにしています。

【堀】
指揮者と楽団員の会話の様子自体、どんな内容なのか興味深い。

【遠藤】
公開リハで、高関さんと来場者のコミュニケーションもあれば、より有意義な時間になるかもしれませんね。公開リハの申し込みフォームで「高関さんに聞いてみたいこと」を募っていますので、ぜひお寄せください。

このあたりで時間切れ!
長文読んでいただきありがとうございました。

ザンクトフローリアン修道院 外観

ザンクトフローリアン修道院 内部

ザンクトフローリアン修道院。ブルックナーの墓

ザンクトフローリアン修道院近くの光景

リンツ市内のBrucknerという名前のカフェ

ブルックナーが若い頃に勤めていたリンツ大聖堂 内観

リンツ大聖堂 外観

以上、写真は清水フィル・剣持さん提供。

そして以下の3枚は、ブルックナー臨終の家に関連した写真。
オーストリア・ウィーンのベルヴェデーレ宮殿内です(遠藤撮影)。







ここまで飽きずに読めたアナタは、かなりのツワモノ!
長いブルックナーの交響曲もきっと聴き通せるハズですね!

では、また!!

【参考情報】
◆富士山静岡交響楽団第123回定期演奏会
https://www.shizukyo.or.jp/post/20240203
 

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静岡新聞SBS有志による、”完全個人発信型コンテンツ”。既存の新聞・テレビ・ラジオでは報道しないネタから、偏愛する◯◯の話まで、ノンジャンルで取り上げます。読んでおくと、いつか何かの役に立つ……かも、しれません。お暇つぶしにどうぞ!

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