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河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

ジュビロ磐田の補強を分析!GK川島以外は新加入全員20代 ベース作りが必要な新シーズンは“伸びしろ”重視か


J1昇格組のジュビロ磐田は総勢15人が新たに加入した。実に半数近くメンバーが入れ替わったことになる。

もちろん1年間の補強禁止が明けたこともあるが、大津祐樹、八田直樹、さらに日本サッカー界を代表するレジェンドでもある遠藤保仁が現役引退。アカデミー育ちで、長く磐田の中盤を支えた山本康裕が心機一転、J3の松本山雅に移籍するなど、伝統あるクラブが大きなサイクルの移行期を迎えた。

一部で誤解混じりの報道もあったが、2年目の横内昭展監督は勝ち点40を中間目標に掲げた上で、残りの試合を逆算しながら上を目指していくという方針を選手たちにも伝えている。

磐田にとってもちろん今シーズンの成績は大事だが、何よりJ1のステージでチームが常にタイトルを争い、アジア、さらには世界に出ていくためのベース作りの1年と捉えているわけだ。

それは藤田俊哉SDが統括するフットボール本部も共有しており、補強した戦力の年齢などを見ても、助っ人的な戦力より”伸びしろ”を折り込んだ選手が多いように見受けられる。

「永嗣もポジションは約束されていない」

その中で、少し異色と言えるのが40歳の川島永嗣だ。5シーズン在籍したフランス1部のストラスブールを退団し、半年間に渡り所属クラブが無かった。川島は「生活スタイルはあまり変わってなかったです。トレーニングを継続しながら、子供が小さいので家族との時間を過ごして」と語っている。

実際にトレーニングを見ても、守護神としてJ1昇格を支えた三浦龍輝やJ1王者の神戸から来た24歳の坪井湧也にとっても指標となるようなプレーを始動日から見せていた。

元日本代表GK川島永嗣の経験に期待


新加入選手は川島を除くと全員20代で、全体的に平均年齢が若返った感もある。横内監督は、「永嗣もポジションは約束されていない」と強調するようにスタート地点ではフラットに競争を刺激する方針だ。昨シーズン主力を担った戦力が抜けたポジションに関しては新戦力が早期にフィットしないと、難しい戦いになることは間違いない。

ポイントは右SB 讃岐から加入の川﨑一輝に期待

鍵を握るのは右サイドバックだ。38試合にスタメン出場して、3得点10アシストだった鈴木雄斗が、ライバルの湘南ベルマーレに移籍した。左右のポリバレントである小川大貴は健在だが、J3カマタマーレ讃岐から来た26歳の川﨑一輝にかかる期待は大きい。

ガンバ大阪の下部組織育ちでもある川﨑は大卒で讃岐に加入し、4シーズン主力を担った。元々は攻撃的なポジションの選手で、過去2年間は10番を付けていた。新天地の磐田では鈴木に代わり2番を背負うが、いつかはサイドバックのまま10番を付けたいという野心を隠さない。攻撃面では非常に面白い存在だが、やはりJ1でどこまで川﨑の守備が通用するか。

ジェフ千葉から加入した20歳の西久保駿介も身体能力が高く、横内監督の戦術にうまくフィットできればスタメン定着も期待できる。ただ、現時点では期待値ベースのタレントと言える。

ドゥドゥの穴を埋めるのは

2列目とボランチのポリバレントとして活躍したドゥドゥが、ジェフ千葉に移籍した穴は誰か一人というより、複数の選手で埋めていくことになるだろう。横内監督はドゥドゥを4-2-3-1の左サイドハーフでスタメン起用し、試合の流れに応じて右サイド、ボランチと配置換えするのが一つの効果的なプランになっていた。

そのドゥドゥがいなくなった代わりに、サイドアタッカーのブルーノ・ジョゼ、中盤の守備的な役割が得意なレオ・ゴメスが加わっており、彼らがうまくハマれば、スペシャルな強みになりうる。逆にポリバレントな役割は松本昌也や藤川虎太朗などが担っていくと見られる。

ブラジル人FWの力は

「日本でのプレーを夢見ていた」と語ったマテウス・ペイショット


新しく加入した4人のブラジル人のうち、残る2人はFW枠に当てられた。マテウス・ペイショットは本人も認めるように、昨年まで川崎で活躍したレアンドロ・ダミアンに似た、パワーとテクニックを兼ね備えた長身のストライカーだ。

21歳のウェベルトンはそれほど高さはないが、跳躍力とスピードがあり、シュート技術も高い。彼らが昨シーズン9得点のジャーメイン良と切磋琢磨しながら、いかにチームの得点を増やしていくのか。

平川怜は攻撃センス抜群 “逆輸入”の石田雅俊はキーマンになれるか

得点数という意味ではMF登録の2人にも期待だ。ロアッソ熊本から加入した平川怜は非常に技術が高く、抜群の攻撃センスを備えている。同じFC東京のアカデミー育ちである久保建英とU-17日本代表などでコンビを組んだことでも知られている。

プロで壁に当たった時期もあるが、磐田で活躍して、松本時代の恩師である名波浩コーチのいるA代表に入る目標を掲げているのは頼もしい。熊本では立候補でキャプテンを担い、チームをまとめながら個人のスペシャリティも発揮するというタスクを果たしたことで、大きな自信がついたという。

熊本から加入した平川怜


もう一人、韓国の大田ハナシチズンから加入した石田雅俊は平川と真逆の非エリート的なキャリアだが、Kリーグで心身のタフさに磨きをかけて、Jリーグに”逆輸入”される形となった。2列目の選手だが、シャドーストライカーとして多くのフィニッシュに絡むことができる。日本にあまりいないタイプで、勝ち点40から成績を上乗せしていくキーマンと言えるかもしれない。

植村、高畑、中村も既存戦力の刺激に

そのほか、昨年は特別指定でチームの活動にも参加していた大卒ルーキーのMF植村洋斗はボランチを基本としながら、攻撃的なポジションもこなせる。

大分トリニータから加入した高畑奎汰は左サイドのスペシャリストであり、昨シーズン終盤戦の怪我で、出遅れが心配される松原后に代わり、開幕戦からスタメン出場も期待される。またセットプレーの左足キッカーとして絶対的な自信を持っている。

そして昨年のルヴァン杯で優勝したアビスパ福岡から加入したMF中村駿も、攻守両面で活躍が見込める上に、セットプレーのキッカーとして優れたタレントでもある。こうした選手たちの加入は藤原健介や古川陽介といった選手たちにも大きな刺激となるはず。

結局はどれだけチーム内競争で高め合いながら、試合に向けて一つになれるかが大事なポイントになる。既存戦力と新加入選手の融合、そして2年目となる横内監督の手腕にも期待したいところだ。

<河治良幸>
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。 サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。著書は「ジャイアントキリングはキセキじゃない」(東邦出版)「勝負のスイッチ」(白夜書房)「解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る」(内外出版社)など。
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タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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