時論(12月4日)100年後への「日本茶アワード」 論説副委員長・佐藤学

 ご隠居が退屈しのぎに茶の湯をやってみることにした。小僧相手に知ったかぶりをして、抹茶ではなく青きな粉を茶釜の湯にほうり込む。どんぶりに注ぎ、泡立たせるためにムクの皮の粉。洗濯用だから当然、腹を壊す。
 次は茶会を開くことに。自家製の「利休まんじゅう」も食べられたものでなく、客は雪隠[せっちん]の窓から垣根の外の畑にポーイ。それが顔に当たった農夫は「ははぁ、また茶の湯やってんな」。
 古典落語「茶の湯」である。茶道の形骸化への皮肉以上に、人間の本来的なおかしみを捉えているようだ。
 茶の新しい価値を見いだし、日本茶の多様性を発信する民間の品評会「日本茶アワード」の成績が先週発表された。「100年先の日本茶のために」と日本茶インストラクター協会などが主催し9回目。多分野の専門家や消費者が審査に参画するのが特徴だ。
 日本茶大賞は2次審査で「プラチナ賞」に選ばれた20点の中から、西海園(長崎県)の蒸し製玉緑茶が選ばれた。準大賞は宮崎のウーロン茶、続いて鹿児島の紅茶。歴代の成績をさかのぼると九州勢が健闘している。持続可能な「茶の都」静岡のヒントにしたい。
 今年は過去最多の521点が出品され、3次審査は各地で消費者が参加。10月に静岡市で開かれた世界お茶まつり会場でも行われ、筆者も応募した。
 プラチナ賞の20点が小さな器で次々と運ばれてくる。それぞれ、日本茶インストラクターが浸出時間や湯温に配慮しておいしさを引き出してくれた。
 受賞茶は審査のエントリー番号も発表されたので、自分が持ち帰った採点表の控えと照合できた。やはり、茶は嗜好[しこう]品。知ったかぶりは禁物だ。喫茶の楽しみ方も体験することができた。

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