中小の技術、空へ宇宙へ 浜松商議所が参入支援強化 重工OBが分析、助言役

 浜松商工会議所は2024年度、将来の市場拡大が見込まれる航空宇宙産業への参入支援強化に乗り出す。国内重工メーカーOBに「アドバイザー」を委嘱し、自動車産業で培ったものづくり技術の転用と具体的な受注支援につなげる。

約35年前に航空分野に参入し、従業員育成にも力を入れるエステックの鈴木誠一社長(右)=2023年12月、清水町のエステック
約35年前に航空分野に参入し、従業員育成にも力を入れるエステックの鈴木誠一社長(右)=2023年12月、清水町のエステック

 国際的な電気自動車(EV)シフトの動きを受け、既存事業の変革に迫られる中小企業に対し、これまでの情報提供主体の支援を拡充する。アドバイザーらが中小企業を訪問し、既存技術の強みを分析。参入可能性や企業の意欲に応じ、事業化戦略をサポートする。
 アドバイザーの人脈を生かし、重工、装備品メーカーとの商談機会も計画。既に参入した企業に対しても、高レベルの技術が通用するエネルギーや船舶など新たな事業領域創出につなげる。
 同商議所は航空宇宙分野の潜在性に着目し、05年に宇宙航空技術利活用研究会(SAT研)を立ち上げ、講演会を通じた業界の最新情報の提供や勉強会、人材育成支援などを手がけてきた。プロジェクトから発展し、航空部品の共同受注を目指す協同組合「SOLAE(ソラエ)」設立(16年)も支援した。
 県の委託事業として11年度から浜松市内で展開している航空宇宙中核人材育成講座は23年度、大手自動車部品製造企業を含め5社が新規で受講し基礎を学ぶなど、参入機運も高まる。航空宇宙産業は高い技術レベルや国際基準に対応する品質マネジメントシステム規格の取得など、厳しい参入障壁があるだけに、同商議所の担当者は「一歩踏み込み、企業に寄り添った支援が必要」(工業振興課)と強調する。
壁高くとも 長期需要の見込み― 先行企業「覚悟持って挑戦を」
 コロナ禍で激減した航空機需要が回復し、県内の部品製造企業の受注が再び活発化している。三菱重工業による国産初のジェット旅客機「スペースジェット」(旧MRJ)開発の撤退は関係者に落胆を与えたものの、民間航空機に加え、国が注力する方針の防衛関連産業を含めた将来的な市場は、大きく伸長することが見込まれる。広がる商機を前に、参入の一歩を踏み出せるかが鍵だ。
 「今はコロナ禍の前を上回る水準で受注が推移している」。約35年前にアルミナット部品から航空機産業に参入し、主にエンジン部品製造を手がけるエステック(清水町)の鈴木誠一社長(62)は語る。高熱や振動に耐える「難削材」のインコネルなどのニッケル基合金の精密加工が強みで、国内複数の重工メーカーから受注が舞い込む。実績を背景に、近年は「H3ロケット」など宇宙関連部品の依頼も受け、3年以内に航空・宇宙分野の売り上げの倍増を見込んでいる。
 航空部品の共同受注を目指す協同組合「SOLAE」(15社)メンバーの同社は、参入に成功した中小企業の先駆的存在として県内企業への関連事業の外部委託も検討。裾野の広がりを狙う。航空事業は一度受注すれば、機材寿命と連動した数十年単位の長期需要が見込めるとされるだけに「技術の高みを目指して挑戦してきた。必ず仕事を取る覚悟を持って臨んで」と呼びかける。
 防衛関連機材のエンジン部品加工などを担うブローチ研削工業所(浜松市中央区)は難削材の精密に有効な「放電加工」技術を武器に2012年に国内重工メーカーとの取引を獲得した。小粥隆太郎社長(43)は「約10年かけて軌道に乗った」と振り返る。大型機械を集中的に導入して加工の付加価値をつけることで他社と差別化を図り、継続受注につなげてきた。「受注初期には難しいといった声が上がることもあったが、発想の転換や諦めない姿勢が大事だ」と強調。長期の取引となるだけに、経営層の若さもポイントになるとみる。

 <メモ>日本航空機開発協会によると、2042年の世界のジェット旅客機運航機数は22年比で1.6倍の4万527機となる見込み。23年から42年までの20年間に3万3355機の新造機需要が予想される。航空機1機当たりの部品点数は自動車の100倍ともいわれる。県の航空宇宙コーディネーター鈴木哲生さんは「航空機だけでなく、『空飛ぶクルマ』やドローン関連を含め、複合素材や電子技術など、本県企業が強みを持つ輸送機器関連の技術を生かせる分野は広い」と指摘する。
 (浜松総局・山本雅子)

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞