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本屋さんでお宝発見?武田・徳川ゆかりの「諏訪原城」古絵図の秘密に迫る【なにぶん歴史好きなもので】

戦国時代に武田氏によって築かれ、徳川との激戦が繰り広げられた島田市の諏訪原城。同市にある島田書店花みずき店では、書籍購入者に諏訪原城絵図のしおりをプレゼントしているそうです。
書店とお城に一体どんな関係があるのか、代表取締役・佐塚慎己さんに話を聞いてみました。

聞き手/鈴木淳博(静岡新聞社編集局出版部)
イラスト/たたらなおき(漫画家・造形作家 静岡市在住)

島田書店代表取締役で佐塚家17代目当主の佐塚慎己さん

 

堀や土塁、馬出も……。城の縄張が克明に

――島田書店で本を買うと、諏訪原城の絵図の「しおり」がもらえると聞きました。この絵は一体、どこから出てきたものなのですか?

佐塚: この絵図は40年ほど前に自宅の蔵で見つかったものです。実物は結構大きくて、一辺が約80cm。昨年頃から地元のお城を盛り上げたいと思い、静岡県の城郭関連書籍を買っていただいた方にノベルティーとしてプレゼントしています。

――諏訪原城といえば、武田勝頼が遠江侵攻の拠点として築いた城として有名ですね。絵図には何が描かれているのでしょう。

佐塚: 城の防御設備である堀や土塁、曲輪などの位置が描かれていますね。諏訪原城の代名詞ともいえる丸馬出(まるうまだし=出入口に設けられた出撃拠点)もよく分かります。城の背後には牧之原台地の谷があり、城外には東海道が東西に伸びています。

佐塚家に伝わる諏訪原城絵図を使ったしおり。出入口に描かれた複数の丸馬出が特徴的


――どうしてご自宅からこんなものが?

佐塚: 私の先祖は江戸時代、金谷宿の本陣職を務めていました。自宅の倉庫には当時の関係文書がたくさん残っているのですが、この絵図はその中の一つとして保存されていたものです。発見当時、調査をしていただいた静岡大学の先生によると、名古屋市にある蓬左文庫に所蔵されている絵図の写しのようです。

――本陣とはどんな役職なんですか?

佐塚: 本陣は大名や幕府の役人など、身分の高い人が宿泊する施設です。江戸時代、金谷には3軒の本陣がありましたが、佐塚家はそのうちの一つでした。当時、大井川には橋がなく、水量が増えると通行止めになったため、川を挟んで置かれた島田宿・金谷宿は多くの旅人が逗留したといわれています。

佐塚家本陣に残る関札。木の板に宿泊客の名を記し、門に掲げて出迎えた


――その本陣家に代々、諏訪原城の絵図が伝えられていたということですね。

佐塚: ええ。ただ、どういう経緯で先祖がこの絵を手に入れたのかはよく分かりません。絵図と一緒に出てきた書状によると、先祖は戦国期、徳川家康の家臣である松井忠次に仕えたそうです。

松井忠次は、徳川軍による諏訪原城攻めで大きな活躍したことで知られる武将です。おそらくこの戦いの前後で、先祖は忠次の家臣となったのでしょう。絵図そのものは江戸期に描かれたものらしいですが、佐塚家と諏訪原城の間には何かしらの関係があったのだと思います。
 

金谷の歴史を伝える本陣史料の数々

――ご先祖はもともと金谷の人なのですか?

佐塚: 松井忠次は三河出身ですが、三河時代の家臣に「佐塚」という名字の者はいないそうです。実は長野県にも佐塚という名字が集中している地域があるのですが、現地の人が調べたところ、徳川家から土地をもらって金谷から移り住んだらしいんです。

もしかしたら、佐塚家が幕府から本陣職を拝命したのも、それまでに何らかの手柄を立てていたからなのかもしれません。

――なるほど。ちなみに他にはどんなものが保存されているんですか?

佐塚: 古文書ばかりで、金目のものは全然ありません(笑)。でも、宿帳などを見ると、それなりの地位の人々の名が記されているので、史料的には貴重なものなのかなと思います。

例えば、幕末の宿帳を見ると、国司信濃(くにし・しなの)という長州藩の家老の名がありました。彼は蛤御門の変を起こした人物の一人で、後の長州征伐ではその責任を負われて切腹させられています。

――いろいろな歴史が刻まれているんでしょうね。明治以降、佐塚家はどうなったのでしょう

佐塚: 明治になると宿駅制度もなくなって、佐塚家は本陣の役割を終えました。その後は、新聞店や薬店など、幅広い商売を営んだようです。当時の新聞もたくさん残ってますよ。これは明治38年、日露戦争の時のものです。ただ、日本海海戦のような有名な出来事の号外は残ってないので、全部撒いてしまったみたいですね。

明治38年、日露戦争の戦況を伝える新聞

――書店を始めた経緯は何だったのでしょう?

佐塚: 私の曽祖父は金谷小学校ができる時、本陣の敷地や建物を提供し、三代目の校長も務めました。その関係から教科書販売も行うようになり、書店の仕事が始まりました。明確な創業年は分かりませんが、記録をたどると明治20年代のぐらいには営業をしていたようです。

――諏訪原城から本陣職、そして書店へとつながっているんですね。

佐塚: 諏訪原城も昔は木が生い茂っていて、正直どこが遺構なのかよくわかりませんでしたが、今は門も復元されてずいぶん見やすくなりましたね。

落語家の春風亭昇太さんが応援隊長としてPRしてくれたり、直木賞作家の永井紗耶子さんが諏訪原城関連の小説を書いてくれたりして、近年、熱の高まりを感じています。多く人に関心を持ってもらえるよう、地元の書店として盛り上げられればと思っています。

◆佐塚慎己さん
1971年、島田市(旧金谷町)生まれ。島田書店代表取締役・花みずき店店長。江戸時代に
本陣を務めた佐塚家第17当主。

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