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河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

ジュビロ磐田の必勝布陣を“バランス型”と“ファイヤー型”のコンセプトで考えてみた


ジュビロ磐田はゴールデンウイークに横浜F・マリノス、東京ヴェルディと戦い、中2日の“関東アウエー”2連戦を終えた。

横浜FMには終盤にマテウス・ペイショットの同点ゴールで1−1と引き分けたが、東京Vとは2点ビハインドを後半の反撃で追い付きながら、DFリカルド・グラッサが一発退場、終了間際に勝ち越しゴールを許す、悪夢のような幕切れて3−2の敗戦となった。

2試合で結果は勝ち点1だったが、選手起用や組み合わせという意味では収穫が多かったことも確か。MFブルーノ・ジョゼが2試合とも途中出場ながら得点に絡むなど、本格的な戦力としてアピールに成功したのはチームにとっても大きい。

磐田は12試合で11得点のジャーメイン良と4得点1アシストのペイショットの2トップを前線に擁する4−4−2が基本システムになっている。ここで、大きく二つのコンセプトに分けて必勝布陣を考えてみた。言うなれば“バランス型”と“ファイヤー型”だ。

ポゼッションがベースのバランス型


バランス型は中盤のポゼッションをベースに、ボールを動かしながらサイドのコンビネーションなどを生かして、チャンスを作っていくのに適している。サイドハーフは左にパス能力の高い平川怜、右に機動力が高く、オフ・ザ・ボールの動きに優れる松本昌也を配置することで、左右バランスよく攻撃できる布陣だ。

ボランチのベストチョイスは万能性の高い上原力也と、センターバックもこなせる守備能力の高い鹿沼直生か。上原が幅広く攻撃に関わったり、2トップが縦関係になり、一人が降りて起点になったりして多彩なチャンスメークが期待できる。

攻撃停滞のリスクも…

ただし、相手に中盤のポゼッションで上回られたり、相手のディフェンスにうまく網を張られてビルドアップが限定されると、全体のビジョンにズレが生じ、“ステーション・パス(各駅停車パス)”が増えたりして攻撃が停滞するリスクも少なからずある。

システムを4−2−3−1にして、キャプテンの山田大記がトップ下を担う布陣もあるが、山田が怪我による離脱から、ようやくチーム練習に合流した段階であり、改めてどう組み込んでいくのかは気になるところだ。

また2トップの一角を俊敏な藤川虎太朗にすることで、攻撃の循環を良くすることもできるが、簡単にボールを回せないJ1の舞台で、困ったらロングボールを使えるジャーメインとペイショットの2トップに良くも悪くも依存する傾向が出ており、ここは残りのシーズンでも課題になってきそうだ。

ファイヤー型は攻撃に特化


もう1つは点を取りにいくことに特化した“ファイヤー型”だ。文字通り、攻撃の火力に全振りした布陣で、左サイドに古川陽介、右にブルーノ・ジョゼというドリブルで局面を打開したり、縦に突破できる両翼によって、シンプルに2トップのパワーや決定力を生かすことができる。

「自分もゴールを狙いますけど、一番難しいゴールに押し込む仕事をしてる2人(2トップ)が今すごく調子がいい。自分もこれからもうまく仕掛けていって、彼らにゴールをもたらすアシストができるようにやっていければ」

そう語るブルーノ・ジョゼは左サイドの古川陽介との両翼の可能性についても「ただのオプションで終わらせるのではなく、しっかり結果をもたらせるものにするためにも、本当に日々の練習が大事になってくる」と強調。さらに磨いていくことで、強力な武器になっていけることに自信をのぞかせている。

ボランチも細かくパスを繋ぐより、できるだけ素早く展開し、クロスのセカンドボールを拾って二次攻撃に繋げたい。相手ボールになった場合の即時奪回を狙うために、なるべく高い位置を取り、2トップとの距離をコンパクトにする形が理想だ。

東京V戦はメリット、デメリットの両方が出た


この布陣のウィークは前掛かりになる分、裏返しのカウンターを受けやすいこと。2得点した一方、リカルド・グラッサが退場となった東京ヴェルディ戦の後半はまさしく、メリットとデメリットの両方が出た格好だ。

ジャーメインとペイショットという強力な2トップではあっても、空中戦に強いセンターバックを揃えていたり、強固な3バックが相手だと、単調に跳ね返されるシーンが多くなりやすい。

その場合は古川やブルーノがカットインからゴールを狙うオプションも有効だろう。またブルーノはドリブルで縦に突破するだけでなく、ボランチやサイドバックの縦パスを相手ディフェンスの背後でもらう動きもうまい。この特長は筆者も“関東アウエー”の2連戦で気付いたことだ。

シンプルに2トップを生かすスタイルはCKや相手陣内でのスローインのチャンスが増えやすいので、セットプレーのキッカーとして優れるMF藤原健介やロングスローを得意とするDF西久保駿介などの役割が、より重要性を増してくるかもしれない。

2トップ頼みからの脱却を


バランス型にしてもファイヤー型にしてもメリットとデメリットはあるが、対戦相手や時間帯、試合展開を見極めて使い分けていくことで、読まれにくい戦いをしていけるはず。もちろんサイドハーフを古川と松本、平川とブルーノといった組み合わせにすることも可能だが、戦略的な意図を持って、個性的な選手たちを活用できるかは横内監督の手腕にもかかっている。

1つ明確な課題は現在のベスト布陣を組もうとすると、どうしてもジャーメインとペイショットの依存度が高くなってしまうこと。頼れるFWが二人いるだけでも恵まれた話ではあるのだが、やはり“関東アウェー”の2試合ともベンチ入りしながら、未出場に終わった石田雅俊や怪我で出遅れている21歳のFWウェベルトンなどが戦力化されてくれば、攻撃のバリエーションが充実してくることは間違いない。
シズサカ シズサカ

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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