#環境を考える フラワーロス減へ 花も喜ぶ取り組み【NEXTラボ】

 生産された花が消費者の手に届かずに捨てられてしまうことを指す「フラワーロス」。新型コロナウイルス下に冠婚葬祭や卒業式・入学式など花を使うイベントが相次いで中止されたことで注目されたが、花き業界では以前から、生産と販売のいずれの現場でも課題とされてきた。廃棄花をいかに減らすか―。新たな取り組みを進める県内の生産者や生花店などを訪ねた。

サブスク用の日替わりブーケを整える中村将史さん=静岡市葵区の「花のあるくらし研究所」
サブスク用の日替わりブーケを整える中村将史さん=静岡市葵区の「花のあるくらし研究所」
廃棄花を活用したキャンドル作りのワークショップを展開する元川恵さん(右から2人目)=静岡市内
廃棄花を活用したキャンドル作りのワークショップを展開する元川恵さん(右から2人目)=静岡市内
ハウスでガーベラを栽培する藤野茂樹さん。夏場の高温は花の生育に影響を与える=浜松市西区
ハウスでガーベラを栽培する藤野茂樹さん。夏場の高温は花の生育に影響を与える=浜松市西区
サブスク用の日替わりブーケを整える中村将史さん=静岡市葵区の「花のあるくらし研究所」
廃棄花を活用したキャンドル作りのワークショップを展開する元川恵さん(右から2人目)=静岡市内
ハウスでガーベラを栽培する藤野茂樹さん。夏場の高温は花の生育に影響を与える=浜松市西区


 生花店代表 中村将史さん(静岡) サブスクで仕入れ無駄なく
 新型コロナウイルスの流行で「おうち時間」が増加したのを契機に、サブスクリプション(定額制、サブスク)サービスで花を購入する人が増えている。静岡市葵区の生花店「花のあるくらし研究所」代表の中村将史さん(38)は「サブスクは、フラワーロスを減らす取り組みの一つになる」と指摘する。
 中村さんは2021年3月、「日常の習慣として花を飾り、楽しんでもらいたい」との思いから同店をオープンした。日替わりのミニブーケを受け取れるサブスクを始めたのはその1カ月後。「花を買ってもらうハードルを下げる仕掛けが必要だった。金額面はもちろん、花の組み合わせ方や手入れの方法をしっかりと伝えられる関係性も築きたいと考えた」
 サブスクを始めた当初は、フラワーロスに関して強く意識はしていなかったが「いざやってみると、廃棄花を減らす効果があると分かった」。継続すると、1日に花を受け取りに来る人数がデータとして蓄積され、どの程度の仕入れをすればいいのか、読みやすくなったからだ。
 現在は市内外の生花店をはじめ、飲食店や高齢者施設、放課後児童クラブなどとも連携し、サブスクのブーケを複数の場所で受け取れるサービス「花パス」も展開中。家庭での花の需要をさらに掘り起こす。
 「フラワーロス削減への意識は、SDGs(持続可能な開発目標)の影響もあり、生花店の間で高まっている」と中村さん。マルシェなどのイベントへの出店時には、「花ノ髪飾り屋」の看板を出し、花束を作る際に短く切った花などを再利用し、髪飾りとして頭に着けてもらう取り組みもしている。「花を着けた人の表情は、ぱっと明るくなる。小さなことでも、花を楽しみ尽くしてもらい、廃棄を減らす努力をいろいろな場面で重ねていきたい」と話す。

 ワークショップ開催 元川恵さん(島田) 廃棄花活用 キャンドルに
 フラワーロスを減らそうと、規格外や廃棄予定の花を活用したキャンドル作りなどを提案する人たちもいる。島田市の元川恵さん(37)は「mahalo(マハロ)」の屋号で昨年から、県内外でワークショップを開いている。
 ドライフラワーをキャンドルの中に閉じ込める「ボタニカル・キャンドル」は近年、女性を中心に人気が高い。元川さんは、県内外の生産者や生花店から廃棄予定の花などを買い取り、自宅で乾燥させて花材として活用する。
 花を仕入れる県内の農場や生花店には、直接足を運ぶ。生産者や店主の廃棄花に関する考え方はさまざまで、最初から協力を得られるケースばかりではない。それでも、「廃棄する花も、光を当てれば再び輝くということを伝え、人間関係を築けるよう努めている」と話す。
 実家で3世代で暮らしていた頃、祖父母が花を常に家に飾り、「花に親しみを持っていた」。廃棄花の現状はテレビを通して知った。「自分にも何かできないか」と考え、フラワーロス削減に向けて活動する「リブルームアーティスト」の養成講座を受けた。
 今後の目標は、花を通じて人と人とが交流できる拠点を持つこと。「ワークショップを通じて花を身近に感じてもらえる人を増やしたり、花に携わる人たちのコミュニティーづくりをしたりしていきたい」と構想を語る。
 島田市に移住する前は神奈川県厚木市で市職員として働き、環境に関わる仕事もしていた。「SDGs(持続可能な開発目標)を切り口に、行政とも連携できれば」と意欲を見せる。

 ガーベラ農家 藤野茂樹さん(浜松) 規格外 再度選別し小売り
 大きな葉を付け、色鮮やかに咲き誇るガーベラの花々。日本一の産地、浜松市で20年以上栽培を続ける藤野茂樹さん(62)=同市西区=のビニールハウス内は7月初旬の晴れた日、室温36度を超えていた。「夏場は出荷する花の2、3倍を廃棄する日もある」と藤野さんは明かす。
 1年を通して出荷されるガーベラだが、夏場は高温の影響を大きく受ける。「茎が柔らかくなってしまったり、花にボリュームがなかったり。害虫の被害も多い」。数年前まで規格に合わず出荷できない花は、知人に譲るか、廃棄するかの2択だった。「それは仕方がなく、当たり前のことだった」
 だが、新型コロナウイルスの流行で状況は変わった。イベントの中止などで花の需要が激減し、ガーベラの単価も下落した。苦境に立たされる中、所属するJAとぴあ浜松の生産部会「浜松PCガーベラ」は、これまで禁じていた生産者による小売りを解禁した。
 藤野さんはハウス近くに設ける作業場での小売りと、全国発送を始めた。「ガーベラ シゲさん」の名前でインスタグラムも開設し、現在のフォロワーは1万1000人を超える。
 市内外から花を求める人が藤野さんの元を訪れ、消費者と直接話す機会ができた。「『花の持ちがいいですね』と言ってもらえることは何にも代えがたい喜び。栽培のモチベーションになっている」と顔をほころばせる。消費者の声は、栽培品種の選定の参考にもなる。
 ただ、小売りや全国発送には、出荷できない花の中から再度、自宅で楽しんでもらえる花を選別する必要がある。冷蔵庫での保管も必須で、労力や経費がかかる。それでも「少しの利益にはつながるし、廃棄していた花が喜んでもらえることに意義を感じる。できる範囲で続けていければ」と考えている。

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