リニア開業に伴う沿線の振興 東海道新幹線どう活用?【静岡県知事選2024 リニアの行方㊥】

 リニア中央新幹線沿線都府県の経済団体で構成される「リニア中央新幹線建設促進経済団体連合会」(事務局・名古屋商工会議所)。静岡県が2022年7月に加盟した行政中心の期成同盟会と対になる組織で、リニア開業に伴う沿線の振興を目的にしている。静岡市の北端をトンネルが通るだけで、“蚊帳の外”だった静岡県の経済団体も最近、加盟に向けて遅まきながら動き始めたと複数の関係者が明かす。県幹部は「これまではリニア新駅ができる地域の議論が中心だったが、東海道新幹線沿線にも目を向けるきっかけになる」と歓迎する。

2023年度のリニア建設促進期成同盟会総会資料。沿線自治体には県単位の多くの期成同盟会があるが、静岡県内では組織化されていない
2023年度のリニア建設促進期成同盟会総会資料。沿線自治体には県単位の多くの期成同盟会があるが、静岡県内では組織化されていない

 JRとの間で環境問題の協議が続いている静岡県では、環境の議論を優先し、リニア開業に伴う経済的なメリットに関する議論は十分に行われてこなかったのが実情だ。国は23年10月、リニア全線開業後に県内の東海道新幹線駅は停車本数が最大1・5倍になり、10年間の経済波及効果は約1700億円に及ぶ可能性があるとの調査結果を公表した。このときも川勝平太知事は「この計算は小学生でもできる」と述べて取り合わなかった。「知事が代わることでこうした議論がしやすくなる」。ある県幹部はトップ交代による前進を期待する。
 ただし、リニア開業後、県内に停車する「ひかり」「こだま」が国が描く通りに増えるかは不透明だ。丹羽俊介JR東海社長は国の調査結果について「違和感はない。あり得る範囲」と語ったものの、具体的なダイヤ編成は直前の状況を踏まえて判断するとの立場を崩していない。県内の経済界にも「JRが空の列車を走らせるわけがない」(経済団体代表者)と、懐疑的な見方が根強い。
 静岡空港(牧之原市)新駅整備構想については、リニア建設促進期成同盟会内に設置された研究会で今後、本格的に議論される見込みだ。しかし、JRは一貫して整備を否定し、実現の見通しは立たない。
 大井川流域で新幹線駅が立地する掛川市の久保田崇市長は「一番困るシナリオは、知事の交代に伴い県の政策が急転換し、本来行われるべき地域振興の議論の時間が十分にとれなくなること」と指摘。水問題と並行して地域振興の協議を十分に重ねる必要性を強調する。リニアを核に三大都市圏を一体的な巨大経済圏として機能させる国の「スーパー・メガリージョン構想」にも県内の経済的メリットがうたわれているとし、「移住希望地としての人気も高く、リニアができた後も本県の優位性は変わらない。構想をどう活用するのか今から議論すべきだ」と訴える。

 <メモ>国が2023年10月に公表したリニア全線開業後の東海道新幹線県内駅の停車頻度に関する調査結果では、「のぞみ」の需要の多くがリニアに移ることで東海道新幹線の輸送量が約3割減少し、空いたダイヤの活用で県内駅の停車回数が1.5倍に増える可能性があるとした。静岡、浜松両駅で1時間あたりの停車頻度が3本から5本になり「ひかり」も増加する余地があるとした。利便性向上に伴い、県内を訪れる観光客などが増え、開業後10年間の経済波及効果を1679億円と試算。名古屋開業段階の停車回数増加見込みは現状の1.1~1.2倍程度とした。

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