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「ワサビ」欧米やアジアで人気! 産出額日本一、静岡県の海外戦略は

 近年、欧米やアジア圏での和食ブームを背景にワサビの需要が高まっています。高齢化や人口減少で国内市場の先細りが懸念される中、産出額日本一の静岡県では、海外市場や訪日客をターゲットにした製品開発や現地栽培、魅力発信に力を入れています。静岡県内の事業者の海外戦略や訪日客への対応などをまとめました。

静岡県、海外に照準 製品開発や現地生産へ

 海外の和食人気や訪日客の増加を背景に、欧米やアジア圏でワサビの需要が伸びている。産出額日本一の静岡県でも、ワサビ加工品などを手がける事業者が商機をつかもうと、海外向けの製品開発を進める。国内市場は高齢化や人口減少で先細りが懸念される中、現地でのワサビ栽培を含めた海外戦略を打ち出し、静岡県特産品の振興を目指す。

洞窟内で栽培されるワサビを視察する山本食品の山本豊社長(手前)=昨年11月、韓国
洞窟内で栽培されるワサビを視察する山本食品の山本豊社長(手前)=昨年11月、韓国
 カメヤ食品(清水町)は、欧米や中国を中心に製品を輸出する。レシピを工夫して賞味期限を延ばしたチューブ入りワサビや、EU(欧州連合)基準のHACCP(ハサップ)認証を得た工場で生産される原料を使ったふりかけなどを開発、販売している。
 健康意識の高まりや円安を背景に一昨年ごろから注文が増え、2023年1月期は海外事業の売上高が約1億7千万円と5年前の4倍に伸長した。担当者は「原材料不足で供給が追いつかない状況」と話す。従来の自社ワサビ沢に加え、畑ワサビの栽培用地を新たに取得するなど調達力を強化し、海外市場で26年に5億円の売り上げを目指す。
 田丸屋本店(静岡市葵区)は、消費の多様化を機に高級路線にかじを切った海外飲食店からの注文が増えた。望月啓行社長は「海外市場の開拓が生き残りに肝要」と考える。海外小売事業者のプライベートブランド製品などの新規開発に意欲を示し、売上高全体の1割程度の海外事業を、5年以内に2割まで拡大する。
 ワサビの国内生産量が減少傾向をたどる中、新たに進出した海外から逆輸入を試みる動きもある。
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カメヤ食品が海外向けに展開する製品=3月上旬、三島市 
 
 山本食品(三島市)は昨年11月、韓国・忠州市の農業法人と業務提携した。同社は韓国の若者の間で近年高まるワサビ人気を受け、炭鉱跡の洞窟内で運営する観光施設でワサビ生産を始めた。気温が低い韓国で屋外栽培は難しいが、気温が一定に保たれる洞窟内では収穫が期待できるという。
 山本食品は栽培と加工のノウハウを伝え、将来的に一部を原料として自社製品に使用する方針。ワサビの魅力を紹介するアンテナショップも今夏までに現地に構える。山本豊社長は「世界への発信を強め、27年までに売り上げ全体の3割を占める事業に育てたい」と意気込む。

水ワサビ相場 上昇傾向  静岡県内の水ワサビの根茎生産量(2021年)は全国の約6割を占め、トップに位置する。畑ワサビとの合計産出額は約28億円で、全国の7割超。近年は生産者の高齢化などで栽培面積や生産量が減少傾向にある。林野庁の特用林産基礎資料によると、静岡県の22年根茎生産量は223トンで、17年から約1割減少した。
 JA静岡経済連によると、水ワサビの海外需要は18年ごろから強まっている。22年の1キロ当たり取引相場は17年比6割増の約1万円で上昇傾向が続く。担当者は「国内外で一定の需要が継続しているため、相場は堅調に推移する」とみている。
(経済部・駒木千尋)
〈2024.03.17 あなたの静岡新聞〉

長泉「桃沢わさび」 ドイツと試験取引

※2020年3月26日 静岡新聞夕刊

町北部の桃沢川上流に広がるワサビ田=長泉町
町北部の桃沢川上流に広がるワサビ田=長泉町
 長泉町が、町北部の桃沢川上流で栽培され、官民連携で特産化を進める「桃沢わさび」の海外輸出に乗り出している。静岡県内産の生ワサビは国内での販路が確定していて海外への輸出は珍しいという。生産するカメヤ農園(三島市)の亀谷栄治代表(55)は「長泉にも最高級のワサビがあると世界に発信したい」と意気込む。
 戦前からワサビ栽培が行われていた同町。地元農家が高齢のため手放したワサビ田を町が引き継ぎ、カメヤ農園と連携して2016年から整備を進めてきた。約2千平方メートルのワサビ田で、最高級品種の「真妻(まづま)」を主力に栽培。桃沢川の水と愛鷹山の湧水のみで作られ、上品な淡い緑色とスマートな形が特徴的だ。
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桃沢川の水と愛鷹山の湧水で栽培された桃沢わさび
 
 輸出は、カメヤ農園が昨年7月に日本貿易振興機構(ジェトロ)主催の食品輸出商談会に参加したのがきっかけ。欧州の高級和食レストランに食材を提供するドイツの会社が桃沢わさびに興味を示し、実際に長泉のワサビ田を視察。試験的に取引を始めることになった。
 ジェトロ静岡貿易情報センターによると、県内産のワサビは高級品として高値が付き、首都圏の市場など既に販路が決まっている。海外への輸出は加工品が多く、生ワサビは珍しいという。藤本雅之所長は「これを機に県産ワサビの輸出促進につながれば喜ばしい」と期待する。
 桃沢わさびは第1弾として今月中旬、ドイツの輸入会社と取引している群馬県の食品加工会社を経由して11キロが海を渡った。亀谷代表は「海外で自分たちが作ったワサビを擦ってくれる人がいると考えるとうれしい」と笑顔を見せる。今後もドイツ側の反応や評価を聞きながら交渉を重ね、取引を軌道に乗せていきたい考え。
 町は引き続き地産地消の推進や販路開拓に努め、知名度向上を目指す。町産業振興課の担当者は、ワサビを生育できる恵まれた自然環境が町内にあることを強調し、「自分の町で採れたワサビが海外で消費されることを誇りに思ってほしい」と話している。
 (池谷遥子)

新しい食べ方や魅力 動画で世界に配信

※2020年3月29日 静岡新聞朝刊

ユーチューブの動画を撮影してワサビの魅力を伝える山本豊社長(左)=三島市の山本食品
ユーチューブの動画を撮影してワサビの魅力を伝える山本豊社長(左)=三島市の山本食品
 三島市のわさび漬け製造販売「山本食品」は、動画サイト「ユーチューブ」に投稿する映像の撮影スタジオを本社敷地内に開設した。ワサビの新たな食べ方や知られざる魅力を、対談や調理の実演なども交えて世界に発信する。自ら“ユーチューバー”として名乗りを上げた山本豊社長(58)は「『コロナショック』の今こそワサビで元気を届けたい」と意気込む。
 運営する「伊豆わさびミュージアム」(函南町)が昨年の台風19号で甚大な浸水被害を受け、「同じ倉庫を建て直すより新しいものを」と一念発起。約200万円を投資し、広さ8畳のスタジオにカメラや照明などの資機材をそろえた。山本社長をモチーフにしたキャラクター「ボスわさび」のパネルも作り、社長自らナビゲーターを務める。
 伝えるのはワサビと伊豆の魅力。主にすしや刺し身、そばの薬味にしか使われないワサビの新たなレシピを紹介するクッキング、辛さが変わるすりおろしの実演、伊豆の食べ歩き情報などを各回10分間の動画で披露する。対談ではワサビ生産者や和食の板前らをゲストに招き、日本の食文化とワサビをさまざまな角度から掘り下げる。
 2年前に世界農業遺産として認定された本県のワサビは、同じく生産が盛んな長野県のワサビとは性質がまるで異なるという。国内外でロケも敢行し、ワサビの奥深さを発信するつもりだ。山本社長は「ワサビをもっと面白く、笑いも交えて楽しい動画を届けたい」と語る。
 動画配信は4月1日に開始し、週1~2回アップする予定。サイトは同社ホームページからアクセスできる。
 (金野真仁)

訪日客に生産地アピール

伊豆の施設、英語表記の愛称に 博物館「ワサビジター」 ※2023年11月22日 あなたの静岡新聞

ワサビ文化継承に向け整備している拠点施設の内観イメージ(伊豆市提供)
ワサビ文化継承に向け整備している拠点施設の内観イメージ(伊豆市提供)
 伊豆市は21日、特産品のワサビ文化継承に向け、同市原保に整備している博物館機能を持たせた拠点施設の愛称が、「わさびの郷『Izu Wasavisitor Center(イズワサビジターセンター)』」に決まったと発表した。世界に誇る和食の名脇役として、国内だけでなく海外の人にも理解を深めてもらうため、英語表記の愛称になったという。
 7~8月まで募集し、市内外や首都圏から63件の応募があった。市内のワサビ生産者とJAふじ伊豆職員の選定で、同市の60代男性の案に決定した。
 施設は「五感で体感する博物館」をテーマに、10代の子どもとその親世代を主なターゲットにしている。博物館では映像による生産の歴史とターニングポイント紹介や、VR(仮想現実)を活用したワサビ田ツアーを実施する。観光客に対してガイド付きの有料ツアーやワサビを食べられる店舗の紹介もする。生ワサビとチューブワサビの食べ比べ体験も予定している。
 施設は旧JA伊豆の国原保支店の空き店舗を活用する。来年1月から工事が始まり、同4月にオープンする予定。
 事業を担当する市農林水産課の宮内輝幸主任は「国内外へのアピールや子どもたちへの地域教育につながる施設にしたい」と意気込む。
 (大仁支局・小西龍也)
有東木地区(静岡)散策マップ 英語と中国語で ※2019年11月2日 静岡新聞朝刊
 静岡県はこのほど、茶とワサビ栽培が盛んな静岡市葵区有東木地区の英語と中国語版散策マップを作成した。同地区の農産物加工直売所「うつろぎ」などで配布している。
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中部農林事務所が作った英語と中国語版の散策マップ 
 地区内の神社や寺、景勝地などを写真やイラストを交えて、地図上に示した。国指定重要無形民俗文化財「有東木の盆踊」や市指定無形民俗文化財「有東木の神楽」の歴史も紹介している。
 伝統のワサビ栽培が2018年3月、世界農業遺産認定を受けたことで同地区を訪れる訪日外国人が増えている。県は「地域資源を海外にPRする良い機会。多くの訪日外国人に本県の魅力を体感してほしい」(県中部農林事務所)と話す。
地域再生大賞