テーマ : お茶・茶況

社説(10月21日)「茶草場」遺産10年 継承へ価値発信強化を

 「静岡の茶草場[ちゃぐさば]農法」が国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産に認定されて10年。掛川市で昨日、記念式典が開かれた。認定された茶園・茶草場がある掛川、菊川、島田、牧之原の4市、川根本町と遺産登録申請の背中を押した静岡県にとって、活動を点検する節目である。伝統的な農業システムの維持・継承を確かなものにしてほしい。
 後継者難などで茶業情勢は厳しく、2010年に約1万4千戸あった県内茶農家は20年に約6千戸に減った。茶草場農法も例外ではなく、認定実践農家は13年度の515戸から22年度は311戸に。生業としての持続化策が求められる。農家の汗が報われるよう、支援の輪を広げたい。
 茶草場は生物多様性や温暖化抑止の観点からも価値が高い。持続可能な開発目標(SDGs)にもつながる取り組みを現場の茶業者や市町に任せきりにしてはならない。観光資源としても有望だ。多くの人の目が向けられるよう、効率的な情報発信は推進協議会事務局の県が鍵を握る。
 茶草場農法は、茶園近くの草地で刈り取ったススキやササなどの「茶草」を茶園の畝[うね]間に敷いて保湿や保温、土づくりをし、茶の品質向上を図る。ススキなどが自生する草むらではツリガネニンジンやニホンアカガエルなどの希少な動植物が確認される。茶業と生物多様性の両立が評価され、13年5月、世界農業遺産に認定された。認定茶園は約千ヘクタール、茶草場は400ヘクタール弱。
 ただ、茶草場は一見単なる草地に過ぎず、文化的景観といわれる茶園も敷草には気付かれにくい。来訪者に価値を理解してもらうには工夫が必要だ。振興協はPR動画を投稿サイトにアップするなどしているが、周知は道半ばと言わざるを得ない。
 手間をかける伝統農法の茶が、それに見合う価格で売れないことも残念だ。
 茶草を敷いた茶園が良好な土壌になることは県茶業研究センターの調査で分かっている。一方、この栽培法で作った茶が客観的に高品質かは、はっきりしないのが実情だ。茶草場農法で作られた茶は、そうでない栽培法の茶に比べ品評会の入賞率が高いという調査結果はある。茶草場農法の価値向上には科学からのアプローチが欠かせない。
 茶草場農法認定茶は、推進協が作製した「生物多様性保全貢献度表示シール」を貼付して販売することができる。この販売強化策も、茶草場農法と生物多様性保存のつながりの認知度が低くては訴求力は限定的だ。
 茶草場農法の理解と支援を広げるために、農業分野にとどまらない情報発信が求められる。世界農業遺産の制度の価値の周知も大切だ。

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