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茶農家、悲痛の声「続けられぬ」 静岡県産一茶が記録的安値 消費低迷に供給過多で拍車 

 静岡県内の一番茶生産は18日までに一部産地を除いてほぼ終了した。リーフ茶の消費低迷から仕入れは終始低調で、下落相場に最終盤まで歯止めが効かなかった。生産量は過去最低だった前年を上回る見通しだが、平均単価は2割程度下落するとみられる。記録的な軟調相場に、日本一の茶産地を支える生産者からは悲痛な声が上がる。

静岡県内産一番茶生産量と平均単価の推移
静岡県内産一番茶生産量と平均単価の推移
今期の県産一茶を取引する茶業関係者ら=4月下旬、静岡市葵区の静岡茶市場
今期の県産一茶を取引する茶業関係者ら=4月下旬、静岡市葵区の静岡茶市場
静岡県内産一番茶生産量と平均単価の推移
今期の県産一茶を取引する茶業関係者ら=4月下旬、静岡市葵区の静岡茶市場

 「1日でも早く初取引をして、新茶ムードを演出しないと-」。3月下旬、静岡茶市場(静岡市葵区)の内野泰秀社長は焦燥感を抱えながら決断した。初取引日は開設以来最も早い4月12日。県内産に先行して荷が届く鹿児島県産との取引時期の開きを縮め、県産新茶商戦の長期化と消費喚起を狙った。「笛吹けば踊るはず」。そう願って仕掛けた“奇策”だった。

 生育不順と摘期集中
 だが、その決断の直前、急激な冷え込みが県内を襲っていた。1、2月の暖冬で順調だった生育が鈍化し、初取引の上場数量は過去最低の50・8キロ。最高値こそ111万1111円が出たが、今年の相場形成に寄与することはなかった。
 県内茶園の生育は気温上昇に伴って回復し、摘採時期は4月末ごろに集中。各地の取引所が荒茶の荷であふれた。多くの製茶問屋が繰り越し在庫を抱えたまま新茶期入りしたのもあり、供給過多が市況悪化に拍車をかけた。

 底値500円割れ
 「これほど急激な相場の下がり方はまずい」。4月30日、JA静岡経済連は各産地のJA担当者を集めて緊急会議を開いた。品質重視の生産徹底など、相場維持に向けた生産販売方針を再確認した。しかし降雨による葉の硬化などの品質低下も相まって、終盤には500円を割り込む荷も出始めた。中堅問屋の仕入れ担当者は「値の下げ方も異常だったが、品質の低下ぶりも顕著だった」と振り返る。
 経済連の推計や静岡茶市場の集計によると、1キロ当たりの平均単価は前年を下回り、新型コロナウイルス禍で過去最安を記録した2020年の1760円を割る可能性も浮かぶ。

 茶業継続のために
 静岡茶発祥の地で操業する足久保ティーワークス茶農業協同組合(静岡市葵区)は、5月12日に一番茶取引を終えた。終値は1000円台前半。最盛期からほど遠い安値だった。吉本邦弘組合長(62)は「足久保の茶を途絶えさせたくない。ただ、これでは地元農家は生産を続けられない」と語り、市場を後にした。
 県農協荒茶共販委員会は18日、二番茶の生産販売に向け、生産者側に「受注生産の徹底」を呼びかける異例の通達を出した。書面には朱書きで「今後の茶業継続のために慎重な対応を」と、業界全体へのメッセージとも受け取れる文言が記された。
 (経済部・垣内健吾)

 メモ
 茶は摘採した生葉を蒸し、もみ、乾燥する加工を経て「荒茶」として取引される。荒茶は野菜などと異なり、取引単価が前日に比べて上がることはほぼなく、下落傾向をたどる。
 静岡茶市場で取引された県内産一番茶の平均単価は、初取引日(4月12日)に1キロ当たり7万7637円と過去最高値を記録した。ただその後の下落幅は連日、異例なほどに大きく、終盤の5月13日には1612円にまで落ち込んだ。

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