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大自在(5月10日)万機公論

 水俣病患者らの団体と伊藤信太郎環境相の懇談で、団体側の発言中に一方的にマイクの音が消された。病に苦しんだ妻の最期を訴える発言が冷淡に打ち切られた。担当職員は「持ち時間を経過した」と弁解したが、そもそも悲痛な訴えが3分で足りるはずがない。
 伊藤環境相は「マイクを切ったことを認識していなかった」と言い訳したが、動画では異変に気付けたように見える。音を消した職員を制止し、「最後まで聞こう」と促す懐深さがあればどうなっていたか。
 この人ならどうしただろう。明治の「五箇条の御誓文」の第1条「広く会議を興し、万機公論に決すべし」を信条とした川勝平太知事が9日、退任した。リニア新幹線工事から大井川の命の水を全量守ってほしいという住民の声に7年以上も耳を傾け、JR東海と対峙[たいじ]した。
 15年前の初当選を伝えた2009年7月6日付の本紙は「官僚や政治家出身者が続いた県政トップの座を民間出身の経済学者がもぎ取った」と新知事誕生の意義を書いた。リニアを巡り激しい批判にさらされたが、学者の矜持[きょうじ]を貫いたのだろう。
 任期中、他にも「富国有徳」などの理念に基づき、自然に恵まれた本県の理想郷化を目指した。“川勝節”は失言と表裏一体で、最後の舌禍も象徴的だった。人気も批判もあった学者知事の劇場は終幕。退任会見で今後は仙人になりたいと破顔した。
 一方、次のリーダーを選ぶ新人6氏の争いが始まった。誰になろうが万機公論は普遍の理念だ。冷淡にマイクの音を消せるような人間だけは御免である。

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