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【牧之原・園児バス置き去り死初公判】冒頭陳述要旨

 【被告人の職務】
 増田立義被告は2002年から榛原学園理事長兼川崎幼稚園長として園全体の業務を統括し、保育や安全管理を行っていた。年に数回程度、送迎バスの運転手の不在時などにバスを運転することがあった。西原亜子被告は事件当時、河本千奈ちゃんを含む19人が在籍する組の担任として、園児の保育、教育、安全管理などの業務に従事していた。
 【川崎幼稚園の安全管理の状況】
 21年7月に福岡県内で発生した同種の園児死亡事件を受け、関係省庁から安全管理の徹底についての通達が出された。子どもの出欠状況を保護者に速やかに確認することや職員間の情報共有、送迎バスの乗車時と降車時に座席や人数の確認を徹底することなどが記され、川崎幼稚園には同年9月、牧之原市の担当者から電子メールで事務連絡が送られていた。22年3月には滋賀県内で同様に園児が送迎バスに取り残され、数十分後に発見される事案が起き、増田被告はこの事案に関する記事が掲載された幼児教育専門誌を読んでいた。
 同園ではこれらの事案を受けて職員間で「気をつけよう」などと話したり、記事の写しを掲出したりしたが、「学校安全計画」は策定せず、担任や担任補助の業務に関するマニュアルや送迎バスの運行に関する計画なども作成しなかった。
 同園は園児の出欠確認にアプリを利用し、バスを利用する園児が欠席や遅刻、早退などをする場合には、バスの出発時刻までにアプリまたは電話で連絡するよう保護者に求めていた。千奈ちゃんは22年4月以降、バスを利用して登園し、欠席などの際には必ず保護者からアプリで事前に連絡があり、連絡のない欠席や遅刻などはなかった。
 【事件当日のバスの状況】
 増田被告は22年9月5日、送迎バス運転手に休暇の者がいたことから運転手を務めた。午前7時56分ごろ、補助員を乗せて幼稚園を出発。千奈ちゃんを含む2~5歳の園児6人を乗車させたが、座席や人数の確認は補助員がするものと考え、確認を行わないまま午前8時51分ごろ、園舎前の路上にバスを停止させた。
 補助員は2歳児と手をつないで降車し、続いて千奈ちゃんを除く園児4人が降車。増田被告は運転席に座ったままバスの運行日報を記載していた。補助員は2歳児を職員に引き継ぎ、バスに戻ったが、増田被告が園児の降車確認を終え全員が降りたと思い込み、増田被告の了承を得た上で車外からバスのドアを閉めた。
 この頃、前から別の送迎バスが園舎前の路上に入ってきたところ、千奈ちゃんが「あっ、ケーキバス」「後ろから来てるよ」などと言ったが、増田被告は気付かなかった。その後バスを園舎から約200メートル離れた駐車場に駐車させ、午前8時58分ごろ、エンジンを停止させた。午前9時から病院で予定があり、急いでいたことから、車内に園児が残っているかどうかの確認を行わず、千奈ちゃんが乗っていることに気付かないまま運転席のドアを施錠し、同じ駐車場に止めてあった自車で病院に向かった。
 【園内の状況】
 千奈ちゃんの組の担任補助は午前9時10分ごろ、西原被告に、組の欠席者が2人であることと、千奈ちゃんの登園登録が未入力であることを報告した。しかし西原被告は、千奈ちゃんに無連絡の欠席や遅刻はなかったにもかかわらず、欠席だろうと思い込み、保護者に連絡するなど、千奈ちゃんの所在を確認するための対応を何も行わなかった。
 【千奈ちゃんの発見状況】
 午後2時7分ごろ、園児の帰宅時にバスを運転することになっていた別の運転手がバスを運転して園舎前の路上に入ろうとした際、後方を見て、千奈ちゃんが座席の通路付近に衣服を脱いだ状態で倒れているのを発見した。午後2時14分ごろ、駆けつけた同園職員が119番したが、千奈ちゃんはすでに心肺停止の状態だった。その後、千奈ちゃんは病院に救急搬送されたが、午後3時34分ごろ、熱中症による死亡が確認された。
 バスからは、登園時に千奈ちゃんが母にほぼ満タンに麦茶を入れて持たせてもらった水筒が、空の状態で発見された。 誰か一人でも確認していれば救えた命では―。当時3歳の園児だった河本千奈ちゃんが送迎バスに置き去りにされ死亡した事件で、静岡地裁で23日に開かれた初公判を傍聴した人たちからは、園の安全意識の希薄さを悔やんだり、同様の事件が繰り返されないよう願ったりする声が聞かれた。

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