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【経済サプリ】「円安=衰退」ではない(成田悠輔/エール大助教授)

 円安すぎて日本オワタとよく嘆かれる。確かに円安と聞くと通貨や国力が衰えたように響く。海外旅行は遠のくし輸入品の値段は上がる。生活者や海外からの仕入れが多い企業には痛い。財布が痛めば景気は冷え込む可能性がある。
 ただ円安には利点もある。日本製品が海外から見て安くなれば輸出して買ってもらいやすくなる。例えばトヨタは円安下で収益絶好調、時価総額も過去最高を更新した。
 さらに、日本の資産が海外から見て安くなると投資が呼び込みやすくなる。日本の株式市場の最近の高騰は円安が導いた部分が多いという主張が根強いし、都心の高級住宅も海外からの購入が多いとよく噂(うわさ)される。過去数十年間に通貨安になった世界中の国々のその後を見た研究でも、海外から投資が流入して資産価格が上がり、自国民の消費を刺激、サービス業を潤して経済成長をもたらすことが多いらしい。
 敵は円安ではない。円安には良い面も悪い面もあり「円安=日本の衰退」といった単純な図式にはならない。思い出してほしい。数十年前には円高で日本の輸出製造業が危機だと叫ばれたのを。
 孫正義氏はかつてこう語った。「10年20年の単位でどの産業が根底的に衰退していくのか、どの産業が構造的に飛躍していくのか、そういうことを見るのが一番大事。為替が上がったとか下がったとかは些細(ささい)なノイズだ」
 今世紀の日本人が世界にどんな価値を提供し、その対価でどのように幸福な生活や社会を築くのか。道は険しい。国内需要向けにガラパゴス化した日本は、今や国外に売れる物があまりない貿易収支赤字国である。インターネット世界でも米IT企業への手数料・使用料(GAFAM税)の支払いで、デジタルサービス収支の赤字が順調に広がっている。先代から引き継いだ対外純資産からの利益でどうにか赤字を補塡(ほてん)している状態だ。
 この焼け野原からいかに立ち上がれるか? 些細なノイズを振り払い、数十年後に浮かび上がる日本経済のヴィジョンに目を凝らすことが求められる。

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