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遺族「素直に認めて」 熱海市土石流総括 責任否定の姿勢に憤り

 「やるべきことをやっていなかったと素直に認めるべきだ」。熱海市伊豆山の大規模土石流への対応に関する市の総括が公表された16日、遺族や被災者からは、法的責任を否定した市の姿勢に憤りの声が相次いだ。遺族らが市と県を相手取って損害賠償請求訴訟を起こしているだけに、「裁判対策の言い訳に過ぎない」と厳しい声も聞かれた。

土石流災害について市の見解を説明する斉藤栄市長=16日午後、熱海市役所
土石流災害について市の見解を説明する斉藤栄市長=16日午後、熱海市役所


 遺族、被災者でつくる「被害者の会」の会長で、母親の陽子さん=当時(77)=を亡くした瀬下雄史さん(54)は、「盛り土造成時や発生当時の判断に問題は無かったというが、結果責任を論じていないのはおかしい。判断ミスがあったから被害が出たのではないのか」と訴えた。
 斉藤栄市長は当初、市議会調査特別委員会(百条委員会)の調査結果を踏まえて総括を公表する方針だったが、9月の市長選を前に公表の前倒しを表明した。ところが「事実関係の精査に時間を要している」などとして、発生から約1年5カ月後まで遅れた。瀬下さんは「結論ありきで、もっともらしい文言を考えるのに時間を費やしただけなのでは」と切り捨てた。
 土石流の被害を拡大させた盛り土を巡り、市は10年以上前から対応に追われていたが、住民に問題を周知していなかった。長女の西澤友紀さん=当時(44)=の母小磯洋子さん(72)は「何も知らずに亡くなった娘を思うと悔しくてならない」と声を詰まらせた。
 発生当日に避難指示を出していなかった市の対応についても「明らかにおかしい。発生後も被害が拡大するまで時間があったのに、情報が住民に伝わっていなかった。市は住民の命を守る責任を果たさなかった」と語気を強めた。
 斉藤市長は記者会見で「法的責任は司法が判断する。再発防止に向けた行政対応の改善と被災エリアの復興を進めることで市の責任を果たす」と述べた。

 ■熱海市 森林法改正 国に要望へ
 熱海市は16日に発表した伊豆山の土石流災害に関する総括で、再発防止策の一環として、逢初(あいぞめ)川上流域の開発規制に関係した森林法の改正を国に要望する方針を盛り込んだ。開発面積に応じて都道府県と市町村で分かれている手続きの権限を都道府県に一本化することを提案し、悪質な業者による「規制逃れ」を防ぐ狙いがある。
 同法に基づく規制区域の場合、開発面積が1ヘクタール以下で市町村への伐採届、1ヘクタール超の場合はより厳しい県の許可が必要。今回の土石流で被害を拡大させた盛り土の行政手続きを巡っては開発面積の認識が県と市で異なり、対応が甘くなったという指摘がある。金井慎一郎副市長は記者会見で「1ヘクタール以下は市の案件だとして県の関与が低くなる。権限の境界線をなくしていくことが重要だ」と述べた。
 県には今後、同一事業者による複数の開発行為の「一体性」を判断する指針の情報共有を求めるほか、砂防法に関して土石流危険渓流の砂防指定地の再検討を要請する。また、再発防止に向けた市の取り組みとして、技術系専門家による顧問制度の導入▽重要案件の市長報告の徹底▽部署横断的な対応の見直し―も示した。

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