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2014年大阪の「事件」でも… 「行政の性」宝刀抜けず【残土の闇 警告・伊豆山㉗/第5章 繰り返す人災④】

 残土に関する国や県の規制強化が進まず、県内では東部の市町が独自に悪質な業者との対決姿勢を強めていた頃、大阪府の小さな町で「事件」が起きた。2014年2月、府北部に位置する豊能(とよの)町で、府道沿いに盛られた大量の土砂が崩落し、府道や棚田になだれ込んだ。幸い、人的被害はなかったが、もし近くに民家があったり、車両が走っていたりしたら、ひとたまりもなかったであろうことが容易に分かる惨状だった。

2014年に土砂崩れが発生した大阪府豊能町の現場。府の土砂規制の緩さや行政対応の問題が浮き彫りになった
2014年に土砂崩れが発生した大阪府豊能町の現場。府の土砂規制の緩さや行政対応の問題が浮き彫りになった
残土崩落現場 大阪府豊能町
残土崩落現場 大阪府豊能町
2014年に土砂崩れが発生した大阪府豊能町の現場。府の土砂規制の緩さや行政対応の問題が浮き彫りになった
残土崩落現場 大阪府豊能町

 「そそり立つ壁のようだった」。同町希望ケ丘の藤高治生さん(76)は、土砂が積み上げられていた当時を振り返る。崩落する数日前には、土砂がぽろぽろと府道にこぼれ落ち、町役場に複数の通報があったという。府には当時、土砂搬入を規制する条例がなかった。この一件で規制の緩さが浮き彫りになり、危機感を抱いた府は16年の規制条例制定にかじを切っていく。
 府によると、この事件を起こした大阪市内の建設業者は12年10月、府砂防指定地管理条例に基づいて開発を申請。府が許可した。「果樹園の造成」は表向きの目的で、実態は建設残土の搬入だった。当初から届け出の面積や高さを大幅に越えて運び込まれ、約14万立方メートルの残土が積み上げられた。崩落したのはこのうち約9万立方メートル。熱海市伊豆山の土石流で崩れた約5万6千立方メートルを超える規模だった。
 行政の弱腰な姿勢もあぶり出された。府は搬入の中止や早急な是正工事を100回近く求めたとされる。だが、強制力がない行政指導にとどまり、業者は馬耳東風だった。府が土砂撤去の是正命令を出し、開発許可を取り消したのは残土が崩落した後だった。
 「許可取り消しに向けた手続きを進めていた最中に崩落してしまった」。府の担当者は悔やむ。
 伊豆山の土石流でも、熱海市が盛り土を造成した神奈川県小田原市の不動産管理会社に措置命令を出すことを決めながら、最終的に見送った経緯がある。業者の悪質さを認識しながら、行政はなぜ断固とした対応を躊躇(ちゅうちょ)するのか―。
 「これは行政の性(さが)だ」。伊豆山の土石流を受け、静岡県が設置した行政対応検証委員会で委員を務めた関東学院大法学部長の出石稔教授(行政法)は指摘する。「どこの行政組織にも言えるが、法律や条例に処分を行える根拠があっても、私権の制限で相手ともめることを嫌がるため、処分はやりたがらない」
 学習院大法務研究科の大橋洋一教授(行政法)は、盛り土規制法案の審議に関する衆議院国土交通委員会に参考人出席し、「わが国には行政指導文化が根付いている。(処分を出す)基準を整備し、伝家の宝刀はきちんと抜くことが大事」と強調した。
 府は、熱海で大規模土石流が起きる3年前の18年、土砂問題を解決するための全国ネットワーク会議を23府県で発足させたが、静岡県はそのメンバーに入っていなかった。県土採取等規制条例は緩いまま改正されず、伊豆山の盛り土の危険性も住民に知らされることはなかった。
 関わった業者や経営者が最終的に府警に摘発される事態となった豊能町の残土崩落。しかし、奪われた美しい里山の景観は戻らず、膨大な撤去費用は税金で賄われることとなった。
 >大阪・崩落事故の後始末 「13億円」回収めどなく【残土の闇 警告・伊豆山㉘/第5章 繰り返す人災⑤】

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