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真相究明の約束 川勝知事 果たさず 遺族への説明ないまま辞職へ【熱海土石流】

追悼式の直後、川勝平太知事(右)に「真実が知りたい」と訴えた遺族の太田朋晃さん=2023年7月3日、熱海市内  4期目の途中で辞職することになった川勝平太知事が4選を決めた直後の2021年7月に熱海市で発生したのが不法盛り土崩落に伴う土石流だった。川勝県政4期目は、盛り土が適切に規制されずに住民28人が死亡、住宅約100軒が損壊した大惨事に揺れ、復旧や検証作業に多くの時間を割いた。ただ、トップの川勝知事は最後まで職員任せで法的責任を認めず、遺族に約束した真相究明を果たさないまま退任する。
 「真実が知りたい」―。土石流発生から丸2年を迎えた昨年7月3日の追悼式直後、帰り際の川勝知事を呼び止めたのは土石流で太田和子さん=当時(80)=を亡くした長男の朋晃さん(58)だった。「母がなぜ亡くならなければならなかったのか」と真相究明を求め、「真実が分かった上であの地が安全で安心して住める場所に復旧してもらいたい」と頭を下げると、川勝知事は「お約束します」と応じた。

 ◆「職員任せで関心なく」
 あれから9カ月。真相究明の基礎資料となる行政文書の不適切な開示が明らかになり、県議会の求めた行政対応の再検証(内部検証)で検証漏れも発覚した。突然の辞職表明に朋晃さんは「期待しても仕方ないと思っていたが、結局、責任を取らない人なのか」と受け止める。知事が遺族や被災者の前に姿を現したのは年1回の追悼式ぐらいで、地元説明会は職員に任せ切りだった。「知事は熱海土石流にそもそも関心がない」と漏らす県幹部もいる。

 ◆「事務方と一体」
 複数の専門家が県の法的責任を指摘する中、県は「行政対応の失敗」としながら法的責任を認めず、遺族や被災者に損害賠償を一切していない。知事は辞職届を提出した10日の記者会見で土石流に関し「(在任中で)最も悲しかったことだ」と触れる一方、法的責任に関する質問に「事務方と一体だ」と強調し、まともに答えなかった。自宅が全壊した被災者の太田かおりさん(58)は「被災者目線で考えるのが首長の役割。川勝知事には他人事なのかと感じた。次の知事は(被災者と)しっかりと向き合ってほしい」と望む。
 (社会部・大橋弘典)

責任を負わず 「政治家」でない 前山亮吉 静岡県立大教授(政治学) 前山亮吉 静岡県立大教授  社会学者マックス・ウェーバーの言う政治家の三つの資質は情熱、判断力、責任感。川勝平太知事は、特に判断力(状況を読む力)と責任感の資質を欠くことが最終的に確認できた。熱海土石流に関しては責任回避に終始した。結果責任を負わないトップは政治家ではなく官僚に過ぎない。法的責任に正面から向き合わない態度は官僚の行動様式そのものだ。
 「政官関係」の重要要素は官僚へのコントロールと適切な協働にあるが、川勝知事はいずれも不十分。また、関心事やアピールポイントには全力を注いだが、熱海土石流のようなマイナスポイントとなる問題には冷淡だった。次の知事は、適切な「政官関係」を築ける人物が望ましい。

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