テーマ : 熱海土石流災害

伊豆山空撮ルポ 復興、前進と停滞の間で【再生 道半ば 熱海土石流2年】

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 東海道新幹線が停車中のJR熱海駅の上空から北に視線を振ると、不自然に土がえぐり取られた谷と雑草が生い茂った住宅地が目に飛び込んできた。観光客でにぎわう中心街から直線距離にしてわずか1~2キロ。山の尾根を隔てて広がる小さな集落の景色に、距離以上の遠さを感じた。
 28人の命と住民の日常を奪い去った熱海市伊豆山の土石流災害は3日で丸2年。大量の土砂が流れ下った住宅地では、水道やガスなどの復旧工事が急ピッチで進む。9月1日の警戒区域解除と被災者の帰還に向けて、地域は少しずつ前に進んでいるように見える。
 だが、細かく見るとシートや板に覆われた住宅や破壊された家の土台があちこちに残る。逢初(あいぞめ)川の拡幅や市道整備に伴う用地買収は難航し、工事が本格化するのはまだ先のようだ。復興は進むのか-。眼下を眺めながら、やや不安な気持ちになった。
 土石流の起点周辺には、盛り土が積まれた未完成の宅地や法令違反状態の太陽光発電施設があの日と変わらず異様な姿をさらしている。安全安心の確保を求める住民の願いはまだかなえられていない。率直にそう感じた。
 伊豆山の悲劇をきっかけに盛り土の規制強化や法整備は進んだ。しかし被災者は悲しみや不安と今も闘い続けている。分断された地域の再生も、土石流の原因究明も道半ばだ。住民が何を望み、何を訴えているのか。一つ一つ拾い上げていくことが自分たちの使命だ。地域が一歩ずつ前に進むための力になりたい。そんな決意を新たにした。
 (熱海支局・豊竹喬、社会部・大橋弘典、空撮は本社ヘリ「ジェリコ1号」から)

 【写真①第三の盛り土】未完成の住宅地 野ざらし状態 そのまま
 崩落部北東側にうっそうと茂る森林。かつて流域をまたぐ広大な造成地があったが、住宅が建たないまま10年以上前から工事は止まり、排水溝や道路だけが残った。一画にある「第三の盛り土」は擁壁が崩壊し、草木が生えて野ざらし状態。熱海市と県が都市計画法や森林法で土地所有者を指導しているが、改善しない。県が4月に公表した「不適切盛り土」163カ所に、なぜか含まれていない。

 【写真②土石流の起点周辺】土砂撤去代執行で一変
 土石流起点の崩落した盛り土(残土処分場)付近は土砂を撤去する県の行政代執行が昨年10月に始まり、光景が一変した。谷底で重機がどす黒い盛り土を削り出し、ダンプカーが残土を載せて出て行った。整地された右岸と崩落部が残る左岸は対照的だ。県によると、排水施設整備や斜面の緑化を含め8月末に作業が終わる。ただ、土砂量が不明で産業廃棄物が埋まる最上流部の盛り土は残された。

 【写真③太陽光発電施設 写真④第二の盛り土】違法状態続くエリアも
 逢初川上流域で、ひときわ目につくのは太陽光発電施設。平たく整地された尾根に大量のパネルが並ぶ光景は発災時と変わらない。市が土地所有者に指導しているが、宅地造成規制法違反の状態は続く。一方、変化を見て取れるのは同じ尾根沿いの「第二の盛り土」。きれいに整えられ、緑化によって斜面は薄緑色に染まった。投棄された土砂はなくなり、森林法違反の状態は改善されつつある。

 【写真⑤川筋下る途中に新砂防ダム】残存盛り土の崩落に対応  photo03 新砂防ダム  崩落部から下流側に目を向けると集落との間に川筋がはっきりと見え、途中には真新しい構造物が横たわる。土石流の発生前に計画がなかった新砂防ダムで3月に完成した。容量は約1万800立方メートル。既存の砂防ダム(容量約4000立方メートル)も、盛り土崩落で堆積した土砂を取って活用している。上流部に残る盛り土が崩れても「新旧のダムで十分受け止められる」(県関係者)という。

爪痕残るまち 悲しみ、不安との闘い今も photo03   photo03   photo03   photo03
 土石流が流れ下った住宅地は災害対策基本法に基づく警戒区域に指定されていて、原則として立ち入りが禁止されている。熱海市によると6月末現在、217人、124世帯が市内外で避難生活を送っている。半壊以上の認定を受けた住宅の公費解体は63件の申請があり、36件が解体済み。県と市が復旧復興の柱に位置付けている逢初川の拡幅や市道整備に必要な用地買収は約3割にとどまっている。

 

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