テーマ : 熱海土石流災害

熱海土石流「残土の闇 警告・伊豆山」【連載全記事まとめ読み】

 静岡新聞社のキャンペーン連載「残土の闇 警告・伊豆山」は、2021年7月3日に熱海市伊豆山で発生した大規模土石流災害に関し、歴史ある信仰の地だった伊豆山に土砂が盛られていった経緯や土地所有者の業者と行政の〝攻防〟、土石流を目の当たりにした発災当日の住民や行政の動き、犠牲者遺族の苦しみ、復興を目指す被災者らの取り組みなどを全36回の連載で追いました。
 画像をタップ/クリックすると各記事に移動します。
 

序章 子恋の森の叫び

 

残土の闇

①わが子守り 命落とした娘 奪われた「家族の未来」
 「娘は殺された。母親と過ごせたはずの孫の未来も奪われた」。悲しみ、怒り、疑念-。複雑に絡み合った感情は、半年という月日ではとても整理できない。小磯洋子(71)は、ほおを伝う涙をぬぐいながら声を震わせた。母と娘、娘と孫を引き裂…

 

残土の闇

②里帰り中、夫の悲報 40年の歩み 別れは突然
 葉した木々の葉が残る12月中旬、小川慶子(71)は1人で暮らす熱海市伊豆山の応急仮設住宅でスマートフォンを見つめていた。画面に映るのは7月の大規模土石流で犠牲になった夫の徹=当時(71)=と3年ほど前に撮った思い出の一こま。…

 

残土の闇

③母失った悲しみを力に 「人災」確信、闘いを決意
 12月上旬、神奈川県小田原市の市民交流センターの大会議室は超満員だった。同市の有志が企画した危険な盛り土をテーマにした講演会。熱海市伊豆山の大規模土石流で母の陽子=当時(77)=を亡くした瀬下(せしも)雄史(53)=千葉県=…

 

第1章 変わりゆく聖地

 

残土の闇

④平安から続く信仰の場 修験の道、断たれた陰で
 2021年7月3日、大規模土石流に見舞われた熱海市伊豆山。この地は平安時代から山岳修験霊場として栄え、山腹から湧く湯が海岸に向かって急斜面を走るように流れ出ていたことから「走湯山(そうとうざん)」の名でも知られる。多くの修行…

 

残土の闇

⑤消えた「70年前の災害」 「安全なまち」の過去に…
 熱海市伊豆山の集落を流れ下る逢初(あいぞめ)川の流域は走り湯を生むほど急峻(きゅうしゅん)な地形でありながらも、信仰の地として栄えた平安時代からの長い歴史の中で大きな土砂災害や水害に見舞われた記録は少ない。「ここは地盤が強い…

 

残土の闇

⑥戦後に観光都市化加速 開発の波、山林むしばむ
 古くから信仰と温泉で知られた熱海市は戦前の丹那トンネル開通と戦後の高度経済成長という二つの転機を生かし国内屈指の温泉観光都市として大きく成長を遂げた。近代化で首都圏との距離が一気に縮まり、戦前は政財界の重鎮が次々別荘を建て、…

 

残土の闇

⑦始まりは無許可造成 「停止命令」かわし計画継続
 2002年末のある日、熱海市伊豆山の森林で分譲用宅地の造成計画を進めようとする業者A社の幹部を名乗る男=当時(52)=が、静岡県熱海土木事務所に姿を現した。無言で差し出された名刺には「同和」関係団体の肩書があった。職員は、…

 

残土の闇

⑧土地購入男性の構想 リゾートの夢に突き進む
 神奈川県小田原市の不動産管理会社(B社)の男性代表(71)は、リゾート構想の夢を知人に打ち明けるのが好きだった。食事中に割り箸で建築物の模型を組み立ててみせ、熱っぽく解説することもあった。昔から多弁で、「人を引きつける不思議…

 

第2章 赤井谷の“攻防”

 

残土の闇

⑨張りぼてのリゾート構想 違反重ねた末「夢」頓挫
 盛り土が崩落した熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川源頭部は、同地域に立地する別荘地の“北限”に当たる。その先もしばらくは雑木林を縫うように舗装道が続く。ただ路上には折れた木枝や石が散乱し、開発の滞りを物語っていた。さらに進むと…

 

残土の闇

⑩リゾート開発巡り行政揺さぶり 水道施設、交渉の「道具」に
 神奈川県小田原市の不動産管理会社が2006年9月に取得した熱海市伊豆山の約35万坪(約1・2平方キロ)には、伊豆山地区の住民生活を支える水道施設が点在している。高級リゾート構想をもくろんでいた同社は、土地の購入段階からこの重…

 

残土の闇

⑪港に異様な濁り 土砂流出、高まる危機感
大型の台風18号による大雨が峠を越した2009年10月8日の朝。熱海市伊豆山の伊豆山港の周りに、どんよりとした濃い濁りが漂っていた。「泥がばーって広がってた。『何だこれ、すげえな』って」。地元で漁業を営む男性(46)は、仲間…

 

残土の闇

⑫見誤った大崩落のリスク 措置命令、直前で見送り
 神奈川県小田原市の不動産管理会社による違法な盛り土造成は2010年になっても続いた。入れ代わり立ち代わり複数の業者が木くずや廃棄物が混ざった土砂を運び込んだ。当時、本庁の森林部局や東部農林事務所にいた県職員は「県も熱海市も、…

 

残土の闇

⑬県と市の緩い法令適用 大規模開発と判断せず
 熱海市伊豆山で崩落した盛り土。その北側で進められていた宅地造成地も一体的な大規模開発と県や市が判断していれば、より強い規制が適用され、盛り土が造成されることはなかったかもしれない-。そんな見方がある。大規模開発と判断できなか…

 

第3章 放置された10年

 

残土の闇

⑭防災工事、未完のまま 所有権移転で監視緩む
 熱海市伊豆山の大規模土石流の起点となった盛り土と周辺の開発に関する公文書は4千ページを超える。大半は盛り土造成計画を届け出た神奈川県小田原市の不動産管理会社と行政のやりとりで、法令違反を繰り返す同社に苦悩する行政の姿が浮かび…

 

残土の闇

⑮“山林王”の利用策 市に無償貸与実現せず
 熱海市伊豆山の盛り土崩落現場を含む土地の所有権は2011年2月、売買契約により、造成した神奈川県小田原市の不動産管理会社から事業家の男性(85)に移行した。男性は一帯で50万坪以上所有しているとささやかれる。山林王―。現所有…

 

残土の闇

⑯現所有者、住職の顔 信心期待も対策進まず
 後に崩落することになる熱海市伊豆山の盛り土付近一帯を購入した事業家の男性(85)は、近隣に寺院を建立し、県内にある他の寺院でも住職を務めている。住まいは県外だが、足しげく自らの寺院に通ってきた。取材に「信仰がなきゃできない…

 

残土の闇

⑰相次ぐ無届け開発 行政指導は再び後手に
 熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川源頭部で崩落した盛り土から南に300メートルほど離れたエリアにある太陽光発電施設と森を切り開いた平地。どちらも土地の所有権が事業家の男性(85)に移ってから開発された。行政の対応はここでも後手…

 

残土の闇

⑱開発に“お墨付き” 雨水流入を市も軽視か
 水や湯が豊富で、急峻(きゅうしゅん)な地形の山肌を湯が勢いよく流れることから「走り湯」の言い伝えも残る熱海市伊豆山。逢初(あいぞめ)川の源頭部は、地形や歴史を重んじているとは言いがたい開発が行われ、さらに水が集まりやすい地形…

 

第4章 運命の7・3

 

残土の闇

⑲危機感と楽観のはざまで 見送られた「避難指示」
 窓の外は激しい雨が降っていた。2021年7月2日午前、熱海市役所の会議室。斉藤栄市長はある決断を迷っていた。避難指示を出すべきか、このまま状況を見守るべきか-。そして、この部屋にいた誰もが、翌日の悲劇など想像していなかった…

 

残土の闇

⑳午前10時28分 第一報 直感「あれが崩れたか」
 7月3日朝、熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川上流域では道路に泥水があふれ、町内会役員が土のう積みに追われていた。市は午前9時ごろ、静岡地方気象台から「雨は小康状態になるが、既に土砂災害の危険性が高い状態にある」と厳重警戒を…

 

残土の闇

㉑発生から25分後の衝撃 街襲う黒波「地獄絵図」
 熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川源頭部から流れ下った土石流は、約1・3キロ下流の市道伊豆山神社線の手前でいったん止まったかのように見えた。しかし、避難誘導していた消防団員の耳に飛び込んだのは住民の悲鳴。山を見上げると、黒い土…

 

残土の闇

㉒突然迫る 生と死の「境」 下流域へ新たな大波
熱海市伊豆山の逢初川上流域で大惨事が起きていたころ、数百メートル下流の多くの住民は、まだその事実を知らなかった。SNSで映像が拡散され、社会に衝撃を与えた午前10時55分の大波は、そのまま一気に海まで流れ下ったわけではなく、…

 

残土の闇

㉓助かったはずの命 迷いと混乱の果てに…
 熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川源頭部に端を発した黒い土砂の波は、集落を襲い続けた。伊豆山が阿鼻(あび)叫喚の現場と化す中、市役所には親族や知人の安否を気遣う問い合わせが全国から殺到していた。だが、現地の被害情報は断片的にし…

 

第5章 繰り返す人災

 

残土の闇

㉔土砂は神奈川から 規制緩く「捨て賃」に差
 「伊豆山赤井谷残土処分場」。大規模崩落によって土石流を引き起こし、熱海市伊豆山の集落をのみ込んだ「盛り土」は県や市の行政担当者の間でこう呼ばれていた。残土は工事で発生する土砂。残土処分場には2009年から10年にかけて膨大な…

 

残土の闇

㉕首都圏発展の陰で 副産物、条例逃れ地方へ
 東京に隣接し、ベッドタウンとして発展してきた千葉県市川市。江戸川河口に広がる平野の一角、ダンプカーや大型トラックが音を立てて行き交う湾岸道路沿いに小高い丘がある。木々がうっそうと茂る標高37メートルの山は地域名を冠して「行徳…

 

残土の闇

㉖違反“やり得” 追跡限界 矢面に立つ東部市町
 未舗装の細い道を進むと、木立の奥に高さ十数メートルの残土の壁が見える。今月1日、富士山麓の富士市大淵。重機を操作する作業員は、訪れた市職員を「依頼されているだけ。何も分からない」とあしらった。市職員は「捜査権限のない僕らをな…

 

残土の闇

㉗2014年大阪の「事件」でも… 「行政の性」宝刀抜けず
 残土に関する国や県の規制強化が進まず、県内では東部の市町が独自に悪質な業者との対決姿勢を強めていた頃、大阪府の小さな町で「事件」が起きた。2014年2月、府北部に位置する豊能(とよの)町で、府道沿いに盛られた大量の土砂が崩…

 

残土の闇

㉘大阪・崩落事故の後始末 「13億円」回収めどなく
 大阪市旭区の幹線道路沿いに立つ茶色いマンション。この一室が、大阪府豊能町で2014年に建設残土の崩落事故を起こした建設業者の所在地になっている。インターホンを押しても反応はない。管理会社に問い合わせると、「個人しか入居してい…

 

残土の闇

㉙政府・国会の不作為 法規制 教訓生かせるか
 熱海市伊豆山の大規模土石流を踏まえ、2022年5月に国会で成立した盛り土規制法が審議されていた4月1日の衆院国土交通委員会。建設残土による不適切な盛り土造成が各地で相次ぎながら、全国一律の法規制をしてこなかった国の責任を野党…

 

第6章 逢初川と共に

 

残土の闇

㉚異なる境遇 擦れ違う思い 「分断」に苦しむ被災地
 “あの日”から、毎月3日は熱海市伊豆山にとって特別な日になった。土石流が流れ下った逢初(あいぞめ)川流域。地元住民や被災者らは犠牲者を悼み、悲劇が繰り返されないように祈る。しかし同時に、境遇が異なる人々の心理的な隔たりが浮き彫…

 

残土の闇

㉛警戒区域の内外で 帰るべきか自問の日々
 熱海市伊豆山の国道135号に架かる逢初(あいぞめ)橋。2021年7月3日、逢初川源頭部から流れ下った土砂やがれきは約1・7キロ下流にも襲いかかった。逢初橋の周辺には生々しい爪痕が今も残る。そのわずか15メートルほど脇に今井秀…

 

残土の闇

㉜行政と被災者に隔たり 対話乏しく描けぬ復興
 「こんなの納得できない。計画の中身が空っぽだ」。5月下旬、市役所で開かれた熱海市伊豆山の土石流災害に関する伊豆山復興計画検討委員会。復興の方向性を示す市の基本計画案に対し、委員の1人で被災者の中島秀人さん(53)は憤った。市…

 

残土の闇

㉝“分断”克服するには 主体は住民、尽くす議論
 災害は生命財産を奪うだけでなく、時に地域を分断する。被害の重さや世代、家族構成などによって復興の考え方は違い、住民が一方向にまとまって歩み出すのは容易ではない。大災害を経験した地域は苦悩とどう向き合ったのか。ヒントを求めて熊…

 

残土の闇

㉞心の復興目指して 人々の思い、点から線へ
 梅雨の晴れ間がのぞいた6月中旬、熱海市立伊豆山小の教室で山本直子養護教諭は児童に問いかけた。「みんなの心は今、何色ですか」。ピンク、ブルー、半分半分。思い思いの答えが飛び交う中、こう続けた。「7月が近づき、暗い気持ちになる…

 

終章 めぐる7・3

 

残土の闇

㉟無責任体質に被災者憤り 熱海土石流1年 関係者核心語らず
 災害関連死を含めて27人が死亡し、1人が行方不明になった熱海市伊豆山の大規模土石流は3日で発生から1年。逢初(あいぞめ)川上流の盛り土(積み上げた残土)が崩落して下流の集落を襲った未曽有の「人災」。盛り土の現旧土地所有者や…

 

残土の闇

㊱熱海土石流1年、現場は今 理不尽な悲劇、それでも前へ
 3日午前10時28分。あの大規模土石流の発生から丸1年が経過したことを告げるサイレンが熱海市内に鳴り響いた。最愛の人への追悼、理不尽な悲劇や進まない復興への怒り、そして地域再生への決意-。流された家の土台や泥がかぶったままの…

 

いい茶0

熱海土石流災害の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞