テーマ : 熱海土石流災害

熱海土石流巡り判読不明だったカラー文書分析 土石流災害に詳しい技術士・坂本学さん 分水嶺開発で集水域拡大

 熱海土石流を巡り、静岡新聞社の指摘を受けるまで判読不明だったカラーの県行政文書の開示によって、盛り土造成前の乱開発の実態が明らかになってきた。伊豆大島の土石流災害の調査に携わった技術士(森林土木)の坂本学さん(60)に文書の分析を依頼し、熱海土石流の原因や教訓を聞いた。

分水嶺の乱開発が盛り土崩落に影響したと指摘する坂本学氏=東京都
分水嶺の乱開発が盛り土崩落に影響したと指摘する坂本学氏=東京都

 -カラー写真などから、土石流の起点付近に浸透枡とみられる集水用の穴が造られていたと分かった。
 「驚いた。普通は、こんな崖っぷちに浸透枡を造らない。地中の水圧が上がって斜面が緩くなって崩れやすくなる可能性がある。地中に浸透した水がどこに流れたのか行き先が分からないのも気になる。標高の低い逢初(あいぞめ)川(源頭部左岸)に流れた可能性は十分ある」
 -なぜ、問題なのか。
 「例えば、由比(静岡市清水区)の地すべり対策は、斜面に井戸を掘って水を抜き、斜面を崩れにくくしている。崖っぷちに浸透枡を造ると井戸に水を注入するのと同じで地すべり対策と逆の効果をもたらす」
 -約20年前に設置された穴が今も影響するのか。
 「後から穴を土砂で埋めても水の通り道は残る。土石流発生後、(約20年前の)分水嶺(れい)付近の開発行為が盛り土崩落の一因になった可能性があると県に情報提供したが、県から反応はなかった。判読できなくなっていた行政文書から、開発状況の分かる情報が出てきたことは極めて重要だ」
 -県の開示した文書からは何が読み取れるか。
 「浸透枡の集水域は工事(分水嶺をまたいだ無許可開発区域)のエリアを前提にしているようだが、集水を想定していない工事エリアの上流からも水が流れ込んでいたのではないか。(土砂流出を是正させる)防災工事の完了届が開示文書にないのは不思議だ。そもそも県が鳴沢川を埋める開発(無許可開発区域の下流側)を認めたことが根本的な問題で、川筋が埋まり水の行き場がなくなった」
 -新たに開示されたカラー写真から分かることは。
 「『雨水流出部』のカラー写真は逢初川源頭部左岸の谷の斜面に土砂が流出しているように見える。2003年の時点で鳴沢川の水が地上や地下から逢初川に流れ込み、分水嶺をまたいだ開発行為が河川争奪(水が隣の流域に流れる)を助長させたのではないか。数百年単位でみれば侵食が進み河川争奪が自然に起きた場所。浸透枡による排水処理が河川争奪の引き金を引き、後に盛り土が造成された谷の集水域が広がったと言える。03年の土砂崩れの時点で危なくなっていた」
 -河川争奪の起きやすい場所に、対策を講じていない盛り土を造成させるべきではなかったのでは。
 「盛り土(単に積み上げた土砂)は水や大地震がなければ崩れない。谷を埋めるのであれば、水が集まる周囲の状況もしっかり確認し、盛り土内部の排水処理や斜面への擁壁設置などで安定化を図る必要がある。ただ、開発がなくても、両流域の標高差などの集水地形を考慮すれば、規模に関係なく盛り土を規制すべきだった。盛り土周辺の集水域の確認は非常に重要であり、新たな盛り土規制法でもさらに強化すべき点だ」
 (聞き手=社会部・大橋弘典)

 さかもと・まなぶ 治山や林道の調査、測量設計などを請け負う森林調査設計事務所(東京都)の調査部長。伊豆大島で2013年に発生し、39人が死亡・行方不明になった土石流の復旧計画調査も担当した。

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