テーマ : 熱海土石流災害

河川、市道の用地買収途上 復興へ 対話望む被災者【9・1警戒区域解除 熱海伊豆山㊦】

 熱海市伊豆山で2021年7月3日に発生した大規模土石流から1カ月半後、被災地に設定された立ち入り禁止の「警戒区域」。その範囲は土石流の起点になった逢初(あいぞめ)川源頭部から伊豆山港脇の河口にかけての延長2キロに及ぶ。忌まわしい土砂は撤去され、約2年ぶりの警戒区域解除を目前に控えるが、復旧復興のまちづくりは思うように進んでいない。

警戒区域解除を控える大規模土石流の被災地。復旧復興はこれから本格化する=25日午前、熱海市伊豆山(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
警戒区域解除を控える大規模土石流の被災地。復旧復興はこれから本格化する=25日午前、熱海市伊豆山(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)

 今年3月に国が逢初川の上流部に砂防ダムを完成させ、今月26日には県が源頭部の不安定土砂を撤去する行政代執行を終えた。避難生活を送る112世帯のうち、帰還希望は41世帯。早期の宅地復旧が求められる一方、24年度末を目標とする県の河川拡幅と、市の道路整備は完了が見通せず、先行きが不透明な状況となっている。
 市の復興まちづくり計画などによると、県が逢初川中流の600メートル区間で河川改修を実施する。30年に1度の大雨に耐える河川を念頭に、川幅は大きいところで現在の2倍以上になる。流木や土砂のつまりを防ぐため、地下水路の暗渠(あんきょ)部分を減らし、維持管理がしやすい開放水路の部分を増やす。河川拡幅に併せ、市が両岸に幅4メートルの市道を整備する。計画通りに進めば、必然的に住宅の用地は減ることになる。
 事業化に当たり県市の大きな壁になっているのは、被災者でもある地権者からの用地買収だ。「そもそも天災ではなく人災」「対話が足りない」―。一部被災者の間では市と県への不信感が根強く、用地買収が没交渉の状態に陥っているケースもある。必要な用地の買収は面積ベースで県が3割、市が4割にとどまる。
 河川拡幅と市道整備の先にある宅地復旧を巡り、市は宅地を買収・分譲する方式から、被災者自身が行う宅地復旧の費用の9割を補助する制度に変更した。ところが、十分な説明もなく進められた制度変更に被災者や議会から「唐突だ」との批判が噴出し、市は予算案の削除に追い込まれた。
 業を煮やした被災者有志と専門家が今月中旬、河川の暗渠部を増やすなどして用地買収を最小限に抑える同計画の改訂案を発表した。斉藤栄市長は直後の定例記者会見で、改訂案について「変更が必要な点があれば変更する。今の時点でやる、やらないは申し上げられない」と述べ、あくまでも現計画への理解を求める考えを強調。県の佐藤芳健熱海土木事務所長も取材に「計画に納得してもらえるよう丁寧に説明する」と答えた。市と県は9月、改めて地元説明会を開く予定だ。
 「もう2年たった。伊豆山をこのままにしておけない」。自宅が全壊し、改訂案策定にも携わった太田かおりさん(58)は切ない表情を浮かべる。「今からでも被災者一人一人と向き合い、何を考え、何を望むかをくみ取ってもらいたい。市と県だけの復旧復興ではなく、一緒にやりたい。私たちの街なのだから」。
 一日も早い復旧復興を願う気持ちは被災者も行政も同じ。歩み寄りと対話による合意形成が伊豆山のまちづくりには欠かせない。
 (政治部・豊竹喬、熱海支局・鈴木文之が担当しました)

いい茶0

熱海土石流災害の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞