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伊豆山復興にスピード感を 熱海土石流「忘れないで」 被災者、風化懸念【静岡県知事選】

 2021年7月に大規模土石流が発生した熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川流域。大型連休中も平日を中心に復旧復興工事が行われ、物々しい重機と作業員の姿が見られた。流された家屋の跡地には草が生い茂り、沿道の人通りはまばら。被災地には、大勢の観光客で華やぐJR熱海駅前や温泉街とは対照的な光景が広がっている。

発災から2年10カ月がたつ土石流の被災地。復旧復興は道半ばの状態が続く=5月初旬、熱海市伊豆山
発災から2年10カ月がたつ土石流の被災地。復旧復興は道半ばの状態が続く=5月初旬、熱海市伊豆山

 経営する製麺所兼自宅が被災した中島秀人さん(55)は被災地の現状を「まるで廃虚街のよう」と表現する。製麺所を市内の別地区に移転し、避難生活を経て3月に自宅に帰還した。自宅前でこれから本格化する復旧復興工事の影響で、再び自宅の出入りが困難になるほか、水道管の敷設替えを余儀なくされる恐れがある。中島さんは「復旧復興にスピード感が足りない」と語気を強める。
 発災から2年2カ月後の23年9月、市は逢初川流域に設けていた立ち入り禁止の「警戒区域」を解除。以降、被災者の帰還が可能になった。ただ、県の河川工事と市の道路整備が完了するのは26年度末で、当初計画より2年遅れる。事業に必要な用地買収は県が5割程度、市が7割程度にとどまる上、鉄道をくぐる一部工区でJRとの協議に時間を要しているためだ。
 市によると、一時132世帯227人を数えた避難住民のうち、旧警戒区域内で生活を再建した帰還者は21世帯45人(4月20日現在)。一方、伊豆山以外の市内再建が54世帯77人、市外再建が20世帯34人に上る。
 土石流で妻の路子さん=当時(70)=を亡くした田中公一さん(74)は長期化が予想される復旧復興工事を「待てなかった」として、全壊した自宅跡地での再建を諦め、被災地近くの別の場所に家を建て直した。「工事が長引けば長引くほど、伊豆山への帰還者は減るだろう」と危惧する。
 「土石流は徐々に風化している気がする。被災地のことを忘れないで」。被災地を見渡す高台に自宅がある小松こづ江さん(74)は切実な思いを口にする。土石流で半壊した自宅の擁壁工事に加えて、隣接する市道の整備が進行中で、今も神奈川県湯河原町で避難生活を強いられている。
 「選挙の時に『復旧復興を頑張ります』と言う政治家は多い。言葉だけではなくて、日頃から被災者の声をくみ取って対応してもらいたい」。小松さんは行政トップに「発言を守る誠実さ」を求めている。
 (熱海支局・鈴木文之)  ◇  知事選が26日投開票される。候補者からは聞こえのいい前向きな政策が連呼される一方で、地域に暮らす有権者の声は政治に届いているだろうか。届け―。県政課題が横たわる現場の声を聞いた。
 <随時掲載します>

 <メモ>2021年7月3日午前10時半ごろ、熱海市伊豆山の逢初川源頭部の盛り土が崩落し、大量の土砂が流域の住宅街を巻き込んで流れ下った。犠牲者は災害関連死を含め28人。遺族や被災者が土石流の起点となった土地の現・旧所有者や熱海市、県を相手取り訴訟を起こしている。

 ■政党公認、推薦候補者に聞きました(届け出順)
 熱海土石流の発生から7月で3年を迎える。伊豆山地区の復興は半ばだが、知事としてどう取り組むか。

 森大介氏(共産公認) 想定外の災害に対し、素早い復興ではなく、あくまでも住民の声をきき、住民の合意の下で復興を進める。市の復興計画を県は全面的支援する。

 鈴木康友氏(立民、国民推薦) 県市一体となって、早期の復興を目指して取り組む。そのため熱海市が策定した復興基本計画やまちづくり計画を、県として積極的に支援していく。また、住民の皆さんの声が一番重要なので、伊豆山地区の住民の方々のご意見や声を大切にし、各所と連携した市街地整備や河川改修を進める。

 大村慎一氏(自民推薦) 河川改修など復興の取り組みの遅れは地域住民との対話不足にある。優先すべきは皆さんが愛着ある地域で住まいを確保し、将来に希望を持って歩み出せる環境を整えること。自然災害を念頭においた災害救助法などの枠組みにとらわれず、何ができるのかとの視点で対話し、市と問題解決にあたる。

 

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