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水俣病罹患8割認めず、熊本地裁 症状主張も厳格判断、原告控訴へ

 水俣病特別措置法に基づく救済策の対象外となった144人が水俣病の症状を訴え、国などに損害賠償を求めた訴訟で、請求を退けた22日の熊本地裁判決は、原告の約8割の罹患を認めなかった。民間医師による診断書の所見だけでは信用性に乏しいとして、公的検診などで同様の症状が現れている必要があると厳格に判断した。原告側は控訴する方針。

水俣病特別措置法に基づく救済策で対象外となった人たちが国などに損害賠償を求めた訴訟の判決で請求が棄却され、熊本地裁前で「すべての水俣病被害者の救済を」と訴える原告側の弁護士ら=22日午前
水俣病特別措置法に基づく救済策で対象外となった人たちが国などに損害賠償を求めた訴訟の判決で請求が棄却され、熊本地裁前で「すべての水俣病被害者の救済を」と訴える原告側の弁護士ら=22日午前

 品川英基裁判長は判決理由で、長年水俣病の診療に当たってきた民間医師が策定した「共通診断書」に関し「一律に信用性は否定されないが、他の検査等との整合性を踏まえて慎重な検討を要する」と指摘した。
 その上で、主要症状の感覚障害に関する検査は被検者の主観に頼らざるを得ず、所見の変動があるとして、多角的観点からの評価が望ましいと強調。「共通診断書の提出のみでは一貫性、再現性が確認できず、感覚障害を認めることができない」と結論付けた。
 損害賠償請求権の消滅を巡っては、水俣病の潜伏期間はメチル水銀暴露からおおむね10年以内と指摘。不知火海(八代海)へのメチル水銀排出が停止されたのは1968年だった。罹患した原告25人は既に20年の除斥期間は過ぎたと判断した。
 原告全員を水俣病と認定した昨年の大阪地裁判決は、共通診断書の所見の信用性を認めた上、除斥期間の起算点は民間医師の診断時としていた。
 2009年の特措法成立に関わった蒲島郁夫知事は取材に「今後とも公害健康被害補償法に基づく認定審査を丁寧に進める」とコメント。25人が水俣病と認定されたことには、個別の判決内容を見ないと判断できないとした上で「お答えは差し控えたい」と述べるにとどめた。

 除斥期間 法律上の権利を使わないまま過ぎると自動消滅する期間。公害や薬害を巡る訴訟の争点になってきた。旧民法724条は、不法行為に対して損害賠償を請求する権利は、行為から20年で消滅すると定めていた。2020年4月施行の改正民法では、進行が止まることもある時効に統一され、被害救済の側面からはやや緩和された。ただ、改正前の事案には適用されない。

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